第106話:彼がモテる理由
私は今、新地君と二人で会議室へと向かっていた。運悪くクジ引きで当たりを引いてしまい、そのせいで今年の体育祭実行委員となってしまった私たちはトボトボと廊下を歩いていた。
「まあ、何だ・・・。適当に頑張ろうな?」
「・・・・・。うん・・・」
去年の体育祭で私は一発目の競技で転んで怪我をして、そのまま病院行きとなった。あれは本当に恥ずかしく、そして悲しい出来事だった。
「委員会で決めることって、主に全体ダンスの内容とその練習についてだよね?」
「そのはずだな。基本的な競技内容は去年と変わらないはずだし、逆にそれ以外の何を話すっていうんだか・・・」
雪ちゃんの話によると、去年はそのダンスの内容で揉めに揉めたらしい。私たちの先輩にあたる去年の三年生たちはやたらと張り切っており、そのせいでクソ難しいダンスを強要される羽目になった。
「まあ、私は結局そのダンスを踊ってないんだけどね・・・」
「ん?何か言ったか?」
「いや、別に・・・」
昼休みや放課後に散々練習させられた挙句、本番ではそれを踊ることなく怪我で早々に退場した私。あの時の虚しさといったら、それはもう・・・。
「「失礼しまぁ~す」」
会議室の扉を開け、私たちは室内へと足を踏み入れる。
「おう、来たか。それじゃあ適当に席に着いてくれ」
体育教師の郷田先生の指示に従って、私たちは席に着く。そう、最後方の席に。
「おまえたち、前の席が空いてるんだから前の方に座れよ?」
「いや、それは・・・」
私たち、あんまりヤル気ないんで・・・。
「ヤル気の問題っていうか、一応三年生だろ?」
「「・・・・・」」
不幸なことに、私たちは会議室に一番乗りしてしまっていた。そのせいで生徒たちが座る席はガラガラであり、私たちは強制的に最前列の席へと移動させられた。
「あれ?一色さんも実行委員なんだ?」
そうして前方の席で待つこと数分後、次々とやって来る不幸な生贄たち。そうか、鈴木君もクジ引きで負けたのか・・・。何ていうか、ご愁傷さまです。
「いや、僕は自主的に立候補したんだよ。実行委員になればダンスの難易度とかある程度調整できるはずだし、去年みたいに無駄に難易度の高いダンスは避けられるかなって」
「・・・・・」
鈴木君の理知的で合理的な答えに、私は感心する。はぇ~、そういう考え方もあるのかぁ~。
「いやまあ、気持ちは解るよ?ぶっちゃけ僕もあんまり乗り気じゃなかったし、どっちかっていうと避けれるものなら避けたかったし」
「鈴木君・・・」
「でも、他に立候補者がいなかったんだよねぇ・・・。それなら僕が立候補して、会議とかダンス練習とかサッサと終わるようにしちゃおうかなってさ」
「・・・・・」
私は、隣に座る新地君へと視線を向ける。
「・・・・・。何だよ?」
「いや、別に・・・」
同じ中学三年男子だというのに、この差はどこから来るんだろう・・・。
「すみません!遅れました!!」
私が新地君へと何とも言えない微妙な視線を向けていると、会議室後方からどこかで聞いたことがあるような女子の声が聞こえてきた。
「げっ?!」
「げっ?」
「いや何でもない」
「・・・・・」
慌てた様子で室内に入ってきたのは、小林さんだった。彼女はもう一人の実行委員と共に軽く頭を下げながら席へと着き、私たちの波乱に満ちた体育祭実行委員会議は幕を開けたのだった。