第154話:バニーからは逃げられない・・・
体育祭も無事終わり、六月も残り僅かとなった。そんな初夏のとある土曜日に、私たちは眞鍋さんの部屋にいた。この日は眞鍋さん直々に彼女の部屋へと招待され、とある催しが行われようとしていたのである。
「これが、例のブツだよ」
「「おぉ~~」」 「・・・・・」
「今回は物が物だけに時間が掛かっちゃったけど、お姉ちゃんもノリノリで頑張ってくれたんだよ!!」
私たちの目の前には、黒を基調としたドレスっぽい服があった。それは所謂ゴスロリと呼ばれる物であり、ド素人の私から見てもその完成度の高さがうかがえる。
「早速だけどなっちゃん、着替えてみてくれる?」
「・・・・・」
「ね?」
「・・・・・」
因みに本日の催しなのだけれど、それは私を着せ替え人形にして遊ぶこと。以前一方的に結ばれた甲山さんとの口約束で私はバニーガールの衣装を着ることになっていたのだけれど、それを私が全力で拒否した結果がこれである。
「「「おおぉ~~!!」」」
いつも着ているシンプルな衣装とは違って、この服は無駄な装飾が多過ぎる。ヒラヒラのリボンやレースが過剰に取り付けられ、チョーカーやらヘッドドレスやら付属品も多い。
「これ、マジでさっちゃんのお姉さんが作ったの?!」
「うん、そうだよ」
「凄過ぎない?!てか、お姉さん何やってる人なの?」
「何って、ただの大学生だけど?因みに服作りはただの趣味。時間とお金さえあれば、大体何か作ってるかなぁ~」
ただの趣味って、マジかぁ・・・。
「夏姫ちゃん、こっち向いて!首をちょっとだけ傾けて、両手の人差し指を頬に添えて!!」
・・・・・。
「今度は、両手を胸の辺りで組んで!全力で媚びるような感じで、上目遣いで!!」
・・・・・。
「いいよぉ~いいよぉ~!!いい感じだよぉ~?ぐへへへ」
・・・・・。
「それじゃあ夏姫ちゃん、ちょっとだけスカートを持ち上げて?パンツ見せてくれないかなぁ~?」
・・・・・。
「ぐへへ、ぐへへへへ」
そうして、私は皆の玩具にされた。気持ち悪い笑みを浮かべる甲山さんを筆頭に、私のあられもない姿がスマホの中へと保存されていく。
「私は一体、何をさせられているんだろう・・・」
私は何故、彼女たちの言うがままにポーズなんて取っているのだろう?
「どう、美月、満足した?」
「ううん、まだ!!」
「そっか、まだか・・・」
小一時間ほどの撮影で、私は心身共に消耗してしまった。メイド服に続き、私は新たにゴスロリ姿の黒歴史を量産してしまった。
「でもまあ、バニースーツ着てこれやるよりはマシだったんじゃない?」
「いやまあ、それはそうかもだけど・・・」
「みっちゃんもこれで満足するだろうし、万事オッケー解決だよ!!」
「・・・・・」
そもそもの話、甲山さんへの情報共有をもう少し慎重に進めていればこうならずに済んだのでは?
「・・・・・」
気マズそうに視線を逸らすともちゃんを睨みつけてみるけれど、そうしたところで過去が変えられるわけでもなく・・・。
「あの、そろそろ着替えたいんだけど?」
ともちゃんから視線を外し、私は部屋の主へと声を掛ける。
「美月、ゴスロリはもういい?」
「うん、ゴスロリは満足した」
「そっか。ゴスロリは満足したか」
「うん。うふふふふ」
この部屋の主である眞鍋さんが、部屋の入口へと移動する。そして、カチャっという音とともに部屋の鍵を閉める。
「じゃあ次は、本命のバニースーツね?」
「え?本命?」
「そう。本命」
ニヤリ、という擬音が付きそうないやらしい笑みを浮かべ、眞鍋さんはタンスの方へと向かう。そしてそこから取り出したのは、バニースーツ?!
「ば、バカな?!何故それが?!」
バニースーツは着ないって、代わりに別のを着るって、そういう約束だったハズ?!
「いや、お姉ちゃんが勢いのままどっちも作っちゃってさ。てへ?」
「てへ」じゃないが?!
「知美は、なっちゃんを抑えて?」
「あいよぉ~」
「美月はなっちゃんの服を脱がせて。勿論、パンツもブラも全部ね?」
「ぐへへへへ」
その日私は、人として大事な何かをたくさん失ってしまったのだった。




