第132話:不条理
高校の授業というものは、中々に難しい。一つ一つの教科内容のレベルもそうなのだけれど、そもそもその教科についても細分化され、例えば理科については化学だの物理だの生物だの地学だのに分けられて実質的に教科数が増えてるし・・・。
以前にも言ったような気がするのだけれど、私は別に勉強が得意なわけではない。現役の高校教師である両親を持つ私ではあるのだけれど、その地頭はどちらかというと残念な方で、偏にコツコツとした毎日の積み重ねによって何とかソレを克服しているに過ぎない。
そしてそんな平々凡々な私とは違って、幼馴染の一人である陽介は所謂天才というヤツである。彼は勉強は勿論運動だって人並み以上にこなし、それを何でもないことのように飄々とした態度を見せている。
私は体が小さく運動も苦手でオマケに勉強もそこまで得意ではなかったから、そんな万能戦士である陽介のことを羨ましく思ったものである。何なら現在進行形でも羨ましく思っており、私の羨望と若干の嫉妬を含んだ視線を受けた彼はよく苦笑いを浮かべている。
とはいえ勿論それは彼の努力の賜物であり、全てが生まれ持った資質だけではないことも重々理解している。ただ一方で生まれ持ったものというヤツは確かに存在しており、この世は絶対的に不公平だ。
現に私は頭の出来はともかくとして低身長で筋肉が付きにくい体質であり、それ以前に性分化疾患という訳の分からない先天的な疾患によって非常に重いリスクを強制的に抱える羽目になってしまった。
これを不条理と呼ばずして何と呼べばよいのか、他に適切な言葉があるのならば是非とも教えてほしい。いやまあ、仮にそれを知ったところで状況が改善されるわけではないので、特に意味は無いのだけれど。
「体育って、二クラス合同なんだねぇ~」
「クラスの数も多いからねぇ~」
「男女で別れてするのは有難いかもねぇ~」
「そうだねぇ~。特に水泳の時とか地獄だったもんねぇ・・・」
前の授業が終わり、教室の中は俄かに騒がしくなった。クラスの男子たちが隣の教室へと足早に移動していき、それと入れ替わるようにして隣のクラスの女子たちが私たちの教室へと駆け込んでくる。
そんな様子を自席から眺めながら、私は心中複雑な思いである。もしも私が生まれつきちゃんとした女子であったならば、こんな思いはせずに済んだハズなのに・・・。
(私は女子だ、生まれつき女子なんだ・・・。だから今の状況をどうこう思い悩む必要はないし、ないハズなのに・・・)
私の近くで、眞鍋さんが着替えている。教室の前方では、甲山さんが着替えている。今は全ての男子がいなくなった安心感からなのか眞鍋さんたちは上の下着をガッツリと晒しており、彼女たちと同様に他の女子たちも安心しきった表情で着替えを行っている。
(・・・・・)
中学生の時にも感じたのだけれど、この時期の私たちの体の成長というものは驚異的である。女子たちの胸は個人差こそあるものの大きく膨らみ、それがまた男女間に横たわる明確な性差というものを突き付けてくる。
そしてそれ故に、私は非常に気マズい思いを抱えている。男子だった頃の記憶のせいで、より大人の女性へと近付いた彼女たちの半裸姿を見て、居た堪れない気持ちがどうしても生じてしまうのである。
私だって、胸は成長している。その成長速度はカメのお散歩程度の速度なのかもしれないけれど、ちゃんと成長はしているのである。
それに腰回りはより一層丸みを増し、お尻だって・・・。生理だって毎月来るし、私は正真正銘女ではあるのだけれど・・・。
「うっしゃ、夏姫ちゃん、行こうか?」
「うん」
だから、気に病むことはない。
「ともっちも、グズグズしてないで行くよぉ~。それと彩音も」
「ちょっと待ってって!!まだ制汗スプレーが?!」
私は、女なんだから・・・。
「美月と紗彩も行くよぉ~」
「う~っす」 「はぁ~い」
堂々としていればいい。一人の女子高校生として、ただ堂々としていれば・・・。
「よぉ~し。今日は軽く柔軟をして、とりあえずグラウンド二十周行っとくかぁ~」
「「「「「えぇ・・・」」」」」
「冗談だ冗談。今日は初日だし、今後の大まかなスケジュール説明と、あとは適当に何か球技でもして時間潰すか。それじゃあ広がって、準備運動始めるぞぉ~」
「「「「「はぁ~い」」」」」
軽いストレッチをして、二人組になって・・・。
「ねえ、なっちゃん」
「ん?何?」
「気付いているとは思うんだけど、今みっちゃんたちの隣で柔軟してる子、峰島中学の元同級生だから」
・・・・・、え?
「あの子の名前は、木下 紗彩。みっちゃん同様に私とさっちゃんの友達」
「・・・・・」
「さあちゃんになっちゃんのことを話すかどうかは、また後で相談しよっか?」
「・・・・・。うん、それでお願い・・・」
あぁ、神様・・・。マジで勘弁して・・・。