第109話:策謀
時は少しだけ進み、今は九月中旬の昼休み時間。私たち三年生は全クラス揃ってグラウンドに集合していた。
「それじゃあ、今日は三年生だけで合わせてやってみるから。各自配置についてくださぁ~~い」
中学校のグラウンドは、まあまあ広かった。全校生徒が一堂に会してもなお余裕ある程度には、広かった。
そんなグラウンド全体を使って、私たちはダンスの練習を行っている。グラウンドの隅っこの方で応援の練習を行っている後輩たちを視線の端に捉えながら、必死になって体を動かしている。
「私思うんだけどさ、体育祭にダンスって必要?」
死にそうな表情をした雪ちゃんが、息も絶え絶えになりながらそう呟く。
「必要かどうかで言ったら、別に必要ないんじゃない?」
雪ちゃんの近くで踊っていた委員長の枕崎さんが、そう返す。
「極論になるけど、私は体育祭自体不必要だって思ってるし」
「おぉ~~」
「そんなことよりもBL本配布会とか、BL同好会とか、そっちの方が絶対有意義だって思ってるし」
「お、おぅ・・・」
枕崎さんによるBL談義は、長くは続かなかった。超ハードなダンス練習は彼女から早々に体力と気力を奪い、それどころではなかったのだ。
「「「「「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」」」」」
そうしてその日のダンス練習は終了し、そして放課後・・・。
「本日は、各学年の練習の進捗具合を確認します」
私たち体育祭実行委員は、久しぶりに会議室へと集まっていた。
「先ずはダンスの進捗具合だけれど、三年生については一先ず順調で、あとは他の学年織り交ぜての位置調整くらいかなって」
会議室の前方で、鈴木君はそう語る。
「一年生と二年生はどんな感じかな?一応僕も練習の様子は見ているし、概ね順調そうではあるんだけれど、君たちの意見も聞きたいっていうか」
鈴木君に視線を向けられた二年生たちは、堂々と答える。
「問題無いです!!」
「二年生も、あとは全体練習で合わせるだけで十分だと思います!!」
うむ、元気でハキハキとしていて、実に結構なことである。
「一年も、特に問題ありません!!」
「ダンスの振り付けについては皆覚えれたと思うので、あとは他の学年と混ざった時の動きっていうか、そこだけだと思います」
一年生たちも、特に問題などなく順調そうである。
「分かりました。では、早速明日の昼休みから全体で合わせてみて、それで様子を見てみよう」
「「「「「はぁ~い」」」」」
「では、次の議題なんだけれど・・・」
第一回目の時と同様に、その日の会議も順調に進んでいく。まあ、本日はそもそも進捗確認が主な内容だったし、肝心のダンスについても概ね順調そうだったから当然といえば当然なんだけれど。
「お疲れ様でした。それじゃあ解散」
鈴木君の放った終了の合図とともに、皆は散っていく。私と新地君は皆が会議室から出終わるのを待って、のんびりとそこを後にする。
「思ってたよりだいぶ早く終わったなぁ~」
「そうだねぇ・・・」
「てか、今日の一色何か変じゃねぇ~か?」
「どうだろうねぇ・・・」
訝し気な視線を向けてくる新地君から視線を逸らしながら、私は廊下を早足で進む。
「おい一色、どこに行くんだよ?そっちにはトイレもないだろ?」
「・・・・・」
いつもと違うコース取りをする私に、新地君は律儀に付いてくる。そして・・・。
「えっ?」
私たちの視線の先に現れたのは、相も変わらず妖しく瞳を輝かせている小林さん。
「な、なんでここに美乃里が・・・」
それはね?あらかじめ彼女と打ち合わせしていたからだよ?
「一色、まさか・・・」
「・・・・・」
明らかに動揺した様子の新地君から、私は視線を逸らす。辺り一帯に漂い出した不穏な空気に内心溜息を零しながら、私は事の成り行きを見守るのだった。