第152話:お試し
私は今、陽介の部屋にいる。そして私の目の前には、ウィッグを被りロングヘアとなった陽介がいた。
「うん、微妙!!」
「・・・・・」
「陽介にロングヘアは、やっぱ似合わないね!!」
「・・・・・」
ジト目をした陽介が、無言のまま私にデコピンをしてくる。あの、痛いんですけど?
「急に部屋に上がり込んできたと思ったら、何だよこれ・・・」
「何って、ウィッグだけど?」
「いやそうじゃなくて・・・。てか、どこで手に入れたんだよこれ・・・」
「どこって、駅前のショップだけど?」
私の返しに、陽介は頭が痛そうにしている。因みに私もさっきのデコピンのせいで、オデコが痛い・・・。
「この前のさ、あったじゃん・・・」
「この前のって?」
「だから、体育祭の時の・・・」
「あぁ~、あれか・・・」
遡ること一週間前、私は人生で初めて男子から告白を受けた。ともちゃんや眞鍋さんたちが言うに、あれはガチの告白だったらしい。
「いやさ、私疑問に思ったことがあって。ともちゃんたちが言うには、私って中学の時とあんまり顔が変わってないらしいのね?」
「まあ、夏姫はロリ顔だからな・・・」
ろ、ロリ・・・。
「ん、ん゛ん゛ん。私自身は結構成長したと思ってるし、顔つきも多少は変わったと思ってるんだけどさ」
「・・・・・」
「思ってるんだけどさ!!」
「・・・・・」
ちょっとくらいは変わってるでしょ?!身長だって少しは伸びたし、胸もほんの少しだけ膨らんだし?!
「だけど、ともちゃんたちが言うにはそんなに変わらないから、見る人が近くから見ればモロバレだって」
「・・・・・」
「だから、何でかなって」
「・・・・・」
体育祭の練習の時、私と深山君は超近距離で見合っている。如何せんその練習が二人三脚の練習なので、否応なしに超近距離から顔を見られているのである。
「中学の時と違うのってさ、髪を伸ばして、あとは伊達メガネくらいじゃん?」
「まあ、そうだな・・・」
「だからさ、ちょっと陽介で試してみようと思って」
ロングのウィッグを被り、私から渡された伊達メガネを掛けた陽介は、陽介だった。それはもう、陽介だった。
「う、うう~ん」
「・・・・・」
「うう~ん?」
「・・・・・」
もしかして、深山君って目が悪い?
「いや、別に視力は悪くなかったはずだけど・・・」
「ふ~ん?」
じゃあ、何故?どうして深山君は、夏樹イコール夏姫って気付かなかったの?
「多分だけど、バイアス掛かってたんじゃね?」
「バイアス?」
「だってさ、元々男だった人が急に女になるなんて、普通は思わないじゃん?単に女装してるとかじゃなくてさ」
「・・・・・」
つまり、夏樹イコール夏姫なんてあるわけないじゃんって先入観、故に?
「世の中、三人は顔が似た奴がいるって話だし。ましてや、同姓同名なんてたくさんいるだろうし」
「う、うう~む・・・」
「だから、そういうことなんじゃね?俺も流石にストレートには訊けないから分からないけど」
「・・・・・」
結局、結論は出なかった。とはいえ、一先ず身バレについては安心してもいいのかな?
「今のところ、バレてる様子はないけどさ。でもまあ、気を付けとけよ?」
「うん、勿論気を付けるよ」
「女子のことは詳しく知らないけどさ、あいつ等結構口が軽いっていうか、色々緩いから」
「・・・・・」
その後、私は小一時間ほど陽介の部屋で駄弁り、家へと戻った。今日は他の部活動との兼ね合いでサッカー部の練習は午後かららしく、本当ならもう少しゆっくりできたんだけど・・・。
「このあと、ともちゃんたちと約束があるんだよねぇ~」
駅前集合ではなく、真鍋さん家集合という初めてとなる女子の家への訪問イベントに少々ドギマギしながら、私は役目を終えたウィッグをタンスの奥へと押し込むのだった。