第13話:精密検査
「夏樹、気分はどう?大丈夫そう?」
「まあ、大丈夫・・・」
とある夏休みの早朝、僕の体を突如として襲った異変。そんな異変を僕の上げた悲鳴によって察知した母親により、僕は病院へと連行されていた。
「母さん、仕事は大丈夫そう?」
「仕事って・・・。今はそれどころじゃないでしょう?」
「でも、今は夏期講習中だって・・・」
「そんなもの、適当にプリント配って解かせてるだけだから大丈夫よ。それに、私以外にも教員はいるし」
国語の教科担当として、ましてや高校三年生の副担任として、その発言はどうかとも思ったけれど・・・。
「・・・・・。ありがとう」
「いいのよこれくらい。夏樹にはいつも負担を掛けてるし、偶には母親らしいことしないと」
空いた道を走る車の振動が、心身共に弱り切った僕の体を蝕んでいく。あぁ、お腹が痛い・・・。
「夏樹?もう一度確認するけど、今までにこんなことは無かったのよね?」
「あるわけないでしょ・・・。あったら流石に言ってるって」
「まあ、そうよね・・・」
「・・・・・」
血塗れのベッドの上で気を失っている僕を見て、母さんも大きく取り乱してしまった。そのまま救急車も呼ばずに僕を往復ビンタで叩き起こし、戸惑う僕を置き去りにしたまま患部を確認しようとしていた。
そんな感じでテンパっていた母さんも、今では一応落ち着きを取り戻したように見える。寧ろ落ち着いてくれないと、助手席に座わっている僕としては安心できない。
「見た感じ傷は無かったし・・・。だとするとお尻から?消化器系の疾患?」
「・・・・・」
「う~ん・・・」
「・・・・・」
病院へと向かう道すがら、母さんはああでもないこうでもないとブツブツ呟いていた。だけれど、どんなに頭を捻ったところで、医学に疎い僕たちではこの症状の原因を突き止めることなんてできない。
「・・・・・。だいぶ待つことになりそうね・・・」
ようやくたどり着いた市立病院の待合室で、母さんは呟く。開院するよりもだいぶ早い時間に着いたにも拘わらず、僕たちの前には既に多くの患者さんたちの姿があったのだ。
「「・・・・・」」
病院特有の消毒液っぽいにおいが、僕の鼻を刺激する。小声でひそひそと会話する患者さんたちの声が、僕の耳を刺激する。
「「・・・・・」」
そうして待つこと一時間後、ようやく僕の名前が呼ばれる。僕はその体を母さんに支えられながら、ヨタヨタと診察室へ向かう。
「どうもはじめまして。内科医の桜田です」
「は、はじめまして」
診察室で僕たちを待ち構えていたのは、いかにも仕事ができそうな雰囲気を醸し出す若い女医さん。
「早速で申し訳ないのですが、先ずは症状の詳細を聞かせてもらえます?」
「はい」
手に持つ書類とパソコンのディスプレイを交互に眺めながら、その女医さんは次々と質問を投げ掛けてくる。
「・・・・・。ふむ、なるほどね?」
「「・・・・・」」
「とりあえず、先ずは患部の診察と、その後はCTを撮りましょうか?」
「「・・・・・」」
それから先のことは、思い出したくもない。診察用のベッドの上に寝かされたまま、僕は女医さんと女性の看護師さんたちに股を覗かれ弄られ・・・。僕の男としての尊厳は、砕け散ったガラスの如く粉々になってしまった。
そして、その後には大きな機械で患部の写真を撮ったり血を抜かれたり、その他にも尿検査したりよく解らない検査を多々受けて・・・。
「夏樹、大丈夫?」
「・・・・・」
心配そうに僕の顔を覗き込む母さんの問い掛けに、僕は答えることができない。
「もう少ししたら検査結果も出るらしいから、もうちょっと頑張って?」
「・・・・・。うん」
女医さん曰く簡易的な検査の結果が出るまでの待ち時間、僕と母さんは病院の待合室で落ち着かない時間を過ごすのだった。