第153話:女子力
「ここが、さっちゃんの家ね・・・。噂には聞いていたけど、中々に大きな家じゃない」
隣にいるともちゃん共々、私はその建物を見上げる。私たちの家と比べて一回りほど大きいそれは、庭こそ無いものの豪邸と呼んでも差し支えないのではなかろうか。
「てか、ともちゃん。眞鍋さん家に来たことなかったんだ?」
「うん、今回が初めて。だって、さっちゃん家遠いし・・・。みっちゃん家には行ったことあるんだけど、タイミングが無かったんだよねぇ~」
元々は電車の駅で三駅分離れた場所、彩音ちゃんや桜ちゃんの家と近い場所に住んでいたらしいのだけれど・・・。
「とりあえず、チャイム押してみる?」
「う、うん・・・」
人生で初めてとなる女子の友達のお宅訪問。それは中々にドキドキとするもので、そしてそれ以上に、威圧感さえ感じる立派な門構えの豪邸に小市民である私の心臓は緊張によって心拍数を上げていく。
「こ、こんにちは~。沙紀さんの友達の芦谷ですぅ~」
ともちゃんは、実にともちゃんらしくないへんにょりとしたか細い声で、インターホンに向かってそう言葉を発する。
「あ、知美?ちょっと待ってて!!」
そしてそんな気遅れ気味なともちゃんに返ってきたのは、いつも通り元気そうな眞鍋さんの溌溂とした声。
「うす!二人とも、上がってよ!!」
「「お、おじゃましまぁ~す・・・」」
外観だけでなく、その家は内装も凄かった。具体的にどこが凄いかというと、何かこう全てが洗練されているというか、どれもこれもお高そうというか・・・。
「ね、ねえ、沙紀・・・」
「ん、何?」
「あんたって、お嬢様だったの?」
「え、何で?」
廊下を進み、ニコニコと笑顔で出迎えてくれた眞鍋さんのお母様にペコペコとお辞儀し、私たちは眞鍋さんの自室へとやってきた。
「「・・・・・」」
私たちの部屋と比べ一回りほど広いその部屋は、物で溢れていた。乙女っぽさが皆無なともちゃんの部屋と違ってそこには可愛らしい小物がたくさん飾られており、それは紛う事無き女子の部屋だった。
「これが、女子の部屋・・・」
無意識に漏れた私の呟きに反応したのか、隣にいたともちゃんが無言で肘鉄を喰らわせてくる。あの、痛いんですけど?
「美月ももう少しで来ると思うから、適当に座っててよ」
「あ、はい」 「う、うん」
痛む脇腹を押さえながら、私は用意された可愛らしいクッションへと腰を下ろす。
「何か、凄いね・・・」
「そうね・・・。目に映る物が一々高そうっていうか・・・」
いつもフランクな物言いで、その言動は色々とガサツなともちゃんや雪ちゃんと近く、おおよそお金持ちのお嬢様には見えない眞鍋さん。そんな彼女の部屋は、女子力皆無の私から見てもキラキラと輝いており、非常に乙女チックなものであった。
「ねえ、ともちゃん」
「何よ・・・」
「あれって何かな?コスメ?」
棚の上に並べて置かれたお洒落な瓶を見て、ともちゃんは眦をつり上げる。
「何か、言いたいことでもあるの?」
「いや、別に・・・」
「私の女子力が低いって、そう言いたいの?」
「・・・・・」
そんなことは思ってないよ?ただ、何ていうか・・・。
「ともちゃんの部屋ってさ、偶に下着が落ちてたりするじゃん?」
「・・・・・」
「だからさ、女子力云々の前に、ね?」
「・・・・・」
バツの悪そうな顔をするともちゃんと、そんな彼女を見てこれまたバツが悪くなる私。そんな何とも居心地の悪い空間で私たちは、落ち着きなく視線を彷徨わせるのだった。