第12話:異変
久しぶりに夢を見た。しかも悪夢・・・。
僕はあんまり夢を見ないというか寝起きに速攻忘れるというか、悪夢だろうと楽しい夢だろうと基本的には一切脳内に残らないタイプだったんだけれど・・・。
その夢の中では、何故か凶悪な嗤い顔を浮かべた武井君が出てきた。そして、二人っきりでの無限鬼ごっこが始まった。
昨日、鬼の形相を浮かべた武井君と出くわしたからだろうか?良くも悪くも印象的な出来事であったが故に、僕の脳内に彼の顔が焼き付いていたからだろうか?
とにかく、夢補正によって更に凶悪さを増した武井君がその顔を歪めながら、何故か僕のことをひたすらに追い掛けてきたのである。
怖かった。ガチで泣きそうだった。これが夢でなくリアルであったならば、間違いなくチビっているくらいにはガクブルであった。
体が小さく女顔であるが故に、小さな頃から同性のクラスメイトたちに揶揄われ続けてきた僕。そのような経験も手伝って、僕は同世代の男子たちに対して苦手意識を持っていた。
そんな理由もあって、体が大きく筋肉質であり、それらに加えて粗暴な気質を持つ武井君は僕の天敵であった。ズバリ言おう!!超苦手だった・・・。
そんな僕にとっての超天敵である武井君が、その凶悪さを夢補正によって増し増しにされひたすら僕のことを追い掛けてくるのである。これを悪夢と言わずして何と言おう。
「んぁ・・・、あふぅ」
脳内にこびり付く悪夢を振り払うべく、僕は欠伸を零しつつも必死に頭を振るう。
「んんぅ・・・」
せっかくの夏休みの朝だというのに、本当に最悪の気分である。全くもう、本当に・・・。
「ううん・・・。何だ、まだ五時か・・・」
枕元に置いてあった目覚まし時計の針は、まだ早朝を指していた。
「どうしようかな、二度寝しようかな・・・」
悪夢の残滓によって不快な気分のまま、僕はベッドの上を無意味にゴロゴロと転がる。そして、不意に股間の違和感に気付く。
「・・・・・。え?」
おかしい・・・、絶対におかしい・・・。
「まさか、いやそんなハズは・・・」
僕は、夢を見た。チビリそうになるくらいに恐ろしい悪夢を見た。だけど、まさか・・・。
「この歳になって、お漏らしだと?!」
僕が自分自身の股間に感じた違和感。それは、ぬっちょりと湿ったいやぁ~な感触。
「・・・・・」
部屋の中は、まだ薄暗かった。だから、寝起き眼のままでその惨状を確認することは難しかった。
「・・・・・、ゴクリ」
僕は、恐る恐る部屋の電気を点ける。そして、全力で目を背けたい非情な現実へと視線を向ける。
「え?」
そこには、赤があった。僕の穿いていた短パンとベッドのシーツは、真っ赤に染まっていた。
「ッスゥーーーー」
あまりの非現実的な光景に、僕の脳みそは最大級の警報を発する。これ以上は、アカン・・・。
「これは、血?いやまさか、あはははは・・・」
錆び付いた鉄のような何とも表現しがたい不快なにおいが、僕の鼻を刺激する。
「・・・・・」
そして僕は、深淵を覗く。その真っ赤な何かがどこから現れたのか、それを確認するために・・・。
「あぁ、ああぁああぁぁぁああ?!」
当然の如く、僕の予想通り、パンツの中も真っ赤な何かで溢れており・・・。
「いやぁああぁぁぁぁぁあぁあぁ?!」
かつて上げたこともないような甲高い声の悲鳴を上げながら、僕はその意識を手放したのだった。