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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第七章:高校一年生
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第122話:入学式前のとある一日

 高校の合格発表も終わり、入学式がもう目の前へと迫っていたとある日、私は雪ちゃんとその親友である桜ちゃんたちと共にカラオケ店へと来ていた。進学先が真っ二つに割れてしまった私たちは今まで通り四人揃って集まることは難しくなり、集まれるうちにもう一度遊ぼうと集合したわけなのである。


「聴いてください。悲しみのバラード・・・」


 決して広くはない部屋の中に、機械から流れる音楽と桜ちゃんの歌声が響き渡る。それはいつも彼女が歌っているヘビメタと違ってしっとりとしており、だけれども彼女の微妙にズレている音程によって絶妙な不協和音を醸し出していた。


「よりによって、何でバラードなのよ・・・。あんたはヘビメタ歌っときなさいよ・・・」

「いやだって、ヘビメタ滅茶苦茶不評じゃん?だから偶には別の歌にしようかなって・・・」

「あんたのヘビメタが不評なのは、音程が滅茶苦茶でただ絶叫してるだけだからでしょうが!!そもそもさっきのバラードだって音外しまくってるし・・・」

「いや、私元々音痴だし・・・。それにヘビメタは何ていうか、魂を解放できてスッキリするっていうか・・・」


 いつも通りの、桜ちゃんと彩音ちゃんによる掛け合い。これももう見れなくなるのか、そう思うと寂しくなるなぁ・・・。


「何、夏ちゃん。しんみりしちゃって」

「いや、何ていうか・・・」

「もしかして、寂しい?」

「・・・・・。うん、まあ・・・」


 私たちは元々、四人揃って一緒の公立高校に行く予定であった。私含めて将来の目標とか進学先への明確な希望とかが一切無かった私たちではあるのだけれど、それを目指して皆頑張ってはいたのだ。

 だがしかし、現実は甘くなどなかった。無事目標としていた高校に合格できたのは私と彩音ちゃんだけであり、雪ちゃんと桜ちゃんは滑り止めとして受けていた私立の高校へと行くことになった。


「まあ確かに、四人でワチャワチャできなくなるのは寂しいけどさ。でも、仕方ないじゃん」

「雪ちゃん・・・」

「私も桜も頑張ったんだけどさ、ちょっと勉強サボり過ぎたっていうか・・・。色々と手遅れだったっていうか・・・」


 どこか遠い目をする雪ちゃんに、私は掛けるべき言葉が見つからない。


「夏ちゃんや夏ちゃんのお母さんに勉強教えてもらったのに、このザマだよ。本当に申し訳ないっていうか、うぅ・・・」


 ついには私の胸元へとその顔を埋め、シクシクとウソ泣きを始めてしまった雪ちゃん。この前までガチで凹んでいたので本当に声を掛け辛かったのだけれど、この分だと少しは回復したのかな?


「まあ、泣いていても状況は変わらないし、今日は皆で歌い倒そうぜ!!」

「そうそう。今後一切会えなくなるわけじゃないんだし、今日は楽しもうよ?」


 桜ちゃんに髪の毛を引っ張られた雪ちゃんが、私の胸元から遠ざかっていく。そのまま二人してヘビメタを熱唱し、そんな二人を彩音ちゃんと共に見守りながら私は手に持つタンバリンを適当にシャラシャラと揺らす。


「とはいえ、やっぱり寂しくなるなぁ~」

「彩音ちゃんと桜ちゃんは、ずっと一緒の学校なんだっけ?」

「うん、そうだよ。保育園の時からそう。だから四六時中一緒にいて、いつも一緒にいるのが当たり前で・・・」


 そう言いながら、彩音ちゃんは寂し気な笑みを浮かべている。


「いつかは離れる時が来るんだって、解ってはいたんだけどさ。沙紀さきとのこともあったし、だから解ってはいたんだけど・・・」


 私も初めて陽介たちと離れ離れになった時は、不安で仕方がなかった。あの時はそれ以外の感情でだいぶマヒしてはいたんだけれど、今思うと私は幼馴染たちに相当依存していたんだと思う。

 学校だけではなくて家に帰ってからも大抵一緒にいて、休日なんかはお互いの部屋を行き来しあって長い時間を一緒に過ごして。そんな人たちと突然離されてしまうのは、何というか心にくるものがある。


「夏姫ちゃんは、他にも知り合いがいるんだっけ?」

「うん、向こうで仲良くしてた幼馴染がいる」

「そっか・・・。まあ、私も沙紀ちゃんがいるし、高校でも仲良くしようね?」


 そうして楽しくもどこかしんみりとした時間は過ぎ、やがて夕方となった。


「それじゃあ、またね?」


 駅の改札口前で私は三人の方を振り返り、そう言葉を発する。


「うん!!」 「おう!!」 「またね!!」


 次にこの四人で集まるのは、果たしていつになるのだろう。もしかしたらまたすぐに集まるかもしれないし、この四人だけで遊ぶのはこれで最後になるかもしれない。


「・・・・・」


 程々に空いた電車の席に腰を下ろしながら、私はぼんやりと窓の外を眺める。そんな窓の外にはやや赤みが差した空が広がっており、それはセンチメンタルな私の心を大きく揺さぶるのだった。

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