第123話:懐かしい光景
ピンク色の花桜が咲き乱れ、日差しも暖かな春のとある日の朝、私は真新しい制服に身を包み歩道を歩いていた。
「おぉ~、なっちゃん、似合ってるねぇ~」
駅へと続く道を歩きながら、私に声を掛けてくる人物。それは、私と同じく真新しい制服に身を包んだともちゃん。
「いやまさか、女子の制服を着たなっちゃんと一緒に学校に行く日が来るなんて、何だか感慨深いねぇ~」
ともちゃんのしみじみとした呟きに、私は何とも言えない気持ちになる。
「私だって、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったよ・・・。そう、あの日まではね・・・」
本来であれば、今頃私は男子の制服を着て高校へと向かっていたハズなのに・・・。神様はどうしてこうも意地悪なのだろう・・・。
「まあいいじゃん。似合ってるんだからさ!!」
「いや、ともちゃん。前は女子の服着るなって言ってなかったっけ?」
何でか知らないけれど、ともちゃんは私が女子っぽい服装をするのを嫌がっていた気がする。いやまあ、私も心中複雑だったし、逆の立場だったとしたら色々と感じるところはあるだろうけどさ・・・。
「あの時はまあ、私にも色々とあったんだよ。でも今は、ちょっとだけ吹っ切れたっていうか・・・。とにかく、似合ってるんだから問題無し!!ねえ陽介?」
「え、俺?」
突然話を振られた陽介は、困惑していた。
「そう、俺だよ俺!!なっちゃんの制服、似合ってるでしょ?」
「・・・・・。いやまあ、似合ってはいるけど・・・」
私の方をチラリと見た陽介は、それだけ言ってすぐ視線を逸らしてしまう。
「ちょっとぉ~。女の子の服を褒める時はちゃんと本人の方を向いて褒めなさいよぉ~」
「えぇ・・・」
「ほらほらぁ~」
「・・・・・」
ともちゃんによって無理矢理頭を固定され、陽介は私へと視線を向ける。
「「・・・・・」」
何だろう、改めてそんな風にジッと見つめられると照れるんだけど・・・。
「ちょっとぉ~、何二人して赤くなってるのよぉ~」
「いや、別に・・・」 「・・・・・」
「もしかして、なっちゃんのアソコ見たことまだ引き摺ってんの?」
「「ぶふぉっ?!」」
ここは、駅から少し離れた場所にある住宅地。今の時間は朝であり、仕事や学校へと向かう人たちの姿もチラホラと見える。
そんな人通りもある場所で、この子は何を言っているのだろう?!本当にもう、何てことを口にしているんだろう?!
「ともちゃんは、ちょっと口を閉じてて!!」
「むぐぐ・・・」
「おまえは本当にデリカシーが足りないっていうか、色々と残念なヤツだよ・・・」
「むむむ・・・」
それは、私が女子として過ごすことになる遥か以前から続いていたいつもの光景で、非常に懐かしいものであった。あの頃の私たちも、いつも三人で学校へと向かいながらくだらないお喋りをして・・・。
「ぷはっ?!もう、口まで塞ぐことないじゃない。そもそも小声で話してるんだから、周りには聞こえてないって」
ともちゃんはあの頃と同じく元気いっぱいで、絶妙に残念で・・・。
「だとしても、外で話す内容じゃねーだろ・・・。つか、変なこと思い出させるなよ・・・」
陽介も、あの頃と同じく真面目な苦労人で、相も変わらずともちゃんに振り回されていて・・・。
「とにかく、その話は金輪際口に出さないこと」
「えぇ・・・」
「返事はハイかイエスのみ!!」
「・・・・・。は~い」
こうして私たちは、実に一年半ぶりに三人で通学路を歩くのだった。