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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第一章:激動の夏休み
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第11話:憂鬱

 夏休みのとある昼下がり、僕と陽介はもう一人の幼馴染であるともちゃんの貴重な部活動姿を観察すべく学校へと向かった。だがしかし、そこで僕たちが目にしたのはサボり魔のともちゃんが汗水流しながらバドミントンをする姿などではなく、悪魔のような笑みをその顔に張り付けたサッカー部新部長の姿であった。


「サッカー部、何で辞めたんだ?」

「「・・・・・」」

「特に本田は、池田先生から俺の代わりに部長を薦められていたんだろ?俺、知ってるんだからな」

「「・・・・・」」


 陽介の背中に隠れる僕へと不機嫌そうな視線を飛ばしつつ、武井君は話を続ける。


「池田先生も他の二年も、皆本田の方が上手いって言ってる。本田の方が部長に相応しいって、どいつもこいつも、俺の努力を知らないで好き勝手言いやがって・・・」

「「・・・・・」」

「練習の時はいつもヘラヘラしていて、女みたいな顔の奴と適当に流してるだけのくせに・・・。本気でサッカーやる気なんてないくせに!!」

「「・・・・・」」


 僕の幼馴染である陽介は、昔っから運動が得意だった。それは天性のものであり、体が小さく運動が苦手だった僕が羨ましく思ったことは一度や二度ではない。だけれど・・・。

 そんな幼馴染は、何の努力もしてこなかったわけではない。人一倍体を動かすことが好きで運動が得意な陽介ではあったけれど、彼だって勿論相応の努力はしていたのである。


 そんなに乗り気ではなかったサッカー部でも、練習のある日には毎日きちんと参加した。それ以外の日にだって、陽介は夕方にランニングしたり自室で筋トレなどをしていたらしい。

 小柄で人一倍弱っちかった僕を守るために陰ながらに体を鍛えているのだと、ともちゃんからその話を聞いた時には思わず赤面し悲しくなった。僕、そんなに頼りなく思われていたのか、と・・・。


「練習の時は、真面目にやってたよ」

「あ゛?」

「適度に肩の力を抜きながら、真面目にやってたよ」

「・・・・・」


 陽介の言葉に、武井君はあからさまに怒気を強める。ひぇぇ・・・。


「俺の練習量が、君に勝るとは思っていない。俺の練習の質が、君に勝るとも思っていない」

「・・・・・」

「だけど、少なくとも先輩たちからその点について指摘されたことはなかったし、勿論それは池田先生も変わらないはずだ」

「・・・・・」


 武井君、体マジで大きいんだよなぁ~。怖いなぁ・・・。


「それと、部活を辞めた理由だけど・・・。他にやりたいことができた、それだけだよ」

「やりたいこと?」

「そう、やりたいこと。それに、そう遠くないうちに受験勉強だって始まる。だから、少しだけ早いとは思ったけど、辞めた」

「・・・・・」


 それだけ言うと、陽介は僕の手を取って歩き出した。後ろの方で武井君が何か言いたそうにしていたけれど、陽介はそれを振り返ることもなく足早にその場を離れる。


「「・・・・・」」


 校舎横を通り抜けて校門も抜けて、そうして学校から離れ、僕たちはようやく安堵の息を零す。


「「はぁ~~」」


 あぁ、まだ心臓がバクバク言ってる・・・。武井君のあの顔、夢に見なけりゃいいけど・・・。


「災難だったな・・・」

「そうだね・・・」

「何か、ゴメンな?」

「いや、陽介が謝ることじゃないでしょ・・・」


 僕に向かって申し訳なさそうに軽く頭を下げる幼馴染に、僕は何とも言えない気持ちになる。


「武井の奴がサッカー好きなのは、知ってたんだ。小さい頃からサッカーやってたのは聞いていたし、練習の様子を見ていればそれくらいは分かるからな」

「・・・・・」

「だから、人一倍熱くなるのも理解できなくはない。アイツが俺のことを見て不快に感じたのも、理解できなくはないんだ」


 そう言って、陽介は深い溜息を吐く。


「もうサッカー部も辞めたし、これ以上絡んでくることはないと思うけど・・・。夏樹も気を付けろよ?」

「え?何で?」

「アイツ、俺と一緒にいる夏樹のことも目を付けているみたいだし」

「えぇ・・・」


 陽介に見送られながら家へと入り、そのまま自室へと直行して・・・。


「はぁ~、最悪だ」


 僕は一言、そう呟いたのだった。

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