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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第八章:一方通行の恋
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第142話:初恋の終わり

 それは、今からおおよそ一カ月ほど前のこと。当時の眞鍋さんは上月先輩に片思い中であり、一方でその思いが叶うことはほぼ無いだろうと彼女は達観してもいた。初めての一目惚れでおかしなテンションになりつつも彼女は冷静であり、その恋の成就が難しいであろうことをしっかりと理解していたのである。

 そんな真鍋さんは、放課後になると上月先輩が所属するテニス部へと足を運んでいた。叶うことはないであろう片思い、だけれども簡単には諦めきれなくて。そんな健気で切ない思いを抱えながら眞鍋さんは上月先輩目当ての女子たちの一団へと加わり、上月先輩へ応援の掛け声を響かせていたのだ。

 

「ね、ねえ・・・。今日なんだけど、一緒にテニス部見にいかない?」

「「「「・・・・・」」」」

「だ、ダメ?」

「「「「・・・・・」」」」


 上月先輩目当ての女子一団の中には、一年生の女子もたくさんいた。とはいえ上級生の女子が多数派なそこで彼女たちは肩身が狭く、意外と人見知りなところがある眞鍋さんはそう言って私たちに救いを求めてきたりもした。

 だがしかし、私たちにも事情がある。私は家の事情で基本早帰りだし、ともちゃんはそんな私にベッタリである。更には何を思ったのか突然文芸部へと入部した彩音ちゃんと、これまた突然サッカー部のマネージャーへと就任した甲山こうやまさん。


「今日は買い物に行かなきゃだし、無理かなぁ~」

「えぇ・・・」

「私も部活に行かなきゃ」

「私も私も!マネージャーって意外とやること多くて大変なんだって!!」


 そうして一人寂しく?上月先輩の元へと向かっていく眞鍋さん。彼女の不安げな、だけれども何かを期待するような、そんな複雑な表情は今でも鮮明に思い出すことができる。


「昨日なんだけどさ、上級生の女子の一人が突然上月先輩に告白しちゃってさ」

「「「「え?」」」」

「上月先輩はその告白を断って、好きな人がいるからって」

「「「「・・・・・」」」」


 死んだ魚のような目をしながら、眞鍋さんは語っていた。


「上月先輩、まだ誰とも付き合ってないらしいんだけど」

「そ、そうなの?」

「少なくとも、上月先輩を崇める会の代表はそう言ってた」

「「「「・・・・・」」」」


 それから更に日にちが経ち、その日は偶々余裕があったっていうか、眞鍋さんの誘いを断れなかったっていうか・・・。


「今日だけでいいから!お願い!!」

「えぇ・・・」

「最近一年の子が一気に減っちゃって、ちょっと心細いっていうか」

「「・・・・・」」


 無理だと解っていても、それでも諦めきれない。恋という物は、本当に難しいらしい。


「すげぇ・・・、女子がいっぱいだ・・・」

「もしかしてだけどさ、あれ、全部上月先輩の?」


 テニス部が活動するその場所には、制服姿の女子がたくさんいた。彼女たちはラケットを持つわけでもなくボールを拾うわけでもなく、ただ距離を置いてとある一点を凝視していた。


「あぁ、上月先輩・・・」

「「・・・・・」」


 初めて間近で見るテニスという物にちょっとだけ興奮し、だけれども周りにいる別の意味で興奮している女子たちの鼻息に恐怖を覚え・・・。


「「「あっ!!」」」


 偶々、上月先輩が打ち返したボールが私たちの方へと飛んできた。そのボールは私の顔面へと一直線に飛んできて、危機を察知したともちゃんの手によって弾かれたボールは眞鍋さんの顔面へと直撃した。


「ちょ、大丈夫かい?!」


 打ち所が良かったのか悪かったのか、一先ず大事には至らなかったのだけれど・・・。


「誰か、誰か救急キットを!!」


 大好きな上月先輩の手で鼻の両穴に止血用の綿を詰め込まれ、何とも痛々しい姿となった眞鍋さん。


「大丈夫?他に痛いところはない?」

「ふぁい、らいひょうふれす・・・」


 周りの女子たちからの冷たい視線と、上月先輩の心配そうな視線。そして、鼻の両穴に綿を突っ込まれた乙女としては何とも恥ずかしいその状態に、眞鍋さんはテンパってしまって・・・。


「こ、上月先輩!しゅきでしゅ!!」


 まさか、そのタイミングで?!


「え、えぇと・・・。ゴメンね?僕、他に好きな人がいるんだ」


 それは、分かりきった結末であった。そうなるだろうと理解した上でなお告白して、それ故に訪れた結末であった。


「う、うぅ・・・」

「・・・・・」


 こうして眞鍋さんの初恋は終わり、そして彼女は、桃色の青春を諦めたのである。

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― 新着の感想 ―
タイミングが悪すぎる… 周りの子の視線が冷たすぎて冬になってそうだ
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