第116話:帰省
秋も終わり冬休みへと突入し、今は十二月下旬の月曜日。私は雪ちゃんの家を飛び出し、久しぶりに実家にある自分の部屋へと帰ってきていた。
冬休み期間中も雪ちゃんの家で一緒に勉強してもよかったのだけれど、今は雪ちゃんの実姉である秋葉お姉ちゃんが帰省中。秋葉お姉ちゃんはそのまま部屋を使っていいよって言ってくれたんだけれど、せっかくの機会だったので久しぶりに実家へと舞い戻ったわけなのである。
「何か久しぶりだなぁ~」
こちらの街に帰ってくることは、ちょくちょくあった。だけれど、その殆どを陽介の部屋とかともちゃんの部屋で過ごしたし、自分の部屋に帰ってきたのは本当に久しぶりだったりする。
「あぁ~、何か落ち着くなぁ~」
その部屋は、あの夏の頃から殆ど変わっていない。向こうに持っていったのは新しく買った着替えと勉強道具くらいだったから、部屋のレイアウトはほぼほぼ同じままだった。
「ちょっと埃っぽいかな?今のうちに掃除しとこ」
母さんたちが定期的に掃除していてくれたとは思うのだけれど、如何せんウチの両親は忙しい身。現に冬休み期間中であるにも拘わらず二人して職場へと赴き、今も現在進行形で仕事の真っ最中である。
「ふんふんふふ~ん」
はたきで埃を落し掃除機をかけ、軽い拭き掃除で仕上げていく。そうして一通りの掃除を終えた私は、タンスの中身や引き出しの中身を確認していく。
「う~ん、これはどうしよう・・・」
タンスの中には、夏樹の頃に着ていた衣類が残っていた。引き出しの中には、もう使うことのないだろうプリント類が残っていた。
「プリント類は、もうちょっとあとでいいか。万が一ってこともあるし・・・」
引き出しの中の整理を一旦諦めた私は、タンスの中で眠っていた衣類を取り出す。男性用の下着に、その他ズボンや上着が色々・・・。
「これ、まだ捨ててなかったのか」
男性用の下着は、ポイでいいだろう。ズボンも、今の私のお尻のサイズ的に微妙かもしれない。
「う、う~む・・・」
案の定というべきか、試しで穿いてみたズボンは腰回りがキツく、お尻のラインが丸見えになってしまうため今後の着用は厳しそうだった。ちょっと勿体ない気もするけれど、これもポイだな・・・。
「上着は、まだ着れるかも?」
ズボンに引き続き、私は上着の試着を試みる。
「・・・・・」
着れないことは、ない。寧ろ全然着れる。私は身長がそんなに伸びていないし、胸もそこまで育っていないから・・・。
「それはそれで、何か微妙だなぁ・・・」
そうして要らない衣類を一旦部屋の隅へと置き、タンスの中を整理していく私。
「とりあえず、こんなものかなぁ~」
ほんのちょっとだけ整理されたタンスと、埃を取り除いた部屋。それを見た私は謎の達成感に包まれ、満足げに大きく頷く。
「よし、それじゃあ勉強するか」
今頃は雪ちゃんも、秋葉お姉ちゃんにせっつかれながら勉強をしていることだろう。彼女のことは頼りになる従姉に任せて、私は自分自身のことに集中する。
「先ずは、数学から・・・」
高校受験本番まで、もうそんなに時間はない。今年の夏頃にはまだまだ先のように思えていたそれは、気が付けばもう目と鼻の先にまで迫っていた。