第130話:薄氷上の勝利
峰島中学時代の元クラスメイトである甲山さんに事情を話すために、私たちは集まったはずだった。それなのに私はメイド服を着せられて、様々なポーズを取らされて、更には半裸に剥かれて体のサイズまで測られて・・・。
「ふむふむ、なるほど・・・。お胸の成長は今後に期待と」
「・・・・・」
「お尻は、意外と・・・」
「・・・・・」
そうして最後まで羞恥に塗れた話し合い?は続き、やがて会議はお開きとなった。
「それじゃあまたね~」
「うん、また明日ぁ~」 「バイバ~イ」
眞鍋さんと甲山さんは、実にイイ笑顔を浮かべながら帰っていった。
「よかったねぇ~、丸く収まってさ」
私の隣で二人を見送りながら、ともちゃんはそう宣う。
「メイド服、着る必要あった?」
「うん、あった」
「・・・・・」
「・・・・・」
そっか、あったのか・・・。
「いやさ、私もさっちゃんももっとスムーズに行くかと思ってたんだけど、思いの外みっちゃんが困惑しちゃってたから。学校でも擦れ違ってたし、ぶっちゃけもう気付いてんじゃねって思ってたんだけどなぁ~」
ともちゃんのその言葉に、私は背筋が寒くなる。
「え?それって、ワンチャン危なかったってこと?!」
「いや、そんなことは・・・。たぶん、メイビ~?」
「・・・・・」
ともちゃんの話だと、甲山さんとは結構長い付き合いだし、私の話をしても大丈夫だって踏んでいたみたいなんだけれど・・・。
「みっちゃんはちょ~っと頭が固いっていうか、変なところで真面目っていうか。でも基本優しい子だし、何よりも私とさっちゃんがいたし」
いや・・・、最初の方の反応は芳しくなかったし、結構危なかったんじゃない?
「だから、最終的にはなっちゃんにメイド服着せて、エロいポーズ取らせれば篭絡できるとは思ってたし、実際そうなったし。みっちゃんは可愛い物に目がないからねぇ~。それと、ああ見えて結構なムッツリスケベだし」
「えぇ・・・」
「とにかく、上手くいったからヨシ!はい、今日はもう解散!!」
「・・・・・」
ともちゃんから無理矢理押し付けられたメイド服を持って、私は自宅へと戻る。いやコレ、どうしろと?
「はぁ~、疲れた・・・」
本日は高校への初登校の日だというのに、物凄く濃かった気がする。
「でも、仕方ないよねぇ・・・。はぁ・・・」
持ち帰ったメイド服を衣装ダンスの最奥へと封印し、私は机の引き出しからとあるプリントを取り出す。それは、新一年生たちの名簿。
「う~む・・・」
最近では個人情報保護の観点からこうした資料は配られないことが多いらしいのだけれど、ウチの高校ではこうして配られている。各クラスごとに氏名がズラリと並ぶそれを見て若干大丈夫かな?とも思うのだけれど、今は有効に活用させてもらうとしよう。
「甲山さんに武井君に、あとは・・・。漢字までは覚えてないけど、それっぽい男子が他にもいるな・・・。それと女子も・・・」
クラスが違うから今のところは大丈夫だと思うけれど、でも注意だけはしとくとしよう。
「ふぁ~あ、結局あれから陽介とも喋れてないし、これから大丈夫かなぁ・・・」
小さな欠伸を零し、プリントを仕舞ってお風呂の準備をし・・・。
「あぁ、不安だ・・・」
私は誰にともなく、そう呟いたのだった。