第159話:為す術なし
「うう~、陽介ぇ~~」
家へと帰り、夕食宿題その他諸々を済ませた私は、スマホ越しに陽介へと泣きついていた。
「何か、私の名前と顔が変な感じで広まってるんだけどぉ~~?!」
深山君をフッてから、一週間とちょっと。体育祭というお祭りが終わった直後から少しずつ増えていたらしい興味本位での私への視線は今、看過しがたいレベルへと達していた。
噂話の中の一人物として遠くから見られているくらいであれば、まだ我慢できる。厳密に言うと身バレ防止の観点からは全然全くこれっポッチも良くはないのだけれど、我慢はできる。
だがしかし、本日の出来事はよろしくない。わざわざ遠く離れた私の教室まで足を運び、その中を檻の中の珍獣を探すが如くチラ見までし、挙句の果てに「おぉ~、本物だ!!」はあんまりだろう。
「う、うぅ~む・・・」
スマホの向こう側で、陽介も苦心しているようである。深山君の告白の件については把握しつつも、事を大きくしないよう敢えて静観していたらしい陽介からしても、今回の出来事は予想外というか何というか。
「これ、マジでどうすっかなぁ・・・」
思春期の少年少女たちにとって、身近な人物の告白とか恋愛話とか、そういったものは格好の話のネタとなる。学校に行って家へと帰ってと同じような毎日を繰り返す私たち学生にとって、この手の話は日常の中での非日常を体験させてくれる安価で都合の良いエンターテイメントなのである。
だからまあ、本当にどうしよう・・・。甲山さんの言う通り良い感じのホットな別の話題でこの件が流れない限り、私への無遠慮な視線は暫くの間続きそうなんだよなぁ・・・。
「てか、告白自体は他にもあったんだし。何なら成功した告白だってあったんだから、そっちの方が盛り上がるべきでしょ!!」
八つ当たり気味にそう叫んでみるけれど、ただただ虚しくなるばかり。私が知らないだけで私以外にも似たような被害者はいるかもだし、あぁもう・・・。
「陽介ぇ~。何か、何か良い案は?」
「・・・・・」
「陽介ぇ~~」
「・・・・・」
運動ができて頭もよくて人当たりもよくて、そんなスーパーマンな陽介はウンウン唸るだけ。うむ、流石の陽介でも厳しいか・・・。
「知美たちは、何て言ってるんだよ?」
「え、ともちゃん?ともちゃんたちは嵐が去るまで大人しくしとけって・・・」
「そ、そっか・・・」
まあ、実際問題、今日みたいに声まで掛けてくるノンデリな人は少数派だろうし。あと少しで夏休みだし・・・。
「もうすぐ期末試験もあるし、そこまで長くは続かないと思うからさ」
あっ、そっちもあったね・・・。
「とにかく、暫くの間は絶対に一人で行動しないこと。知美でも甲山さんでも、タイミングが合えば俺でもいいし」
「うん・・・」
「じゃ、そんな感じで」
あっさりと、通話は切られてしまった。
「まあ、期末も近いし、陽介も忙しいだろうしね・・・」
私は手に持っていたスマホを置き、壁に掛かった時計へと視線を向ける。
「もう少しだけ、勉強しとくか・・・」
私は頭の中を埋め尽くすモヤモヤを振り払うように顔を振ると、机の端に置かれた参考書へと向き直るのだった。