第157話:理想と現実
今から約一週間前に行われた体育祭、その終わり際に今年の実行委員たちによって引き起こされたとある騒動。聞いた話によると、その騒動の最中に複数のカップルが誕生したのだとか。
ちょっとしたイタズラというか、お茶目なイベントについては先生たちによって黙認されつつ、一種の伝統として手を変え品を変え長い間続いていたらしいのだけれど、今年はついにその成果が実ったらしいのだ。
そんな情報を誰からともなく聞いていた私は今、いつもの五人で集まって昼食を食べていた。因みに今日のメニューは何と、面倒臭かったからスーパ―で予め買っておいた総菜パンとお茶だけです。母さん父さん、ゴメンよ・・・。
「私が知っているだけでも、三組のカップルが成立したらしいわ」
「「「「おぉ~~!!」」」」
私と同様に総菜パンを齧りながら、甲山さんが語っている。へぇ~、三組も成立したんだぁ~。
「因みに、不成立だった告白は三十件越えよ?」
「「「おぉ~~」」」 「・・・・・」
そ、そっかぁ・・・。三十件越えかぁ・・・。
「いやまあ、あれは仕方なかったと思うよ?」
「そうそう。まさか、深山のヤツがなっちゃんに告白するなんてさ」
四人の視線が、私へと集中する。
「それにしてもなるほど。深山の好みは、ロリか」
「「「「・・・・・」」」」
「うむ」
「「「「・・・・・」」」」
客観的に見ても、私は小さい。身長は勿論そうなのだけれど、お胸も小さい・・・。
加えて顔も童顔というか、お尻だけは何故か他の部位を置き去りにして成長してるんだけどなぁ・・・。
「いやまあ、なっちゃんは普通に可愛いからさ」
「そうそう。何ていうか、見た目がピュアだから」
いや、別にフォローとか要らないんで。
「フォローっていうか・・・。夏姫ちゃんは多分、男子から見て擦れて見えないんだろうね」
「そうだねぇ~。私から見てもなっちゃんは一番女の子っぽいっていうか、可愛らしいっていうか」
・・・・・。
「男子の中にはさ、理想の女子像ってのがあるわけじゃん?ルックスだけじゃなくて、内面的な意味で」
「それに一番近いのが、夏姫ちゃんて気がする。言葉遣いも丁寧だし、ガサツさが無いっていうか、いいお嫁さんになれる気がする」
かつて、陽介は言っていた気がする。男は女の子を守らなきゃいけないんだって、そうお父さんに言われたって。女の子は男よりも弱いから、だから男が強くならなきゃいけないんだって。
それもあってか陽介は、ともちゃん含め女の子には優しく接していた気がする。小学生の低学年時くらいまでは・・・。今ではともちゃんへの接し方はだいぶ雑だし、明らかに面倒臭そうな顔してるけど。
因みに私は一般的な女の子よりも小柄で非力だったから、寧ろ女の子たちから優しくされていた気がする。周りの男子たちは陽介以外は年相応の暴れん坊だったから、気が付いたらいつも女の子たちに囲まれていたのだ。
「あとはまぁ~、なっちゃんは大人しそうだしねぇ~」
「そうだねぇ~。押して押して押しまくれば、イケちゃいそうに見えるのかもねぇ~?」
ニヤリ、と、眞鍋さんはその口元を歪める。
「でも、その割にはノータイムで告白断ってたし。しかもその理由が、男子には興味ないんでって・・・」
いや、それは・・・。
「なるほどねぇ~。それはつまり、百合か・・・」
「うむ。百合だな・・・」
いや、そういうわけでは・・・。あとともちゃん、何で頬を染めてこっち見てるんすか・・・。
「告白の断り方としては、新しいのかな?いやそうでもないのかな?」
「告白を断るのなら、他に好きな人がぁ~ってのがやっぱ無難なのかなぁ~」
その後も私たちの談笑は続き、短い昼休み時間は過ぎていく。そんな中で廊下側から密かに向けられる視線に、この時の私は気付くことができなかった。