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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第九十六話 運動のケア


 窓から覗いてくる風景がよく晴れた昼下がり。

 今日は学校も休みということもあって自宅でのんびりとした時間を満喫しているが、こうしているだけというのも少し暇になってきてしまった。


 唯の方は日課の勉強を終わらせてきたようで今はテレビを眺めているが、どことなく手持無沙汰なようにも見える。

 夕食の用意をするにはまだ少し早い時間だし、買い出しに行こうにもそれは午前中に済ませてしまっている。


(俺の方もジョギングをするのはまだもう少し先だしな……それまで何するか)


 今ではよほど天気が悪くない限りは毎日のように行っているジョギングだが、それも走りに行くのは十六時辺りを過ぎてからだ。

 今はちょうど十五時になったばかりなので、外に出るには時間がネックだった。


 別にその程度ならば時間なんて無視して走りに行ってもよいのだが、なんとなく普段のルーティーンをここで取っ払ってしまうのは言い表しようのない気持ち悪さがあった。

 …そこまで几帳面になった覚えもないのだが、最近では自分でも時間管理にきっちりしてきたなと思う場面も増えてきたな。


 まぁそれは今はいい。

 暇つぶしとして家に置いてあるゲームでもやろうかとも思ったが、あいにくそんな気分でもないし本格的にやることが無い。


 時折こうして暇な時は訪れてくるものだが、今回はそれらと比較しても遜色ないレベルの退屈さだ。


「何だか退屈になっちゃったねぇ……やることも特にないし……」

「確かに暇ではあるな。…つっても、今から出かけるとなると時間も微妙じゃないか?」

「そうなんだよね……」


 これから外出しようとすれば、目的地にもよるだろうが帰宅時間は少し遅めになってしまうだろう。

 夕食を作る唯としてはあまりその時間帯をずらしたくないのだろうし、出かけるという選択肢も選びにくいんだろうな。


「…そうだ! せっかく時間もあるし、マッサージしてあげようか?」

「マッサージ? いきなりなんだ?」

「拓也くん、最近よく走りに行ってるでしょ? それはもちろん良いことだけど、その後のケアが疎かになってるんだよ」

「それはそうかもしれないけど……そんなわざわざするほどの運動量でもないぞ」

「そういう油断が大怪我につながるんだよ! ほら、とにかくうつ伏せになって!」

「別にいいんだけどな…やってくれる分にはありがたいし」


 こうなっては止めても無駄だ。

 無理に抵抗しようとすればただ漫然と時間が流れていくだけなので、大人しく指示に従ってうつ伏せになる。


 …そういえばあまり疑問にも思わず受け入れたけど、唯ってマッサージとかできるのか?

 勝手なイメージだとこういうことは得意な印象があるけど、実際のところはどうなんだろうか。


「それじゃ、足の方からやってくね。痛かったら言ってね!」

「はいよ」


 そうこうしている間にも彼女の方も準備が整ったようで、張り切ったように腕まくりをして拓也の足元へと移動していた。

 唯の力加減ならば痛いことも早々ないだろうし、問題ないとは思うけどな。


 そんな唯の開始宣言を軽く流していると、足の裏……土ふまずの箇所を押されるような感覚がしてきた。

 足のツボなんかもしっかりと把握しているのか、期待していた以上に気持ちのいい押し方だった。


「どーう? 痛かったりしない?」

「全然問題ないし気持ちいいよ。むしろ、少し強くしてもいいくらいだ」

「そう? なら遠慮なく!」


 ぎゅっぎゅっと力を強くしてくる唯の指は、先ほどまでよりも心地よい感覚を運んできてくれた。


「あぁー……これは効きそうだな…」

「うっふふ。そうでしょ? これでもマッサージには自信があるんだ!」


 自信満々に言い放ってくる唯の言葉通り、このツボ押しには相当な腕前が伴っている。

 正直そこまでのものは来ないだろうと予想していた分、良い意味で期待が裏切られたのでその感動も増していた。


 始まってからわずか数分で全身の力を抜いて身を預けてくる拓也に対して、満足そうに笑いかけてくる唯は両足のツボを満遍なく刺激していく。

 そしてそれを一通りやり終えると、今度は足からふくらはぎの方に移っていく。


「次はふくらはぎと太ももだね! じっとしててよ?」

「急に暴れたりしないから、存分にやってくれ」

「了解だよ。よいしょっと」


 拓也の足へと乗り上げるようにまたがってきた唯は、足首の位置から両手でふくらはぎを包み込むように握る。

 その手を下の方から上へと揉み解していき、骨に沿うように指で押し上げていった。


 さっきの土ふまずのツボ押しも格別の気持ちよさだったが、これもまた別の癒しがあるようだ。

 …あまりの気持ちよさに思わず眠りそうになってしまうが、それは根性で堪える。


 しかし、揉み解し方から力加減まで全てが絶妙なおかげで、ここまで得られる感覚が違ってくるとは。

 拓也自身も昔は両親を相手に肩たたきといった簡単なものからこうしたマッサージに近いものをやらされたことはあったが、さすがにここまでのクオリティはそうそう出せるものではない。


(……それと多分気づいてないんだろうけど、かなり密着してるのは良いのか?)


