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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第八章:一方通行の恋
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第156話:現状

 何やかんやと楽しかった週末が終わり、いつも通りの月曜日がやってきた。小さな欠伸を零しながら家を出た私はともちゃんと合流し、そのまま目的地へと向かう。


「おはよう、ともちゃん」

「うん、おはよう。ふぁ~あ。今日も眠いねぇ~」


 辿り着いたその場所は、既に多くの人影で埋め尽くされていた。その人影の中に深山君の姿を目敏く捉えた私は無言のままそっと柱の陰へと移動し、彼の視線から身を隠す。


「何やってるの?」

「いや、何って・・・」


 胡乱気な視線を向けてくるともちゃんに対し、私は小声で返す。


「この駅を利用しているのってさ、よくよく考えなくても峰島中学出身の人だけなんだよね。だから、見られるとマズいかなぁ~ってさ」

「え、今更?!」


 ともちゃんが言うように今更な話ではあるのだけれど、この駅を基点に各高校へと向かう学生たちは当然ながらこの駅周辺に住居がある。そしてこの周辺に住む学生たちは特別な事情がない限り、学区の関係で峰島中学に通っていたハズなのである。

 中学生の時は身バレ対策として従妹である雪ちゃんの家でお世話になり、峰島中学時代の元クラスメイトたちとの接触を可能な限り排除した。しかしながら私は今実家暮らしであるため、どうしても元クラスメイトたちとの接触機会が増えてしまう。


 身バレ防止を第一に考えるのであれば、中学時代同様に雪ちゃんの家から高校へと通う選択肢もあった。それ以前に、名前を夏姫ではなくもっと別の名前にするという選択肢もあるにはあった。

 だけれども、名前の件は母さんたちが泣きそうな顔をしたため断念。夏樹の樹の文字を姫に変えるだけに留めた。住居にしても、ここから更に三年間雪ちゃんの家でお世話になるのは気が引けるし、それに加え母さんたちが寂しがっていたのでこちらも今の形に落ち着いた。


 一応、もっとも懸念されていた峰島中学時代の元クラスメイト女子への身バレとそれに伴う様々な諸問題については、幼馴染であるともちゃんとその親友である眞鍋さんの協力によってある程度何とかなる予定ではあった。

 実際に、同じ高校へと進学した甲山さんと木下さんについては早いタイミングで情報の共有がなされ、今のところ大きな問題にはなっていない。元々ともちゃんと眞鍋さんは彼女たちと仲が良かったこともあり、スムーズに協力を得ることができたのである。


 一方で、男子たちについては陽介が動いてくれている。陽介は元クラスメイト男子である深山君と内田君が所属するサッカー部に仮入部したり、登下校の時もなるべく彼等と行動を共にし、私に意識が向かないよう動いてくれている。

 現に今も、陽介は駅中で深山君たちと談笑している。それは私のためだけというわけではないのだろうけれど、結果的に私へ意識が向かう可能性は低くなるし、私は私で女子のグループ内に埋没することで更に接触リスクを下げることができる。


 とはいえ、それでも不安が尽きることはない。如何せんこの前の告白騒動で、私の顔は深山君にガッツリ認識されてしまっているからだ。

 今までであれば、私は深山君にとって偶に駅周辺で擦れ違う同じ高校の女子生徒の一人に過ぎなかった。だけど今の私は、深山君をフッた女へとランクアップ?してしまったのだ。


「だからまあ、やっぱここで顔を合わせるのはマズいかなって」

「う~ん・・・」

「何が切っ掛けになるか分からないし、ね?」

「・・・・・」


 相手をフッたことよりも、自身の身バレの件を気にする私。我ながら何て酷い人間なのだろうとは思う。

 でも、仕方ないのだ。だって、身バレがどのような影響を周りの人間に及ぼすのか、あまりにも未知数なんだもの。


 幸運なことに、私の正体を知った女子たちは私のことを受け入れてくれた。こんな私のことを友達だと言ってくれた。

 だけれど、今後もこの幸運が続くとは限らない。人によっては私のことを受け入れられないだろうし、もしもそのような人が多ければ、私は今の学校生活を続けることができなくなってしまうかもしれない。


 今の私の在り様は非常に不安定で、常に薄氷の上を恐る恐る歩いているような状態だ。その割には最近色々と緩んでいるような気もするけれど、昨日陽介に怒られて改めて気を引き締めた次第なのです。


「おっ、電車来た」


 柱の陰でコソコソするうちに、待っていた電車がやってきた。私たちはいそいそとそれに乗り込み、本日もギュウギュウ詰めになって目的地へと向かう。


「あぁ~、もう少し空かないかなぁ~。毎日これだと流石に萎えるよぉ~」


 ともちゃんのヘニョヘニョ声を聞きながら、私は何ともなしに視線を遠くへと向ける。そしてその視線の先で大欠伸を零していた武井君を見つけた私は慌てて顔を下へと向けながら、小さく溜息を零すのだった。

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