第155話:共有
悪夢のような出来事があったその次の日、私は自室にいた。私の部屋には陽介とともちゃんもいて、久しぶりに幼馴染三人が一堂に会したのである。
「陽介、聞いてよぉ~。ともちゃんってば酷いんだよぉ~」
本日はサッカー部の練習が休みであるらしい陽介に、私は昨日の出来事を愚痴る。
「バニーは無いって言ったのに、言ってたのに・・・」
陽介はともちゃんのスマホから共有された私の黒歴史を眺めながら、苦笑いを浮かべていた。いやいや、これは笑いごとじゃあないんだってば!!
「バニーの写真は撮らなかったんだから、別にいいじゃない」
涼し気な表情のともちゃんは、スマホを操作しながらそう宣う。
「そもそもあれはさっちゃん用のだったんだしさ、ね?」
前もって準備されていたあのバニースーツは、私のために準備された物ではなかった。それは眞鍋さんのお姉さんが眞鍋さん用に作った物であり、うむ、余計にわけが分からない・・・。
何はともあれそれは私の体のサイズには合わず、私の本気の涙を見て焦った眞鍋さんたちによって私のバニーガール化は中断された。その後は眞鍋さんたちが代わる代わるスッポンポンになりつつバカ笑いを上げながら、三人でバニーガール姿を楽しんでいた。
「てか、夏姫も本気で嫌なら写真断ればいいのに」
「それは、そのぉ・・・」
でも、約束もあったし・・・。
「約束があったにしろ、夏姫が本気で嫌なら甲山さんだって無理矢理こんなことしないだろ?」
「それはまぁ・・・」
陽介に指摘されるまでもなく、私もそのことは理解している。でも私は小心者だし、それに私の都合を不可抗力とはいえ甲山さんたちに押し付けることになっちゃったので、そのことについての罪悪感がねぇ・・・。
「夏姫は変なとこで律儀っていうか、気にし過ぎっていうか・・・。夏姫のそれは誰が悪いわけでもないんだから、あんまり抱え込み過ぎるなよ?」
「う、うん・・・」
陽介に諭されて、一先ず私は頷いておく。
「それと知美も、今回のは悪ノリし過ぎだろ」
「えぇ~」
「えぇ~じゃない!!それに、結構際どい写真も多いし・・・。てか、ちょっと待て待て?!」
ともちゃんを諭していたハズの陽介が、スマホを見て突然焦りだす。焦るあまり彼はその手からスマホを床へと落とし、私は目の前へと転がってきたそれを拾い上げる。
「・・・・・」
スマホの画面には、たくさんの写真が並んでいた。ともちゃんのスマホから送信されたであろうそれらの中には、私がスカートを捲り上げてパンツを丸出しにしているものまで・・・。
「夏姫、ちょっとこっち来なさい!!」
「え?あ、はい」
「この写真は何なんだよ?!」
「いや、これは・・・」
気が付いたら、こんなポーズ取らされてました。
「夏姫・・・。嫌なことがあったら、ちゃんと嫌って言いなさい。NOと言える日本人になりなさい」
「は、はい・・・」
「知美も!!こんな写真撮らせるんじゃないよ?!頭沸いてんのかテメーは?!」
「えぇ・・・」
陽介は私たちを叱りながらも、私の手からひったくったスマホを高速で操作している。恐らくは先程のパンツ丸出しの写真を消しているのだろう彼の姿を見て、私は改めて彼の真摯さに心の中で喝采を送る。
「写真こそ撮ってないけどさ、私たちがパンツどころか色々と丸出しで遊んでたって知ったら、どんな顔するんだろうね?」
近くへと寄ってきたともちゃんが、私の耳元でそう囁く。
「男子って女子に夢見がちっていうか、ピュアっていうか」
私がまだ男子として生活していたあの頃、女子という生き物は謎のベールに包まれた摩訶不思議な存在だった。幼馴染であるともちゃんは一先ず置いておくとして、クラスメイトの女子たちと接する時は非常に緊張したものである。
それがどうだろう。いざ自分自身がその枠組みへと入り、彼女たちと一緒に過ごす中で見聞きしたものは、かつての私が想像していたそれとはあまりにもかけ離れたものであったのだ。か弱くて清楚で恥ずかしがり屋で、そんな女子たちのイメージは最早私の中に存在しない。
「夏姫、それと知美!女の子がこんなハレンチなことしちゃいけません!!いいね?!」
「はい・・・」 「はぁ~い」
「特に夏姫は色々とガードが緩いから、もっと気を付けること!!」
「・・・・・。ハイ・・・」
額に青筋を浮かべながら怒る陽介の言葉に、私は素直に頷いておく。心配性な陽介のためにも、私も改めて気を引き締めないとね・・・。