第127話:緊急招集
本日の全ての予定が終わり、私たちは帰路に就いていた。私は肩掛けバックの紐の位置を小まめに直しながら、駅へと向かって歩みを進めていく。
「ねえ、なっちゃん。今日帰ったらさ、ちょっとだけ時間ある?」
私の横を歩くともちゃんが、小声で話し掛けてくる。
「うん、大丈夫だよ」
「おけ。じゃあ、お昼ご飯食べ終わったら私の部屋に集合で」
今の時間は、午後の十三時ちょっと前。予定よりも部活動紹介が長引いた影響でお昼の時間を過ぎてしまったけれど、時間的には全然余裕がある。
「さっちゃんと、美月も呼んでるから」
「・・・・・」
「彩音ちゃんは用事があるみたいだから、今回はパスね」
「・・・・・」
駅へと辿り着き、そのまま帰りの電車に乗って家へと戻って・・・。
「お邪魔しまぁ~す」
着替えを済ませてお昼ご飯を食べて、そのままともちゃんの部屋へと直行する私。
「さっちゃんたちも、二時半くらいには着くって」
スマホの画面を睨みながら、ともちゃんは言う。
「美月とは、もう話した?」
「ううん。ちょっと挨拶しただけ」
「そっか。どんな顔してた?」
「う~ん、特に変な反応はしてなかったと思うんだけど・・・」
挨拶といっても、教室で擦れ違う際に軽く頭を下げただけだし・・・。今日は登校初日ということで教室の中はバタバタとしており、じっくりとお互いの顔を見合いながら話したわけじゃあないから、ワンチャン相手はまだ気付いていない可能性も・・・。
「どちらにせよそう遠からずバレると思うし、それなら早めに伝えといた方がいいかなって思って。さっちゃんとも話したんだけど、美月なら大丈夫だろうし」
「・・・・・」
「なっちゃんは髪とか伸びたけどさ、ぶっちゃけ名前はそのまんまだし、顔も殆ど変わってないんだよね。だから分かる人には丸分かりっていうか、全然隠せてないっていうか・・・」
さっちゃんこと眞鍋 沙紀さん同様、甲山 美月さんもともちゃんの親友の一人である。とはいえ峰島中学時代の私は陽介にべったりだったし、彼女とはそこまで絡みがなかったりする。
「甲山さんには、まだ話してないんだよね?」
「うん、まだだよ。高校受験が終わるまでは下手に広めない方がいいかなって思ったし、さっちゃんや雪ちゃんたちも同じ考えだったから」
私が高校へと進学すれば、峰島中学時代のクラスメイトたちと再会してしまう危険性があった。だからともちゃんは眞鍋さんや彩音ちゃんたちに事実を伝えてその前準備をしたのだし、その甲斐もあって私は比較的落ち着いた状態でこの日を迎えることができた。
だけれども、本当の問題はここからである。ともちゃんの親友である甲山さんはともかくとして、私が通うこととなった高校には他にもかつての顔見知りがいる。例えば武井君とか・・・。
「だからこそ、もっと仲間を集める必要があるなって。なっちゃんの事情を知っている仲間が増えれば、それだけカバーもできるっしょ」
本来であれば、その仲間に雪ちゃんや桜ちゃんも含まれていたんだけれど、彼女たちは残念ながら大宮高校の受験に失敗してしまった。それに陽介も別のクラスだし、そもそも彼は学校では距離を置こうって言ってるし・・・。
「でも、大丈夫かな。今更だけど、眞鍋さんたちの負担になってないかな?」
私としてはそこが気掛かりっていうか、大変申し訳ないっていうか・・・。
「それこそ今更だって。そもそもこの話はさっちゃんの方からされたんだし」
「でも・・・」
「それに、この程度で負担に感じるほどさっちゃんたちは弱くないよ。二人とも私の信じる友達だし、大丈夫だって」
「・・・・・」
それから暫くの間、私たちはお喋りしながら時間を潰した。
「へぇ~、その新地って男子、なっちゃんの元クラスメイトなんだ?」
「うん。新しいクラスでの知り合いは、彩音ちゃん以外だと新地君くらいかな」
「その新地君って子、どんな感じの男子なの?」
「どんな感じって言われても・・・」
新地君は私のことをチビだのチビ助だの言ってきて、鈴木君とのアレコレとか、小林さんとのアレコレとか・・・。他にも、彼の前でオナラを漏らしたこともあったっけ・・・。
改めて思い返してみると、碌な思い出がないな・・・。でも新地君にはカラオケ店で大柄な男子たちに絡まれている時に助けられたし、悪い人ではないんだよなぁ・・・。
「新地君は、普通の男子だよ」
「普通の?」
「そう。ほどほどに子供っぽくてたまぁ~に親切で、そんなどこにでもいる普通の男子」
「・・・・・。ふ~ん、なるほどねぇ~」
そうして待つこと三十分後、ともちゃんの家のチャイム音が玄関から聞こえてきた。
「いらっしゃ~い」
「入るぜぇ~!!」 「お邪魔しまぁ~す」
ともちゃんに先導されてやってきたのは、私服姿となった眞鍋さんと甲山さん。
「それでは、今から緊急会議を開催します。議題は、乙女と化したなっちゃんについて」
ここに来るまでに、眞鍋さんからおおよその事情を聞いていたのだろうか。甲山さんはクッションの上にチョコンと座る私を見ても、特に驚いた様子は見られない。
「それでは改めて紹介します。一色 夏樹改め、なっちゃんです!!」
「ど、どうも・・・。夏姫です・・・」
ともちゃん主催による緊急会議が、今ここに幕を開けたのだった。