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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第一章:激動の夏休み
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第15話:緊急家族会議

 今の時間は午後十八時過ぎ。家に帰ってきたのは午後十五時くらいだったから、僕と母さんはダイニングの椅子の上で三時間もの間ボケーっとしていたことになる。

 そして、そんな明らかに普通ではない様子の僕たちを見て、家へと帰ってきた僕の父親は激しく動揺した。ただ、朝方僕たちが病院へと行くのを見送ってはいたので、最悪の事態だけはないことは察したみたいである。


「もう一度確認するけど、命に別状はないんだな?」

「ええ、そっちは大丈夫みたい・・・」

「その先生は、他の病院での検査を勧めたと?」

「夏樹の状態をより正確に把握するためには、専門の先生がいる病院で精密検査をした方がいいって。紹介状も書いてくれたんだけど・・・」


 母さんから事の次第を聞いて、父さんは眉間の皺を深くする。


「話を整理すると、今朝方の流血騒動は夏樹の初経によるもので、命に関わる重い病気ではない」

「「・・・・・」」

「夏樹には、精巣がない。代わりに、子宮と卵巣がある。より精密な検査が必要になるが、夏樹はおそらく性分化疾患であり、詰まる所男ではなく女だった、と」

「「・・・・・」」


 改めてその話を聞いてみても、全く意味が解らない。というよりも、解りたくなんかない。


「その先生は、他に何か言っていたのか?」

「具体的な処置について、いくつか・・・」

「それについても、聞かせてくれるか?」

「ええ、先ずは・・・」


 桜田先生によると、今後僕が取り得る選択肢としては大きく三つあるらしい。


 一つ目は、このまま何の処置もせずあるがままを受け入れて生きること。今の僕の状態を率直に表すと、つまりアレがある女の子であり・・・、うん、意味が解らない。

 これは何の処置もしないが故に体への負担が最も少ない選択肢であり、それと同時に今後の社会生活において最も苦労するであろう精神的ダメージが桁違いに大きくなる忌避すべき選択肢でもある。


 二つ目は、体内に存在する生殖器官を全て取り除き、必要に応じて膨らんだ胸部を切除したりホルモン治療を続けながらこれまで通り男性として生きること。

 これは最も体への負担が大きい選択肢であり、それと同時にこれを選んだ場合僕は文字通り子供をもうけることができなくなる。


 正直な話、結婚とか子供とか、そういったことへの興味関心が薄い僕としてはそこまで重い話には思えないんだけれど・・・。でも、母さんたちがねぇ・・・。

 それに、手術も怖そうだし、痛そうだし・・・。加えて、体の状態によっては継続的なホルモン治療が必要になったり、胸の肥大化への対策も必要とのこと。う~ん、面倒臭い・・・。


 三つ目は、外科手術によりアレを切除し外性器の形状を整え、女性として生きること。これは体への負担が比較的小さく、最も現実的な選択肢である。

 唯一の問題点は僕の精神衛生面であり、これまで男性として生活してきたことへの清算と、今後女性として生きていくことへの覚悟が必要になる。う~む・・・。


「「「う~ん・・・」」」


 時計の針は、いつの間にか午後の二十時を指していた。ダイニングには僕たち三人から放たれる重苦しい空気が漂っており、その空気は時間の経過とともにより一層重くなっていく。


「先ずは、父さんの考えを述べよう」

「あなた・・・」

「父さんは、三つ目の選択肢が最も現実的だと思う。夏樹の体への負担や今後の生活を考えると、他の選択肢は難しいように思う」

「「・・・・・」」


 それはおそらく、この場にいる皆が思っていたことであった。


「勿論、父さんは夏樹の考えを尊重する。夏樹が他の選択肢を選ぶのなら、私はそれを全力で支えるつもりだ」


 父さん・・・。


「私も、三つ目の選択肢がいいと思う。これは身勝手な願いかも知れないけれど、私は可能なら夏樹の子供を見てみたい」


 母さん・・・。


「いずれにしても、最終的な判断は追加の精密検査後になるだろう。だけど・・・」


 そう言って、父さんは真っ直ぐな瞳で僕の顔を射抜く。


「まだ十四歳の夏樹にとって、この判断は重過ぎると思う。神様は、なんて残酷なんだって思う」

「・・・・・」

「だけど、残された時間は少ない。今後も体の女性化は進むだろうし、判断が遅れれば遅れるほど、結果的に夏樹が苦しむことになる」


 僕の脳裏に、仲の良い幼馴染たちの顔が浮かぶ。もしも僕が変わってしまったら、陽介たちはどんな顔をするだろうか?あの二人は、変わってしまった僕を受け入れてくれるだろうか・・・。


「夏樹、次の検査日までに、答えを決めてくれ」

「父さん・・・」

「酷なことを言っているのは分かる。だけど、本当に時間がないんだ」

「・・・・・」


 その日の翌日、母さんは桜田先生によって紹介された病院の予約を行った。そしてその審判の日までは、たった二日しか残されていなかった。

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