第128話:メイド服再び?!
目標としていた高校に無事合格できた私ではあったのだけれど、そんな私には早速試練が訪れていた。私が進学した先の高校には峰島中学時代の元クラスメイトたちも進学しており、その人たちへの対策が急務となっていたのである。
そして今、私の目の前には一人の女子がいた。彼女の名前は甲山 美月さん。彼女はともちゃんや眞鍋さんの友達の一人であり、詰まるところ峰島中学時代の元クラスメイトの一人なのだ。
「つまり、一色さんは元夏樹君ってこと?ソックリさんとか親戚とかじゃなくて?」
「まあ、そうです」
「ふ~ん?」
「・・・・・」
ともちゃんと眞鍋さんがお菓子を摘まみながら後方で見守る中、私は甲山さんと対峙する。
「てことは、当然アレも付いてないんだよね?」
「ま、まあ・・・」
「ふ~ん?」
「・・・・・」
気マズい、とにかく気マズい・・・。
「ちょっと見てもいい?」
「え?」
「一色さんのアソコ、確認してもいい?」
「・・・・・」
お菓子を口に咥えながら、ともちゃんたちは力強く頷いている。そんな二人を見て、私は目尻から透明の液体をホロリと零した。
「いや、無理にとは言わないけどさ。でも確認って大事じゃん?皆の話を疑っているわけじゃあないんだけど、ちょっとまだよく理解できてないっていうか・・・」
甲山さんは、明らかに戸惑っていた。一応医学的なアレコレは前もって調べておいたし、私はスマホのメモに纏めておいたソレを使って懇切丁寧に説明したんだけれど・・・。
「えぇ~と、性分化疾患だっけ?」
「そうそう」
「それで、一色さんは元々女だけど女じゃなくて、それで手術して女になって?」
「・・・・・」
私の懇切丁寧な説明は、残念ながらイマイチだったようである。せっかく調べて纏めて、あんなに頑張ったのに・・・。
「みっちゃん、難しいことは置いといて、大事なのはこれからのことだよ」
「そうそう。性ナンチャラカンチャラとかはどうでもよくて、大事なのはこれだよ!!」
お菓子の破片をポロポロと零しながら、二人はズズイっと身を寄せてくる。
「これは?」
二人は、甲山さんの眼前にスマホの画面を突き付けていた。そしてその画面に表示されていたのは、ここからだと甲山さんが壁となって見えない・・・。
「メ、メイド服?てかこれって、一色さん?」
不穏な単語を耳にして、私は震え上がる。え、メイド服?何故にメイド?
「この写真、どう思う?」
「どうって、エロ可愛いとしか・・・」
「男とか女とか、これを見たらもうどうでもよくならない?」
「えぇ?いやまあ、元々夏樹君はアレだったし、そこまで気にならないといえばそうかも?」
三人の視線が、私へと集中する。
「私、思うのよ。夏姫ちゃんは逸材だって」
「い、逸材?」
「そう、逸材。何ていうか、夏姫ちゃんを見てると嗜虐心がムクムクと湧き上がってくるっていうか、庇護欲をそそられるっていうか」
眞鍋さんの瞳が、私の顔を射抜く。その瞳はギラギラとした妖しい輝きに満ちており、それを見た私はブルリと体を震わせる。
「ともっち、例のブツを」
「はっ!少々お待ちを!!」
クッションから立ち上がり、ともちゃんは衣装ダンスの下へと向かう。そしてその中から封印されしあの忌まわしい衣装を取り出し、それを私の眼前へと突き付けてくる。
「てかコレなっちゃんのなんだから、自分家に持って帰ってよ」
「えぇ・・・、嫌だよ・・・」
「とにかくはい、サッサと着替えて」
「・・・・・」
ともちゃんと眞鍋さんの鋭い視線が、私を射抜く。甲山さんが何とも言えない表情を浮かべながら、状況を見守っている。
(何で、何でこんなことに・・・。てかこの状況でメイド服って、マジで意味不明なんですけど?!)
心の中だけで毒づいてみるのだけれど、勿論それだけでは状況は好転しない。私は三人の視線に色々と居た堪れなくなりながら、メイド服をその手に持って部屋を後にしたのだった。