第10話:不穏な邂逅
「おぉ~、これがメイド服かぁ~」
「・・・・・」
「3万9800円か、高いな・・・」
「・・・・・」
ともちゃんたちと一緒にショッピングモールへと遊びに出掛けたその翌日、僕は陽介と共に再び件の店を訪れていた。事の次第をともちゃんの写真付きメッセージで知った陽介が、せっかくだから自分も実物を見てみたいと僕を家の中から引っ張り出したのだ。
「すげぇ~、これがバニースーツ・・・」
「ちょ、陽介?!そろそろ他の店に行かない?」
「もうちょっと、もうちょっとだけ!!」
「・・・・・」
生暖かい視線を飛ばしてくる店員さんに気マズい思いを抱えながら、僕はいつもの五割増しなテンションではしゃぐ幼馴染に複雑な視線を向ける。
「いやぁ~、楽しかったなぁ~」
「・・・・・」
その店には、結局一時間近くも滞在してしまった。いつもなら真っ先に飽きて店外でスマホを弄っているであろう陽介が、こんなにも衣服に興味を持つなんて・・・。
「サイズさえ合えば、夏樹に着せられたのに・・・」
「マジでヤメてね?」
冗談なのか本気なのか、不吉な言葉を口にする幼馴染に肘鉄を喰らわせながら、僕たちは空調の効いたモール内をゆっくりと移動する。
「帰ったら宿題しないとなぁ~」
「そうだね。できれば夏休み前半で全部終わらせて、後半はのんびりしたいねぇ~」
モール内を適当に散策し、昨日寄った飲食店で軽食を食べ、僕たちは駅前のモールを後にする。
「そういえば、今日は珍しく知美が部活に行ってるらしいぞ?」
「へぇ~、そうなんだ?今日は忙しいって言ってた気がするけど、部活だったんだ」
「斎藤先生が可哀想だろって、おふくろさんたちに言われたらしい」
「・・・・・。なるほどね?」
今の時間は正午を少し過ぎたくらい。熱血漢の池田先生が率いるサッカー部とは違ってバドミントン部は緩い部活だから、ボチボチ今日の練習は終わる頃かな?
「ちょっと寄ってみる?タイミングが合えばともちゃんと会えるかも」
「そうだな・・・。どうせ暇だし、ちょっと様子を見に行ってみるか」
滅多に見ることができないであろう幼馴染の部活動姿。そんなまだ見ぬレアな光景に、僕たちはちょっとだけ浮かれていた。
「制服じゃないけど、大丈夫だよね?」
「ウチの学校は色々と緩いし、大丈夫なんじゃないか?」
校庭で走り回る野球部とサッカー部の様子を遠目に見ながら、僕たちは体育館の方へと急ぐ。
「ありゃりゃ、もう終わってたか」
「あら、残念」
辿り着いた体育館の中では、バレー部の生徒たちが後片付けをしている真っ最中だった。そこにバドミントン部の姿は一切見えず、勿論ともちゃんの姿も見えない。
「・・・・・。帰るか」
「・・・・・。そうだね」
目的を達成できず、トボトボと肩を落としながら体育館を後にする僕と陽介。
「あ?本田と一色が、何でこんなとこにいるんだ?」
「「・・・・・」」
「お前等、サッカー部辞めたんだろ?そんな奴等が、何でこんな時間に学校にいるんだよ?」
「「・・・・・」」
体育館を後にし、そのまま日陰伝いに校門へと向かっていた僕たち。そして、タイミング悪くそんな僕たちの前へと現れたいかにも不機嫌そうな武井君。
「あの、武井先輩?」
「あ?」
「池田先生に話があるんじゃ?」
「・・・・・」
武井君の背後で怯えた表情を浮かべるのは、僕たちの後輩のサッカー部員。彼はオドオドとしながら武井君と僕たちの間で視線を彷徨わせ、ただただ戸惑っている。可哀想に・・・。
「やっぱ、予定変更だ」
「え?」
「お前はグラウンドに戻って先に休憩してろ。池田先生のとこには俺一人で行く」
「・・・・・。はい、分かりました」
去っていく後輩を見送りながら、僕は不穏なオーラを隠そうともしない武井君からの視線を陽介バリアーでガードする。
「・・・・・。お前たちは相変わらずだな?」
「「・・・・・」」
「まあいいや。せっかくこんな所で会ったんだし、ちょっと話でもしようや?」
「「・・・・・」」
口元を歪め、ついでに目元も歪め、そうして邪悪な笑みを浮かべる武井君を見て、僕は心の中で大きな溜息を零すのだった。