第143話:ニアミス
「恋ってさ、クソだと思うわ。やっぱ、時代は部活っしょ!!」
「「「「・・・・・」」」」
今日も元気に、眞鍋さんは部活動へと旅立っていった。彼女の言動を見るに上月先輩のことを全く引き摺っていないわけではないみたいだけれど、一先ずは元気そうだしきっと大丈夫だろう。
「じゃあ、私も部活行くね?」
「うん、行ってらっしゃい」
「ともっちたちは、今日も速攻帰るの?」
「いや、今日はちょっと寄り道してこうかなって」
彩音ちゃんや甲山さんとも別れ、私とともちゃんは教室を後にする。
「さてさて、陽介はどんな感じなんですかねぇ~っと」
今現在、私の幼馴染の一人である陽介はサッカー部(仮)状態である。高校に入学しておおよそ二月が過ぎた今なお彼は正式な部員ではなく、あくまでも体験というか、助っ人的な位置づけで部活動に参加していた。
「陽介ってさ、そんなにサッカー上手いの?」
「上手いよ。サッカーだけじゃなくて、大体のスポーツを人並み以上にこなせるし」
そもそもそうでなかったのならば、先輩たちから誘われたりはしないだろう。
「誘われた切っ掛けは、偶々クラスの友達と部活動見学中に知り合いの先輩と出会ったからって言ってた。その時に見学者も入れて軽い紅白試合をして、活躍しちゃったんだって」
「ふ~ん?」
「実は野球部とかからも勧誘が来てて、それが面倒臭かったからってのもあるみたい。とりあえず(仮)でサッカー部に籍を置いておけば、他からしつこく勧誘されないだろうって」
私たちは話しながらも廊下を進み、グラウンドが良く見える位置まで移動する。
「ここからだと、流石に遠くない?」
「でも、近くで見ると目立っちゃうし。それに、サッカー部には峰島中学時代の知り合いがいるんだよ・・・」
だから、迂闊に近付くことはできない。下手に近付いて身バレでもしようものならば、それはそれは面倒なことになる。
「確か、内田と深山だっけ?」
「そうそう、その二人。あと、一応先輩たちの中にも知り合いはいるから、念のためにね」
陽介と違って私はサッカー部の中では影が薄かったし、髪の毛が伸びて女子の制服を着ているから、先輩たちには気付かれなさそうな気がするんだけれど・・・。
「でも、なっちゃんて陽介といつも一緒にいたし・・・。だからセットで覚えられてるんじゃない?陽介といつも一緒にいる小さい子って感じで」
そうかな・・・、そうかも?
「と、とにかく、そんなわけだから近付くのは無しで」
「はいはい」
「でも、やっぱ遠いなぁ~」
「・・・・・」
校舎の窓から覗くグラウンドには、たくさんの人影が見える。それらは区画別に集まってランニングだったり筋トレだったり、他にも専用の道具を使って練習をしたり・・・。
「ねえ、あれってみっちゃんじゃない?」
「え?どれどれ?」
「ほら、あの隅っこでボール拭いてる子」
「おぉ~、そうかも?」
肝心の陽介の姿は見つけられず、その代わりに見つけたマネージャーの甲山さんはしっかりとマネージャー業務に勤しんでいた。
「・・・・・。帰ろっか?」
「・・・・・。そうだね・・・」
やはり、ここからでは無理があったか・・・。
「せめてグラウンド端か、でなけりゃ双眼鏡でも持ってくるか・・・」
そうしてその場を離れ、荷物を回収するために教室へ戻ろうとして・・・。
「?!?!」
私の心臓が、キュッと締め付けられる。その姿を視界に捉えた私は、信じられないくらいの身のこなしで近くの空き教室へと身を隠す。
「ちょ、なっちゃ『し~~!!』・・・」
私たちが潜む教室の前を、彼は無言のまま通り過ぎていった。そのまま彼は窓際へと張り付き、険しい視線を窓の外へと向けている。
(あれは、武井君?!何で武井君がここに?!)
陽介の話だと、武井君はホームルームが終わったらサッサと帰ってるって話だったけど・・・。
「何を見てるんだろ?」
「さあね・・・」
時間にして、約十分。短いようで長い時間、彼はその場に立ち尽くしていた。
「行っちゃったね?」
「そうだね・・・」
「今度こそ帰ろっか?」
「うん・・・」
彼は、何を見ていたのだろう?彼は何故、あんなにも険しい表情を浮かべていたのだろう?武井君が去っていった廊下の先に視線を向けながら、私は考える。
(・・・・・)
それっぽい理由はいくつか思い浮かぶのだけれど、結局は情報不足で確たる証拠もない。私はどこか悶々とした思いを抱えながら、学校を後にするのだった。