第112話:解放
「私が悠君のことを意識するようになったのは、去年の秋頃だったかな・・・。その頃悠君から転校生のことを、一色先輩のことをよく聞くようになって、それで嫉妬したっていうか意識しだしたっていうか・・・」
「・・・・・」
「悠君が女子の話をするのは珍しかったから、よく覚えています。ちっちゃな女の子が転校してきたって、ドンくさくてトロくて、一人で黒板を綺麗にすることもできないくらいにチビ助なんだって」
「・・・・・」
今は、何時だろう?十六時ちょっと過ぎに帰りのホームルームが終わって、それから三十分くらい体育祭実行委員会議をして、だから今は十七時くらいかな?
雪ちゃんたちは私が戻るまで教室で勉強してるって言ってたから、そろそろ戻らないとなぁ~。戻れるかなぁ・・・。
「でも、何かほっとけないんだって言ってました。昔の私を見ているようで、妹を見ているようでほっとけないって・・・」
「・・・・・」
「だからついつい手を貸しちゃうんだって、笑いながら・・・」
「・・・・・」
自分語りをする小林さんの目付きが、次第に険しくなっていく。あの、鈴木君?本当に大丈夫なんですよね?
「あの時の私はただただ嫉妬に駆られて、それであんなことまでしちゃって・・・。そのせいで先輩たちにも迷惑かけちゃって、本当にすみませんでした」
「ああ、いや、そのことはもう謝罪ももらってるから・・・」
だからもう気にしてないっていうか、寧ろもう関わりたくないっていうか・・・。
「鈴木先輩と話していて、ちょっとだけ冷静になれたっていうか。悠君は一色先輩のことが好きでその話をしたんじゃなくて、単に転校生が珍しくてその話をしたんだって」
「へ、へぇ~?」
「それに悠君は、一色先輩のことを昔の私みたいだって言ってたし。それって、それくらい私への思いが強いっていうか、私のことを思ってくれてるっていうか」
「・・・・・」
あぁ、早く帰りたいなぁ・・・。私は何でここにいるんだろうなぁ・・・。
「悠君は、私のことを誰よりも大事に思ってくれている。だけれど、距離が近過ぎたせいで私のことを異性として見れなくなってしまっている」
「・・・・・」
「それは、とても不幸なことだと思いませんか?二人ともお互いのことをこんなにも思っているのに、それが微妙に擦れ違ってしまっているのは・・・」
「・・・・・」
小林さんの瞳が、妖しく光り輝く。この妖しい瞳が正常に戻らない限り、二人の擦れ違いがなくなるのは難しそうに思えるんだけどねぇ・・・。
「今必要なのは、悠君が私のことを改めて異性だと認識するための時間!近過ぎたが故にできてしまった、妹みたいだっていう認識を改めるための時間!!」
「・・・・・」
「だから私は、暫くの間悠君と距離を置きます・・・。距離を置いて、その間に女を磨いて、それで改めて悠君を落とします!!」
「・・・・・」
スッキリしたような、だけれどどこか含みのあるような顔で、小林さんは去っていった。
「・・・・・」
あぁ、これでやっと帰れる・・・。
「お?夏ちゃん、遅かったね?」
一人廊下を進み、教室まで辿り着いた私を出迎えてくれたのはいつもの三人と、枕崎さん?
「何やってるの?」
「何って、ちょっと委員長の秘蔵の品を・・・」
・・・・・。
「それ、学校に持ってきたの?」
「ええ、そうよ?これはいつもバックの奥底に忍ばせている布教用だから」
私と鈴木君が奮闘している間に、この人たちは・・・。
「そろそろいい時間だし、この続きはまたいつかね?」
「「「えぇ~~」」」
「うふふふふ」
校門で三人と別れ、私は雪ちゃんと共に家路を急ぐ。
「へぇ~?そんなことがあったんだぁ~」
「そうなんだよ、大変だったんだよ・・・」
本当ならもっと早く帰れたハズなのに、本当にもう・・・。
「でもさ、一応解決したんでしょ?」
「うん、そのハズ・・・」
「だったらいいじゃん。下手に長引くよりも、パッと終わらせる方がさ」
「・・・・・」
家へと辿り着き自室へと戻り、そのまま着替えもせずにベッドへと飛び乗って・・・。
「はぁ・・・」
体を投げ出して深い溜息を零して、私はそのまま意味もなくベッドの上をゴロゴロするのだった。