第139話:(仮)の理由
本日は土曜日である。久しぶりの休日である。そんなとある週末の休みの日に、私は陽介の部屋にいた。
「何か、ここに来るのも久しぶりな気がする」
「まあ、最近は色々とあったからなぁ~。それに、今日は知美が家族との用事でいないし」
私が陽介と遊ぶ時には、大体ともちゃんもいる。そしてともちゃんがいる時には、彼女の部屋で遊ぶことが多いのだ。
何故ともちゃんの部屋に集まることが多いのかというと、その理由は彼女が最も多くのゲームソフトを持っているからだったりする。私も陽介もゲーム自体は持っているものの、そのソフト数は彼女の足下にも及ばないのである。
「とりあえず、適当に飲み物持ってくるからちょっと待ってろよ」
「うん」
陽介が用意したクッションへと腰を下ろし、私は部屋の中をザっと見回す。
(陽介の部屋、相変わらず謎の筋トレグッズが多いな・・・。これ、効果あるのかな?)
ニギニギして握力を鍛える物や、腕力を鍛えるのであろう物。他にも謎のボールやぶら下がり健康器具?みたいな物等々・・・。
(私も握力くらいは鍛えとこうかな、それが役に立つかは微妙だけど・・・)
近くに落ちていたそれを手に持ち、適当にニギニギする私。
(・・・・・)
これ、思っていた以上にキツい・・・。
(ヤレる!私はまだヤレるハズ!!)
そうして一人顔を真っ赤にしながらニギニギしていると、お盆に飲み物を載せた陽介が戻ってきた。
「・・・・・。何やってんだ?」
「いや、ちょっと筋トレを・・・」
陽介はプルプルと腕を振るわせる私を見て、呆れたような表情を浮かべる。
「止めとけ止めとけ、夏姫に筋トレは無理だって。そもそも筋トレは継続してやらないと意味ないから」
「ぐっ」
「思い付きで適当にやると、それこそガチで体を壊すぞ?そこまで行かなくても翌日に酷い筋肉痛とかになるし、だからやるのならちゃんと計画的にやるようにしないと」
私の手から取り上げたそれを、陽介は軽くニギニギする。その動きは明らかに非力な私とは異なり、ぐぐっ・・・。
「てか、今日はサッカー部の練習はいいの?」
「いいの。俺はサッカー部(仮)だから」
「いや、その(仮)って何なの?先輩とかに怒られないの?」
「その先輩から許可をもらってるから大丈夫。そもそも部活動するつもりのなかった俺を無理矢理誘うために、先輩たちがそうしたんだしさ」
ふむ、なるほど?
「ウチの高校、部活動自体はそこそこに活発なんだけどさ、ぶっちゃけ弱いのよ」
「ふ~ん?」
「ガチ勢とユルフワ勢との温度差も激しいし、だから峰島中学時代の先輩で俺を知ってる人が試合の時だけでもいいから来ないかって、そう誘われてさ」
それはいい事なのかそうでないのか、ウチの高校の部活動はだいぶ緩いらしい。それは主に顧問を務める先生たちの熱量の低さから来るもので、ユル~く楽しみたい勢にとっては有難いことなんだけれど、ガチ勢にとっては悲劇でしかない。
とはいえ、元々ウチの高校は大学へ進学するための普通科高校であり、部活動に力を入れている私立校ではない。ガチで部活をしたいのであればそのような学校へ行けばいいだけであり、そのことについてとやかく言うのも違う気がする。
「先生たちがそもそもヤル気ないし、何なら部活やってる暇があるなら勉強しろって先生もいるくらいだし、そこは先輩たちも解ってはいるんだけどさ。でも、せっかくやるなら勝ちたいじゃん?試合に出てボロ負けするよりも、一試合でも多く勝ちたいじゃん?」
「それは、そうかもだけど・・・」
「だから、こんなことまでしてるってわけ。ガッツリ練習とかしなくてもいいから、少しでも勝率を上げるために適当に強い奴を試合に呼んで、ささやかな抵抗をしてるってことらしいんだよ」
な、なるほどねぇ・・・。陽介が未だにサッカー部(仮)である理由は理解できた。でも・・・。
「それって大丈夫なの?陽介が試合に出るってことは、逆に試合に出れない子がでてくるんでしょ?」
「まあ、そうだな」
「毎日練習に出てる人から悪く思われない?そういう人たちを押し退けて陽介が試合に出て、それって結構微妙な気がするんだけど?」
それこそ武井君の時みたいなトラブルになりそうっていうか、それ以上の何かが起きそうっていうか・・・。
「だから、それなりに練習には出てるんだよ。あくまで(仮)で、体験中って体だけどな」
「・・・・・」
「その間に部員たちの様子は見てるし、トラブルになりそうなら試合に出るのを断ればいいだけだし。その辺りのことは先輩たちにも伝えてあるから、無茶なことにはならないって」
私の心配は、杞憂なのだろう。私と違って陽介は地頭が良いし、要領も良いから。
「そっか、なら平気か・・・」
陽介が持ってきた飲み物を口にしながら、私はその視線をテレビの画面へと向ける。
「とりあえず、一戦しようか。今日は時間あるんでしょ?」
「まあな」
「ふふふ、負けないから」
「ほ~お?」
コントローラーを握り挑戦的な視線を向ける私と、そんな私に不敵な笑みを返す陽介。久しぶりの陽介との時間だし、目一杯楽しまなくちゃね?