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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第六章:アンラッキー警報発令中
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第102話:変わらない光景

 夏休み明け初日の今日、学校から帰った私たちは駅前のカラオケ店にいた。


「うっしゃーーっ!今日は歌いまくるぜぇーーーーっ!!」

「「うぇ~~い!!」」

「夏ちゃんもほら!!」

「う、うぇ~~い・・・」


 いつもの如く四人仲良く座席へと座り、各々が得意とする曲名を次々と入力していく。


「それじゃあ、今日は私からね!!」


 いつも通りテンション高く、ヘビメタを熱唱する桜ちゃん。そんな彼女を眺めながら雪ちゃんはタンバリンをデタラメに振り回し、彩音ちゃんは片耳を塞ぎながらスマホを弄っていた。


「ちょっとぉ~、彩音はちゃんと私の歌を聞きなさいよぉ~~」

「いや、あんたのは歌じゃなくてただデタラメに叫んでるだけでしょ?」

「そんなことないってばぁ~」

「そんなことあるって!だって、カラオケの点数いつも二十点くらいじゃん!!」


 あの頃と同じ、騒がしくも決して不快ではなく、寧ろ心安らぐ不思議な空間。


「彩音だって、いっつも古臭い曲ばっかし歌うじゃん!!」

「古臭くなんてないってば!!」

「いいや、古臭いね!!」

「あ゛あ゛ん?」


 目の前で繰り広げられる二人の遣り取りは桜ちゃんと彩音ちゃんが私の秘密を知る前のそれと同じで、二人の私への接し方はあの頃と何も変わっていなかった。ともちゃんの部屋で五人仲良く全裸でテレビゲームをしたあの後も二人とはスマホを通じてバカな話をし、今日もまたこうやって賑やかな空間を共有している。

 これは、本当にありがたいことだ。私が過去に男子として過ごしていたという事実を知りながらもなおこの二人は今まで通り私のことを夏姫として見てくれて、そのように接してくれているのである。


 もしもこれが逆の立場だったとしたら、私はその事実を受け入れることができただろうか?新たにやって来た転校生の女子が実は元男子だったなんて、そんな意味不明なことを受け入れることができただろうか?


 正直な話、私は全く自信がない。もしも私が桜ちゃんたちの立場だったとしたならば、私はその事実に怒り狂い、その転校生に向けて酷い言葉を放ち距離を取っていたかもしれない。

 全くもって、身勝手で情けない話である。私自身はそのような意味不明な事実を受け入れる自信が微塵もないにも拘わらず、周りの人たちにはそれを強要してしまうのだから。


 元男子の私が何食わぬ顔のまま一緒の更衣室で着替え、一緒にトイレにも行く。それどころか一糸纏わぬ格好で一緒に入浴し、同じ部屋で眠る。

 考えれば考えるだけ、それはとんでもないことのように思える。一応、医学的に私は元から女子であったらしいのだけれど、そんなことは周りの人たちには分からないし、そのような事実は最早些事だろう。


 私は本当に最低な人間だと思う。今まで散々人を騙して嘘を吐いて、その上で周りの優しい人たちに甘えて頼りっきりで・・・。

 それにも拘わらず、二人は私のことを友達だと言ってくれる。今後も仲良くしたいと言ってくれる。それは言葉だけじゃなくて、現に今もこうやって一緒にいてくれる。


「夏姫ちゃん、次は一緒に歌おう?」

「うん・・・」

「うっしゃ!!じゃあ、曲は・・・」


 桜ちゃんに肩を抱かれ、私は立ち上がる。そのままヘビメタではなくバラードを一緒に歌い、私は再び席へと戻る。


「夏姫ちゃんて、歌下手だよね?」

「・・・・・」

「私が言うのもなんだけどさ、滅茶苦茶音痴っていうか」

「・・・・・」


 そうして、その日も楽しい時間を過ごし・・・。


「いやぁ~、歌った歌ったぁ~~」


 カラオケ店を後にし、私たちはそのまま適当に駅前をぶらついて・・・。


「また、皆で遊びに行こうね?」

「もち」 「うん」 「おけ」

「じゃ、今日はこの辺で」


 日が暮れて親たちが帰ってくる前に、私たちは急ぎ家へと戻るのだった。

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