第117話:アンラッキー
心落ち着く自分の部屋を飛び出し、私は現在リビングで勉強中。そしてそんな私の隣と真正面には、陽介とともちゃんの姿があった。
「こっちに帰ってきてるなら、教えてくれればいいのに」
「いや教えたじゃん?」
「もっと早くってことよ!!なっちゃんが帰ってきたの、三日前なんでしょ?」
「うん、まあ、そうなんだけどさ」
でも、二人とも最近勉強で忙しそうだったから。だからスマホでの連絡も遠慮してたっていうか・・・。
「それとこれとは別!もう、陽介からも何か言ってやってよ!!」
「えぇ・・・」
いつも通り本日も一人で勉強する予定だった私は、一先ず二人に連絡を入れることにした。勉強で忙しいだろうからなるべく無駄な連絡は避けていたんだけれど、そのうち顔を見せるつもりではいたから。
そうしたら、ともちゃんが怒鳴り込んできた。隣に陽介も連れて、怒鳴り込んできた・・・。私はその日誰とも会うつもりはなかったから、今の私は上下ジャージ姿という非常にラフな格好であり、何なら寝癖もそのままなのでちょっとだけ恥ずかしい。
「とにかく、今後はもっと早く連絡入れること!!いい?」
「・・・・・」
「いい?」
「はい、解りました・・・」
一先ず、ともちゃんの怒りは収まった。あとはこのまま何事もなく三人で勉強し、平和裏に今日を終えられるといいのだけれど・・・。
「・・・・・。何?」
「いや、何でもない・・・」
勉強嫌いで飽き性で沸点が低くて、そんなともちゃんが果たしてこのまま大人しく勉強を続けてくれるのだろうか?私はとても心配である。
「う、う~ん・・・」
「「・・・・・」」
「う~ん?」
「「・・・・・」」
そうして時間は過ぎ、意外にもともちゃんは真面目に問題集に取り組んでいた。以前であれば宿題すらも投げ出して、私や陽介に呆れられていたあのともちゃんが・・・。
人って、成長するんだなぁ~。私は良い意味で変わってしまった幼馴染の姿に思わず涙ぐむ。
「そろそろお昼だけど、二人はどうする?特に準備がないなら、何か適当に用意するけど」
成長したともちゃんの姿を眺めながら勉強を進めること数時間後、時計の針は丁度正午を指そうとしていた。
「ああ、俺は親が準備してくれてるから、一旦家に戻るわ」
「了解。ともちゃんは?」
「私は総菜パンしかないし、なっちゃんの手作りが食べたいな?」
「・・・・・。了解・・・」
冷蔵庫の中には、焼きそばがあったな・・・。お昼はそれでいっか・・・。
「じゃあ、またあとでな?」
「うん」
椅子から立ち上がり荷物を持って玄関へと向かう幼馴染を、私はのんびりと追う。そして、そんな私たちを無駄に元気なともちゃんが追い掛けてくる。
「おっとっと、ぐへ?!」
私の背後から聞こえてきたのは、ともちゃんの焦ったような声と、潰れたカエルのような声・・・。
「「えっ?」」
ともちゃんは、そのつま先を椅子の足に引っ掛けて盛大にすっころんでいた。転ぶ際に、私のズボンとパンツを掴んで膝下まで摺り下ろしながら・・・。
驚き背後を振り返った陽介の目には、剥き出しにされた私の股間がバッチリと映っていることだろう。昔一緒にお風呂に入った時に見たそれではなく、女子のそれへと変貌した私の股間が・・・。
「「「・・・・・」」」
今年の私は、厄年なのかもしれない。昨年も大概だった気がするけれど、ここ最近の私はことごとくツイていない気がする。
「あ、あの、なっちゃん?」
私は無言のままにパンツとジャージのズボンを引き上げ、そのままともちゃんを睨み付ける。
「これは事故っていうか、わざとじゃないっていうか・・・」
全ての表情を消し去った私と、そんな私を見てオロオロするともちゃん。そして、私たちの背後で顔を真っ赤にしながら気マズそうに佇む陽介・・・。
「とにかく、ごめん・・・」
「・・・・・」
「ほら!!陽介も一緒に謝って?!」
「「・・・・・」」
その後私はともちゃんと陽介から渾身の土下座を受け、泣く泣くその場を収めるのだった。