第131話:一先ずの危機回避
私が高校一年生になって、三日が経った。私自身が抱える諸事情のせいで色々と不安だらけのスタートを迎えた高校生活は、今のところ危機的な状況は迎えていない。
初日こそ同じクラスになった甲山さんとの遣り取りでちょっとばかりヒヤッとしたけれど、それも今では解決している。彼女は元々ともちゃんたちの親友だったこともあり、私の秘密については黙認してくれているのだ。
「いやまあ最初は驚いたけど、でも逆に腑に落ちたっていうか、寧ろそうだよなってなったっていうか」
電車から降り高校へと向かうその道中で、甲山さんはウンウンと頷いている。
「中性的な顔立ちの子は他にもいたけどさ、一色さんは中性的っていうよりもモロに女顔だったし、見た目ロリだし」
「そうなんだよねぇ~。だから私もビビッときてさ、可愛いメイド服やゴスロリとか着せたら絶対に似合うって思って。でも本人は嫌がってたし、中々タイミングとか口実がねぇ~」
電車の中で合流した親しい女友達と固まって、私は高校へと向かう。そしてそんな私たちと同様に、校舎へと向かう高校生たちは親しい者同士で時折会話を挟みながらその歩みを進めていた。
「でも、不思議なこともあるもんだねぇ~。女の子なのにアレが付いてたってことでしょ?」
「うん、まあ・・・」
「それって、医学的には結構あることなの?」
「どうだろう・・・。お世話になった先生の話だと、数は物凄く少ないって話だったけど・・・」
その瞳を知的好奇心によってランランと輝かせた甲山さんの問いに、私はおずおずと答える。
「美月、その話はこの辺で。周りに人もいるし」
「・・・・・、そうだね。ゴメンね?ちょっと気になっちゃって」
ペロッと舌を出しながら、甲山さんは軽く頭を下げる。
「みっちゃんは真面目で優しいけどさ、偶にこうなるっていうか、自分の興味のあることには盲目になるっていうか」
「いやだって仕方ないじゃん?気になるものは気になるし・・・。私もネットで色々と調べてみたんだけどさ、ぶっちゃけよく解らなかったんだよねぇ~」
「だからって、このタイミングで訊く?」
「えへへ、ゴメンって」
そんなこんなで通学路を抜け校門を潜り、そのまま教室へと向かい自分の席へと着く私たち。
「そういえばさ、来週は健康診断と身体測定があるんだっけ?」
「うん、先生はそう言ってたね」
「そっか、そっかぁ・・・」
近くの席の眞鍋さんは、どこか虚ろな表情をしながらそう呟いている。
「オヤツ、我慢しなきゃなぁ~」
「・・・・・」
「前日は、夕食抜いとこうかなぁ~」
「・・・・・」
似たようなセリフを、中学の時も聞いたなぁ~。
「たぶんだけど、それをしても大して影響ないと思うよ?」
「いや、でも・・・」
「そもそもそんなに体重が気になるなら、運動部に入ればいいんじゃない?そうすればカロリー消費するだろうし」
「・・・・・」
眞鍋さんは上月先輩に一目惚れし、汗臭い青春ではなく桃色の青春を謳歌するためにバスケ部に入るのを止めたらしいのだけれど・・・。
「足が太くなるのは・・・、いやでも・・・」
「・・・・・」
「何か、何かないの?いい感じに痩せれて、美ボディを手に入れられる方法は・・・」
「・・・・・」
チャイムが鳴り先生が来てホームルームが始まり、そのまま本日の授業が開始されて・・・。
「何か、何かいい方法は・・・」
次の休み時間になっても、眞鍋さんはこんな感じ・・・。乙女心というヤツは女歴の短い私にとってまだまだ難解かつ複雑で、近くでウンウン唸る彼女に軽く目を遣りながら、いつか私にもその感情を理解できる日が来るのだろうか?と、私は一人自問自答するのだった。