第144話:致命的な差
とある日の昼休み、私はイツメンたちと教室の端に集まって雑談していた。長いようで短い休憩時間を、他のクラスメイトたちも各々仲の良い者同士で集まりながら思い思いに過ごしていた。
「Dクラスの鈴木君って知ってる?」
開口一番に、頬を薄っすらと染めた眞鍋さんがそう言葉を発する。
「私、恋しちゃったかも」
「「「「・・・・・」」」」
「やっぱ年上じゃなくて、付き合うなら同い年よねぇ~」
「「「「・・・・・」」」」
確かこの前、恋はクソとか言ってなかったっけ?
「そんなこと言ったっけ?」
「「「「・・・・・」」」」
「まあ、細かい話はいいじゃない」
「「「「・・・・・」」」」
私は、その視線をともちゃんへと向ける。そんな私の視線を受けたともちゃんは、何とも形容しがたい複雑な表情を浮かべていた。
「で、何があったのよ?」
「いや、この前さ・・・」
瞳をランランと輝かせ、上機嫌に事の詳細を語る眞鍋さん。そこには上月先輩の件で打ちひしがれていた失恋少女の姿はなく、変な方向にパワーアップした暴走少女の姿があった。
「私、あの頃はちょっと色々引き摺ってたっていうか、心ここに在らずだったっていうか・・・。ちょっとボ~っとしてて、そんな時に廊下で鈴木君とぶつかっちゃって・・・」
偶々、廊下で出合い頭にぶつかってしまったらしい眞鍋さんと鈴木君。鈴木君はいつもの如く紳士な振る舞いで眞鍋さんをフォローし、彼の整ったルックスとスマートな言動に彼女はコロッといってしまったらしい。
「ねえ、ともちゃん」
「何よ・・・」
「眞鍋さんて、こういうキャラの人だったの?」
「・・・・・」
上月先輩に負けず劣らず鈴木君もイケメンだし文武両道で言動がスマートだし、そんな彼がモテるのは解るのだけれど・・・。
「さっちゃんはさ、ちょっと私に似てるところがあるっていうか、男勝りっていうか・・・。だからってわけじゃあないんだけど、男子から優しくされたりするのに慣れてないから、単に耐性がないだけなんじゃない?」
「ふ~ん?」
一人舞い上がる眞鍋さんを、甲山さんと彩音ちゃんが苦笑いしながら眺めている。
「いやまあ、好きにすればいいんじゃない?」
「そうそう。でも、あんまりハイスペックばかり狙ってると、また失恋しちゃうかもよ?」
鈴木君は中学時代にもモテていたし、高校生になって更に大人っぽさを増した彼はより一層ルックスに磨きがかかっているからなぁ~。
「大丈夫、今度こそ上手くやる」
「「「「・・・・・」」」」
「今度は、あんなしょうもない告白はしない!!」
「「「「・・・・・」」」」
そうして昼休みは過ぎ・・・。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「あ、なら私も」
五人揃ってゾロゾロとトイレへと向かい・・・。
「あぶっ?!」
先頭を歩いていた私は、教室の出入り口で一人の男子生徒と正面からぶつかってしまった。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、うん、大丈夫・・・」
ぶつかった相手は、新地君。彼は中学時代に比べて更に身長が伸びており、小柄な私はそんな彼の体重に押し負け尻もちをつく。
「とりあえず、早く立てよ。パンツ見えてるから」
「「「「「・・・・・」」」」」
「な、何だよ?」
「「「「「・・・・・」」」」」
新地君の差し出した手を、私はスルーする。そのままともちゃんたちと共に教室を後にした私は、擦れ違いざまに彼へと呟く。
「そういうところだよ・・・」
「え?」
決して悪い人ではないのだろう新地君。だけれども絶妙に残念な新地君。
「同じ高校一年男子なのに、何でこうも違うんだろうねぇ~?」
誰にともなく呟いた真鍋さんの問いに、答える者は誰一人としていなかった。