第141話:汗臭い青春
ここから第八章(141話~160話)となります。物語も折り返しを過ぎ、ここから先は最終話に向かって一気に駆け抜けていく腹積もりでいます。ですので、今までとは比較にならないくらい早い展開になる、かも・・・?
私が大宮高校に通うようになってから、二カ月が過ぎた。峰島中学時代の元クラスメイトたちとのアレコレや、ともちゃんとのアレコレなど・・・。ちょっとしたトラブルこそあったものの、私は何とか新しい学校生活に馴染むことができている。
これは偏に幼馴染や友人たちの協力によるところが大きく、彼等の協力が無かったのならば私は自身の抱える秘密を守ることに四苦八苦し、穏やかな高校生活を送ることは難しかっただろう。
とはいえ、武井君のこととかその他の峰島中学時代の知り合いのこととか、まだまだ不安材料は多い。過去の私を知る人たちはそれなりの数存在しており、そういった人たちに私の秘密を知られることは非常によろしくない。
男として生活していた私がある日を境として突然女になり、そのまま何食わぬ顔で女子としての生活を始めるなんてことは大多数の人たちにとって意味不明だし、それを受け入れることは難しいに違いないのだ。そもそも本人である私自身が未だに戸惑いアタフタしているというのに、事の詳細を知らない第三者にそれを求めるのはあまりにも酷である。
そんな中で今現在、私の秘密について知る人たちは事の経緯についてある程度理解し、今の私の有様を認めてくれている。過去の私が男として過ごしてきたというその事実を理解しながらも、彼等は私のことを友達と呼んでくれている。
それは本当に有難いことであり、特に私のことを受け入れてくれた女子たちには本当に頭が上がらない。もしも彼女たちの理解と協力が無かったならば、私は故郷を離れ遠い学校へと通い、そこで不安と孤独に塗れた学校生活を送ることになっていただろうから。
「おぉ~、やってんねぇ~」
私がモノローグに浸っている間に、目的地に着いたようだ。私のすぐ横にいたともちゃんは誰に言うとでもなくそう呟きながら、視線を前の方へと向けている。
「はぇ~、思っていた以上に人が多いなぁ~。さっちゃんどこだろ?」
いつもであれば放課後はサッサと家に直行するハズの私とともちゃんは今、学校敷地内にある体育館へと来ていた。つい先程までは彩音ちゃんが所属する文芸部へと顔を出し、そこでちょっとばかりの雑談を挟んだあと私たちはここを訪れたのである。
「ちょっとゴメンねぇ~、通るよぉ~」
「あわわ、スミマセン・・・」
陽介曰くそこそこに活発であるらしい部活動に勤しむべく、そこにはたくさんの生徒たちが出入りしていた。
「お?いたいた!!」
「え、どこ?」
「ほら!あそこあそこ!!」
「う~ん?」
ともちゃんが指差すその先で、他の女子たちと共に激しく動き回る一人の女子生徒、その名も眞鍋 沙紀さん。彼女はともちゃんの親友の一人であり、私の秘密を知ってもなお私のことを受け入れてくれた心優しい人物である。
「桃色の青春を送るって言ってたのに、結局汗臭い青春を選んじゃったねぇ~」
「・・・・・」
「いやまあ、仕方ないかぁ~。あんなことがあったあとじゃねぇ~」
「・・・・・」
この学校には、上月 満という名の男子生徒がいる。その生徒は登校初日の私たちに学校施設を案内してくれた先輩であり、その先輩を一言で表すとしたならばそれ即ち女たらしのイケメン・・・。
そんな上月先輩に眞鍋さんは一目惚れし、彼女は乙女の顔をしながらこう言ったのである。「汗臭い青春じゃなくて、桃色の青春を送るのだ」と・・・。
「でもまあ、元気になったようで良かったよ。変に引き摺らなくてさ」
「・・・・・。うん、そうだね・・・」
「それにしても、本当にタイミングが悪かったっていうか」
「・・・・・」
体育館の入り口で、私とともちゃんはその姿を見守る。私たちの視線の先で眞鍋さんは透明の雫を垂れ流しながら駆け回っており、その表情から悲壮感は感じられない。
「そろそろ、帰ろっか?あんまり遅くなるのもなんだし」
そう言って私は、ともちゃんの肩を軽く叩く。
「そうだね。んじゃ、帰ろう!!」
ともちゃんと並んで、私は体育館に背を向ける。背後からは様々な部活動に励む生徒たちの掛け声が響いてきており、そんな元気溢れる声を聞きながら、私たちは校門を目指し歩みを進めるのだった。