 …マッサージが始まってからなるべく意識しないようにしていたが、こうも唯との距離が近づいてくるとさすがにそれにも限界が出てきてしまった。

 現在、彼女は拓也の足に馬乗りするような体勢で揉み解してくれているので、必然的に唯の肌の柔らかさもそこを通じて実感できてしまう。


 ただ足をほぐすくらいなら横に座ってもんでくれれば良さそうなものだが、この様子だと無意識にやってるんだろう。


 そこに過剰に反応してしまえばまた騒ぎを引き起こしそうなので冷静さを保つようにしているが……思うところがないわけではない。

 むしろ、好きな相手がこれだけ触れてきていることに内心は今にも荒れだしそうだが、それは必死で抑え込んでいる状況だった。


(…まぁ、言うのは終わってからでもいいか。今言ったら大変なことになりそうだし)


 指摘した後の未来を想像し、そこで起こりえることを予想した結果、今は何も言わないことが得策だと判断した。

 決して面倒ごとを後回しにしたわけではない。




「……ふぅ。一通りやってみたけどどうかな?」

「かなり足もほぐれてきたよ。ありがとな」


 拓也の足を重点的にマッサージしていた唯は、一連の作業を終えると額を拭いながら拓也の足から離れた。

 …それが名残惜しいと思ってしまったのはここだけの秘密だが、それは一旦隅に置いておく。


 しかしそれはそれとして、実際唯にマッサージをしてもらう前と自分の体の状態を比較してみると、かなり動くのが楽になっている気がする。

 贔屓目抜きでも相当に上手いものだったし、ツボの場所も的確に把握していたことで気づかぬうちに溜まっていた疲労も取れていったようだった。


「今回は運動のケアが目的だったから足を重点的にやってみたんだけど……もしよかったら腰とかもやってあげるよ?」

「……いや、そこまでしなくてもいいよ。これだけでも十分すぎるくらいだ」

「ほんと? …なんだかまた遠慮してない?」

「遠慮ってわけでもないんだが……」


 唯からの申し出に一瞬逡巡してしまったので怪しまれてしまい、自分に負担をかけさせまいとしているのではないかと思われてしまった。

 断った理由はそこにはないので、それは勘違いでしかないのだが……正直に話すのも何だかなぁ……。


 だが、ここで変に誤魔化そうとしてもさらに追及を激しくしてくることは明白なので、どちらにせよ話さないという道は残されていなかった。


「…うーん、じゃあ言うけど……怒るなよ?」

「内容にもよるけど……とりあえず聞かせて?」

「…唯ってさ、マッサージする時馬乗りになってやってるだろ。そん時にその……当たってるんだよ、色々と」

「当たって……? …っ!?」


 …一応唯の名誉のためにかなり内容はぼかしたが、それでも全容は問題なく伝わってしまったようで、ボンッという音がしそうな勢いで顔を赤らめてしまった。

 一連の流れからなんとなく察しはしていたが、やはりあの姿勢は完全に無意識のものだったようだ。


 そもそも彼女が自分から肌を押し付けるような性格ではないことは重々承知しているので、これも予想はできていたことだ。


「わ、私そんなつもりはなくって…! ただ拓也くんの手助けになれたらなって思っただけで…!」

「わかってる、わかってるから! ひとまず落ち着いてくれ」


 頬を赤くしたままの状態で、目を回しながら必死の弁明をしてくる唯に言葉をかけるが、大して効果もなし。

 アワアワとした様子の彼女に何を言っても無駄だろう。



 それから何とか唯が落ち着くまで待ち、ようやく冷静さを取り戻した彼女がこちらに向き直ってくる。


「…その、お見苦しいところをお見せしました」

「見苦しいとか思ってないし、俺もそんな気にしてないから安心してくれ」


 ぶっちゃけ内心では気にしまくっているが、それはおくびにも出さない。

 またこの件を掘り返したりしたら無限ループに陥るだけなので、そんなミスは冒さないように細心の注意を払う。


 そんなこんなで、とりあえず一件落着……かと思われたが。

 そんな拓也の気が緩んだ瞬間を狙いすましたかのように唯から予想だにしていなかった言葉をかけられた。


「…でも、拓也くんになら……触られるのも嫌じゃないよ?」

「ぶふっ!?」


 爆弾発言なんてものではない。

 照れたように頬を赤くし、下から覗き込むように上目遣いで拓也に投げかけられた一言は、精神に甚大なダメージを与えるには十分すぎた。


 想い人からこんなことを言われて平静でいられるわけがないが……何とかギリギリのところで堪える。


「……そういうことをあんま口にするな。俺だっていつまでも耐えられるわけじゃないんだから、ちゃんと自分を大切にしてくれ」

「…大切にしてるから、拓也くんにはいいって言ってるんだけど……」


 自分の理性がゴリゴリと削られていくのを実感しながら忠告すれば、なぜか不満気に眉を下げて苦言を呈されてしまった。

 唯からこんなことを言われて嬉しくないわけがないが、理性を焼かれて本能のままに行動なんてすればよい結末になるとは到底思えないので、耐えるしかないのだ。


 ともかく、こちらを思っての行動は嬉しいが自分のこともちゃんと考えてくれとだけ伝えてその場は済ませる。

 何だか体を休めるはずが今度は精神に疲労が溜まってしまった気がするが、これも甘んじて受け入れよう。




 …余談だが、今日のことを通じて味を占めてしまったのか唯が定期的にマッサージをしようと誘ってくるようになった。

 拓也からしても彼女のケアを受けられるのは心地よいので受け入れるのだが……その度に体を密着させてくる唯に困惑させられることになる。


 どうしてか離れるつもりがない唯と、理性を保とうとする拓也との間で熾烈な争いが繰り広げられることになるが、それはまた別の話だ。


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