第145話:続く不運
私が通う大宮高校には、かつて私が通っていた峰島中学時代のクラスメイトが複数いた。その中でもともちゃんたちと交友の深かった甲山さんと木下さんについては私の秘密を共有できたのだけれど、それができていない生徒がまだ何人かいたのである。
そして今、私の目の前には私が抱える秘密を知らないままであるかつてのクラスメイトの姿があった。様々な偶然と不幸が重なった結果、私は非常に危機的な状況に追い込まれていたのだ。
「はじめまして、かな?俺の名前は深山 徹。よろしく」
「ああ、どうも・・・」
「えぇと、名前を訊いても?」
「私は、一色 夏姫です・・・」
私はほどよく伸びた前髪で可能な限り目元を隠しながら、言葉少なげに答える。
「ふ~ん?いい名前だね?」
「・・・・・」
ちなみに今私たちが何をしているのかというと、六月の中旬に行われる予定の体育祭の合同練習である。大宮高校の体育祭は秋ではなく、主に三年生たちの受験スケジュールを考慮してこの時期に行われるのだ。
(誰だよ、男女混合の二人三脚なんて考えたヤツ?!バカなの?!アホなの?!)
せめて同じクラスの男子とであれば身バレのリスクに怯えずに済んだかもしれないというのに、何故だか組み分けで一緒になったAクラスの男子と組むことになり、更にはピンポイントでかつてのクラスメイトの深山君とだなんて・・・。
(あぁ、オワタ・・・)
私は恨む。こんなアホな競技を考え付いた者を・・・、あまりにもあんまりな確率で私を社会的に殺しにくる神様を・・・。
「えっと、肩に手を載せるけど、いい?」
「ああ、どうぞ・・・」
「じゃあ、失礼して・・・」
ぶっちゃけ、二人三脚なんて真面目に練習するものではないと思う。この競技は明らかにネタ競技であり、こんなことに時間を割くくらいならもっと他の練習に時間を割くべきなのだ。
とはいえ、今の時間は昼休み時間。今は本格的な練習などではなくて、あくまでも自主的な練習の時間。
(神様、マジで助けて?!もしもバレたら、ガチで人生終わるからぁーーーーっ?!)
激しい身長差に四苦八苦しながら、私と深山君はグラウンドを駆け抜ける。そんな私たちの様子をニマニマとした表情の男女たちが遠巻きに眺めながら、やいのやいのと声援を飛ばしている。
「お、お疲れ様」
「ああ、うん・・・」
「じゃあ、紐を解くね?」
「・・・・・」
会話を最小限にし、なるべく顔を逸らし、そうやって深山君との遣り取りを終える私。そんな私は彼から足早に離れ、既に練習を終えていたともちゃんたちの元へと向かう。
「えぇと、大丈夫だった?」
「分からない」
「・・・・・」
「・・・・・」
私の顔は、あの頃から大きく変化してはいない。髪こそ伸びたけれど、それ以外の顔のパーツは概ねあの頃のままである。
「なっちゃんはロリ顔だからねぇ~」
「・・・・・」
「いっそのこと、伊達メガネでもかける?多少は違うかもよ?」
「・・・・・」
組み分けでAクラスとFクラスが一緒となり、それだけではなく男女混合二人三脚の相手がくじでAクラスの深山君となり・・・。
「私、呪われているのかな?」
私はそう呟きながら、本気でお払いに行くべきかどうか悩むのだった。