第158話:広がる名前と顔
最近、他のクラスの男子たちからの視線を感じることが多い。それも特定の一人からではなくて、複数の人物から。
自意識過剰なんじゃないかって思われるかもだけれど、多分違う・・・。私は身バレに怯えるあまり他人からの視線には敏感であり、それ故に今回の出来事に頭を抱えていたのである。
「どうしたの?」
「いや・・・」
授業合間の短い休憩時間、トイレへと向かっていた私と甲山さん。擦れ違いざまに私の顔を凝視してきた男子二人組に何とも言えない不快感を抱きながらも、私は言葉を濁す。
「あれが?」
「そうそう」
「深山の?」
「そうそう。確かFクラスの・・・」
背後から、先程の男子たちの声が聞こえてくる。トイレの入り口を潜る瞬間にチラッと視線を向けると、慌てたように顔を逸らし遠ざかっていく二人組の姿が・・・。
「「・・・・・」」
どうやら、彼等の会話は甲山さんにも聞こえていたようである。
「もしかしてだけど、この前の告白のせいかも」
「え?」
「さっきの二人、サッカー部なんだよ」
「あぁ~、なるほどね?」
トイレをサッと済ませ、私たちは足早で教室へと向かう。
「部活中になんだけどさ、深山君、男子たちに取り囲まれて告白の件で揶揄われててさ」
「お、おぅ・・・」
「それで当然、告白相手である夏姫ちゃんの名前も上がってるんだけど。ちっさくて可愛いとか、ロリとか」
「・・・・・」
それは、ちょっとマズいかも?
「勿論、四六時中その話題ってわけじゃあないんだけど。でも、直近で一番イジりやすい話題だし、私も多少は仕方ないかなって」
「・・・・・」
「それを無理矢理止めるのも不自然だし、次のホットな話題に流れるまでの辛抱かなって」
「・・・・・」
私たちも、例えば上月先輩の話とかするし、確かに仕方ないといえば仕方ないのだけれど。でも、マズいんだよなぁ・・・。
「まあ、あと一月もすれば夏休みだし、その頃には別の話題に移ってるって」
「そうかなぁ~」
「大丈夫大丈夫!心配ない心配ない!!」
「・・・・・」
サッカー部には峰島中学時代の元クラスメイトである内田君もいるし、下手に興味持たれると良くない気がする。ただでさえ深山君に顔を覚えられてヒヤッとしてるのに。
「おっ、あのちっちゃいのがそうじゃね?教室にはそれっぽいのいなかったし」
「へぇ~、思ってたよりも可愛いじゃん。深山の奴、ガチだったんだな」
あと少しで教室という所で、またしても聞こえてきた男子たちによる会話。てか君たち、もしかしてわざわざこんな端っこの教室まで私を見にきたの?!
「あの、えぇと、君がヒイロさんですか?」
「・・・・・。そうですけど・・・」
「おぉ~、本物だ!!」
「・・・・・」
彼等が私に向ける目は、檻の中にいる珍獣を見るそれに似ていた。
「急に呼び止めてゴメンね?ちょっと噂の人物を見てみたくてさ」
「俺たち教室が遠くて、中々会えないから」
ヘラヘラとした態度のまま言うだけ言って、彼等は去っていった。そんな彼等の様子を甲山さんは呆れた様子で眺めながら、小さく呟く。
「あれ、サッカー部じゃないな・・・。Aクラスの男子でもなかったし・・・」
深山君をフッた女として、密かに名前が広がっているらしい私。そんな私は死んだ目をしながら自分の席へと向かい、椅子の上へと崩れ落ちるのだった。