第138話:噂
私が高校に通うようになって、一月が経った。峰島中学時代の元クラスメイトたちとの再会ではヒヤッとしたものの、今のところは平穏な学校生活を送れている。
そんな中で新たなクラスメイトたちとの交流も進み、何だかんだで新しい学校生活にも慣れた。眞鍋さんたち以外にも友達と呼べる存在ができ、私の世界は広がった。
「ねえ、聞いた?Dクラスの鈴木君、同じクラスの女子と付き合ってるんだって」
廊下を並んで歩いていた同じクラスの女子生徒が、瞳をキラキラと輝かせながら私に話かけてくる。彼女は私と共に本日の日直を任されたクラスメイトであり、今は特別教室での後片付けを終え自分たちの教室へと戻っている最中だったりする。
「ううん、聞いてないけど。もしかして、どっちかが告白でもしたの?」
私の質問返しに対し、彼女は鼻息を荒げながら事の詳細を説明してくれた。
「Dクラスに同じ中学だった友達がいるんだけどさ。その子の話だと二人はよく一緒に行動してて、昼休みなんかは仲良く図書室で雑談してるんだって」
ふ~ん?なるほどねぇ~?
「よく一緒にいるから付き合ってるの?告白したところを誰かが見聞きしたとかじゃなくて?」
「いやいや、高校生の男女が一緒に行動してるなんて、付き合ってる以外の何物でもないじゃん」
「でも、もしかしたら実は血縁者だったりとか、何なら双子だったりとかしない?」
「んなわけないじゃん!!二人は苗字だって違うし、たぶん親戚とかでもないと思うよ?」
中学時代と同様に、高校になってもこの手の話題は女子たちの間で人気である。誰と誰が付き合っているだとか、誰のことが好きだとか・・・。
「鈴木君のことは話に聞いていて、チラッと見ただけだけど確かにカッコ良かったし・・・。くそぉ~、先を越されたかぁ~」
本気なのか冗談なのか、その子はそう言ってチッと舌打ちをする。
「ちなみに、相手の子は誰なの?知り合い?」
「ううん、知らない子。名前は確か、枕崎って言ってたっけかなぁ~」
そっかぁ~、枕崎かぁ~。どこかで聞いたことのある名前だなぁ~。
「鈴木君とは同じ中学だったみたいだし、それで仲良いみたい。もしかしたら、中学時代から付き合ってたのかもねぇ~」
「・・・・・」
大のBL好きであり、GLもイけるらしい我らが元クラス委員長である枕崎 香奈恵さん。過ぎ去りしあの日、彼女は言ってたっけかなぁ~。鈴木君は絵になるって・・・。鈴木君、大丈夫かなぁ~、大丈夫だといいなぁ・・・。
「そういえば、一色さんも大葉中学だっけ?」
「うん、そうだよ」
「もしかして、二人のこと知ってたりする?」
「うん、まあ・・・。知ってるといえば知ってるけど・・・」
言い淀む私に、彼女はなおもグイグイと迫ってくる。
「ねえねえ!!実際のところはどうなの?二人は中学時代から付き合ってるの?」
「そんな話は聞いたことないんだよねぇ~。二人はクラスも違ったしさ」
「じゃあ、高校に上がってから付き合い始めたってこと?!わ~お」
「・・・・・」
彼女の頭の中では、二人が付き合っていることはもう確定であるらしい。
「やっぱさぁ~、せっかく高校生になったんだから恋をしたいよねぇ~。できればイケメンと付き合いたいよねぇ~。上級生だと上月先輩が断トツで人気なんだけど、ウチの学年だとどうなんだろうなぁ~?」
そうして廊下を進み、私たちは自分たちの教室を目指す。
「ん?あれって、ウチのクラスの新地じゃね?それと隣にいるのは、伊東さん?」
私たちの視線の先には、教室の外で何やら話し込む二人の姿が・・・。
「もしかして、二人ってそういう関係?!」
「えぇ・・・」
「私たち、とんでもない現場を見ちゃったのかも?!」
「・・・・・」
ちなみにあとから彩音ちゃんに訊いたところによると、トイレ終わりに偶々かち合って雑談していただけらしい。彼女にはサッカー好きな弟がいるらしく、サッカー部へと入部した元クラスメイトにその内部情報を訊いて、それを弟に伝えようと考えていたらしいのである。
「まあ、そんなもんだよね」
家へと帰り着き、自分のベッドへと腰を下ろした私はそう独り言ちる。
「とはいえ、私も気を付けないとなぁ~」
中学時代にはそれで痛い目を見たし、男子と不用意に二人っきりになるシチュエーションは可能な限り避けるべきだろう。
「下手に目立てば武井君の耳にも入るかもしれないし、今はとにかく目立たないようにしとかないと・・・」
陽介が危惧し、私自身も警戒をマックスにしている人物、武井君。私の秘密を守るために、そして平穏な高校生活を送るために、私は改めて胸に刻むのだった。