第121話:悲喜こもごもの春
ここから第七章(121話~140話)となります。いよいよ高校生編へと突入、主要な登場人物にも変化が見られ、ここから先はより恋愛要素が強まっていく、ハズ?
春の暖かな光が降り注ぐとある日中、私は実家にいた。本日は珍しく両親ともに家におり、私の新しい制服姿を二人して眺めながら手に持つスマホをパシャパシャと光らせていた。
「うん、良く似合ってるわよ?」
「あ、ありがとう・・・」
「それにしても、夏姫ももう高校生なのねぇ~。何だか感慨深いわねぇ~」
母さんが言う通り、私は無事高校生となった。目標としていた大宮高校の入試を突破した私は今、紛うことなき高校一年生なのである。
「陽介君や知美ちゃんも無事合格できたし、本当に良かったわねえ~」
「うん、そうだね」
「それに引き替え雪ちゃんは、本当に残念だったわねぇ・・・」
「うん、そうだね・・・」
私と同様に大宮高校を目指していた人たちは、たくさんいた。従妹の雪ちゃんに幼馴染の二人、他にも中学時代に仲の良かった桜ちゃんや彩音ちゃんに、あとは確か委員長の枕崎さんとかもそうだったような?
だけれど誠に残念なことに、その全員が無事大宮高校に合格できたわけではなかった。私の従妹の雪ちゃんは私立行きとなり、同じく私立行きとなった桜ちゃんと共に滂沱の涙を流す結果となったのだ。
「雪ちゃん、あんなに頑張ったのにねぇ・・・。姉さんには悪いことしたかしら・・・」
現役の高校教師である母さんも、連休中なんかは私と雪ちゃんの勉強を見てくれていたんだけれど、あと一歩届かなかったみたいだ。雪ちゃん、血の涙を流しながら頑張っていたんだけどねぇ・・・。
とはいえ、こればっかりは仕方がない。元はと言えば勉強をサボっていた雪ちゃんに非があるわけだし、それだけ他の受験生たちが頑張ったのだろうから。
「とにかく、もう雪ちゃんには頼れないんだから、夏姫もしっかりしなさいよ?」
「はいはい、解ってるって・・・」
「本当かしら?夏姫はしっかりしているけれど、ちょ~っと押しに弱いっていうか、受け身過ぎるっていうか・・・。夏姫が男の子だったらそこまで心配しないんだけど、女の子だから私たち色々と心配だわ」
そう言って母さんは、大きな溜息を零す。別に、押しに弱いとかないし・・・。心配されるようなことはないし・・・。
「ふ~ん、本当かしら?」
「な、何よ・・・」
「夏姫、あなた、知美ちゃんにキスされたんですって?」
「「ぶほっ?!」」
な、何故そのことを?!てか父さん、唾汚いって?!
「キ、キス?!夏姫がキスゥ~~?!」
「ちょ、父さん落ち着いて?!てか母さんは何でそのこと知ってるの?!」
「何でって、陽介君のお母さんから聞いたに決まってるじゃない」
おぅ、オ~マイガ~・・・。
「夏姫がキス・・・、夏姫が・・・」
「あなた落ち着いて?高々キスよ?それに相手は知美ちゃんだし」
「いや高々って・・・。てか、女の子同士で?」
目の下に薄っすらとクマを浮かべた父さんが、私へと胡乱気な視線を向けてくる。そんな視線をガン無視しながら、私はその視線を母さんへと向ける。
「一線を超えない限りは、とやかく言うつもりはないけど・・・。でも、あなたたちはまだ未成年なんだから、節度は守りなさいよ?」
「・・・・・」
「いい?」
「・・・・・。ハイ・・・」
その後も好き放題言われ、パシャパシャと無数の写真を撮られ、私は心身共に疲弊しながら自室へと戻る。
「はぁ~、もう、全く・・・」
皺ができないように制服を脱ぎ、部屋着へと着替え直した私はベッドへとダイブする。
「むふぅ~」
そうしてそのまま枕へと顔を押し付け、ゴロゴロと意味もなくベッド上をゴロゴロする私。
「ふぁ~、やっぱ自分の部屋は落ち着くなぁ~」
高校へと進学するにあたり、私は実家へと戻ってきていた。これは元々その予定で決められていたことであり、いくら親戚であるとはいえ、いつまでも従妹の家にお世話になりっ放しというわけにもいかないだろうし・・・。
そんなわけで、傷心中の雪ちゃんを置いて私はここへと戻ってきたわけなのである。互いに違う高校へと行くことになり、家でも会うことができなくなってしまったため雪ちゃんは渋っていたのだけれど、母さんたちも寂しがっていたからねぇ~。
「でも、早まったかなぁ・・・」
まさか、ともちゃんとのことが母さんにバレているなんて・・・。
「むむむ・・・」
最も知られたくなかった相手に、私たちの秘密は知られてしまった。いやまあ公然と人前でキスしていたので、秘密も何もないのだけれど・・・。
「はぁ・・・、ホントどうしよう・・・」
高校受験という試練を終えた私の眼前には、まだまだ解決すべき難題が残っていた。そんな難題に頭を抱えながら、私は一人ウンウンと唸るのだった。