第103話:拡散
四人でのカラオケを終え、私と従妹の雪ちゃんは家へと戻ってきた。今の時間は十六時ちょっと過ぎであり、伯母さんが仕事から帰ってくるまでにはまだ少しばかりの猶予があった。
「うし、余裕でセーフ!!とりあえずもう一回シャワー浴びて、そのあとはリビングで問題集でもやりますかねぇ~~」
雪ちゃんはそう言って、一人浴室へと向かう。なお、彼女は着替えのための新しい衣類を一切その手に持っておらず、去り際にチラリと私に視線を送りながら消えていった。
「・・・・・」
偶には、放置でいいかもしれない。いつもいつも私が着替えを持っていき、雪ちゃんを甘やかしているからダメなのかもしれない。
「とりあえず、自分の着替えを取ってこよう」
今はまだ残暑が厳しい九月の上旬、どうせ雪ちゃんはシャワーだけで終わらせるだろうし、十分もすれば戻ってくるはずである。
「ふんふんふ~ん」
自室へと戻り荷物を置き、着替えとスマホだけ持った私は再びリビングへと戻る。
「ん?桜ちゃんからメッセージが来てる・・・。ぶふぉっ?!」
着替えを椅子の上に置き点滅するスマホをタッチすると、そこには桜ちゃん渾身の変顔写真付きメッセージが・・・。
「ちょ、これは反則だって、ぷくく・・・」
美人でしょ?という短いメッセージと、桜ちゃんの変顔・・・。たったそれだけで意味なんてない、いつも通りのおバカなメッセージ・・・。
「くく、ぷくく・・・」
そんなおバカな悪ふざけメッセージから数秒と置くことなく、桜ちゃん力作である第二第三の変顔が送られてくる。次はお前の番だ!!と、余計な一言を添えて・・・。
「う、う~む・・・」
お互いに変顔写真を送り合うというおバカな遣り取りは、過去に何度もあった。だがしかし、今回の桜ちゃんの変顔は過去一の出来であり、普通に変顔をして写真を撮ったところでいまひとつ面白みに欠ける。
「夏ちゃ~ん、着替えがないんだけどぉ~~」
リビングで私がどうしたものかと一人悩んでいると、頭にタオルを巻いただけの全裸姿の雪ちゃんが戻ってきた。
「ゆ、雪ちゃん・・・」
最早見慣れた光景であるとはいえ、胸や股間を一切隠す素振りもなく私の前を堂々と練り歩くその姿に、私は内心涙が止まらない。
「雪ちゃんはさぁ~、もうちょっと恥じらいを持とうよ」
「えぇ~」
「私が女だとか血縁者だとか関係なしに、もうちょっとその辺の意識をさぁ~」
「・・・・・」
私の苦言に頬を不満げに膨らませつつ、なおも素っ裸のままにじり寄ってくる従妹様。
「てか、桜からメッセージ?」
「・・・・・」
「何々?お、これは・・・」
「・・・・・」
いや、今はそんなことより早く服を着てもらってもいいですかね?
「夏ちゃん!これは負けてられないよ!!」
「えぇ・・・?」
「ほら、夏ちゃん!私が最高の画角で撮ったげるから、早くポーズ取って!!」
「・・・・・」
その後私は、何故か全裸の雪ちゃんに何枚もの変顔を撮られることになって・・・。
「う、う~む・・・。ダメだ、これでは勝てない・・・」
「・・・・・」
「夏ちゃんからは照れや恥ずかしさが抜けないから、どうしても垢抜けない・・・」
「・・・・・」
そうしてああでもないこうでもないと言いながら、雪ちゃんは私のスマホを勝手に弄り倒していく。
「ん、これは?」
そして、彼女は辿り着いた。辿り着いてしまった。
「このメイド服の写真・・・」
それは、雪ちゃんには秘密のもので・・・。それは、ともちゃんとそのお母さんから大量に送られてきたもので・・・。
「むふふふふ」
「・・・・・」
「いひひひひ」
「・・・・・」
その日、メイド服を着てあられもないポーズをした私の黒歴史たちが、予期せぬ形で広まってしまったのだった。