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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第八十三話 夏休み明け


 まだ蒸し暑さが残る九月。

 夏の暑さが抜けきっていないこの季節は、どうしても不快な気分にならざるを得ないのであまり好きにはなれなかった。


 …ただ、それも全て彼女と出会う前の話だ。


「……やくん。拓也くん、起きて! 遅刻しちゃうよ?」

「………ん? もう朝か……」

「珍しくお寝坊さんだったね。おはよう! ご飯もできてるよ!」


 わずかに体を揺さぶられる感覚に従って沈んでいた意識を浮上させれば、目の前にはとびきりの愛らしさを兼ね備えた少女がいた。

 もう何度も見てきた光景とはいえ、その姿はいくら見ても慣れることはないだろう。


 拓也にとっては、()()()()()()()が自分を起こしに来てくれたというシチュエーションなので無理もないことだが。

 なんにせよ、唯のおかげで学校に遅刻するという事態を避けることができた。

 既に朝食もできていると言っていたし、さっさと着替えて支度をするとしよう。


 軽く制服へと身を包み、身だしなみを整えてリビングへと入れば、同じく制服を身に着けている唯がテーブルに料理を並べている最中だった。


「おはよう。さっきはありがとな」

「おはよう! あれくらい全然いいよ。…私にとっても役得だからね」

「ん? 役得って…何がだ?」

「何でもないよ! さ、ご飯も食べて!」


 危うく寝坊しかけたことを防いでくれたことに対して礼を言えば、何やら聞き逃しずらいことを言われた気がするが誤魔化されてしまった。

 まぁ良いか。唯のすることなら自分にとっても悪いことではないはずだ。


 そのままテーブルへと腰掛け、唯の作った朝食を口にしていく頃には、いつもと変わらぬ穏やかな空間があるだけだった。




 とてつもなく長く感じられた夏休みもいよいよ終わりを迎え、久しぶりの学校生活が再開する時期になった。

 また授業に塗り固められた生活に戻ることに思うことはないが、強いて言うのであれば唯と過ごす時間が減ってしまうことに少し名残惜しさを覚えてしまうくらいか。


 今年の夏休みは拓也にとっても唯にとってもイベントが盛りだくさんの日々だったので、その密度の濃さを思い返せば当然なことでもあるが。


「まだ休みの気分が抜けきってないよな……早く生活リズムも戻さないと」

「今日もギリギリまで寝てたもんね。昨日は何か遅くまでやってたの?」

「そういうわけじゃないんだけどな……ただ単に時間の感覚がおかしくなってるだけだろうし、すぐに直すよ。…じゃないと、唯の世話になりっぱなしになりそうだし」


 彼女のことを想っている身としては、どちらかというと唯に頼られたいと思ってしまうので、現状の改善は必須だろう。

 今も支えてもらいっぱなしの状況からひっくり返せるかどうかは、かなり怪しいところだが。


 そしてそんな拓也の発言を聞いた唯は、その口元に柔らかな弧を浮かべながらこちらを見つめている。


「…私としては、お世話になりっぱなしでもいいんだけどな。そしたら拓也くんも私から離れられなくなるでしょ?」

「……勘弁してくれ。ただでさえ溺れかけてるってのに」

「うふふ! じゃあ一旦これくらいでやめておこうかな」


 世話自体をやめるつもりは毛頭ないようで、彼女の言う一旦が過ぎた後のことが少し怖くなってくるが、それを考えたところで仕方がない。

 …できる限り、自分の意思で行動できるように心がけておこう。




 登校の時間になれば、まず拓也は先に家を出ていく。

 さすがに唯と二人で登校していくことはできないし、そんな様子を見られればどんな騒ぎになるか分かったものではない。


 なので相談した結果、お互いに時間をずらして出るということになり、それを実践しているというわけだ。

 だがそれを提案した際に、唯に非常に悲しそうな表情を浮かべられてしまい危うく覚悟が揺らぎかけたが……そこは割愛する。


 たった一か月と少し来なかっただけなのに、随分と久しぶりに思える学校に入り教室へと向かえば、その中には見慣れた顔もいた。


「おっ! 拓也か、久しぶりだな!」

「前会った時からそんな時間も経ってないだろ。…ま、おはよう」


 数日前に勉強に付き合ってやったというのに、久しぶりだと抜かす颯哉に軽く返事を返せば、飄々と笑いながらその笑みを崩さない。

 なんだかんだでこいつと過ごすのも楽しかったので文句もないが、どこまでも気楽な友人の姿に溜め息も出てきそうだ。


「お前のおかげで課題も全部終わったしな……まじ助かった!」

「あれで終わってないとか言われたらこっちが困るしな。今度からはちゃんとやれよ」


 暗に今度は簡単には助けないぞと伝えてやれば、それが果たして伝わったのかどうかは分からないが、「へいへい」と言っているところを見るにわかっていなさそうだ。

 …これで冬休みの時も泣きついてくるんだろうから、手が焼ける。


 今からそんな先のことを考えていても仕方ないことは分かっているが、そう遠くない未来に訪れるであろう事態を思い浮かべていると憂鬱になってきそうだった。




 今日は学校が始まったばかりということもあって、授業はなく適当な集会のようなものが行われるだけだった。

 本格的な授業は明日から行われるようなので、それまでに休みの気分を切り替えて気持ちを作っておけということなんだろう。


 早く家に帰れる分にはありがたいので、とっとと帰宅するに限る。

 そう思って続々と教室を出ていくクラスメイト達を横目に見ながら帰りの支度をしていれば、どこかからやってきた真衣に話しかけられた。


「ねぇねぇ拓也。今日唯ちゃん借りてってもいい?」

「唯を? 別にいいけど、どうしたんだ?」

「やーそれがさ。この駅前に新しくクレープ屋さんができたんだって! それを一緒に食べに行かないかって話になったんだよ」


 まだ教室に残っているクラスの連中に聞かれると面倒なことになるとは理解しているのか、少し小声になりながら経緯を説明してくる真衣。

 そういう事情なら納得だ。…けど、俺にいちいち聞かなくてもいいだろうに。


「なるほど。別に許可なんていらないし、好きにしてくれていいぞ」

「いや、一応拓也のものだし聞いておいた方がいいかなって」

「……誰のものだよ。んなこと言ってねぇで、さっさと行ってこい」

「はーい! 唯ちゃん、オッケーだって! それじゃ行こ行こ!」


 最後にふざけたことを言ってきた彼女を追い払ってやれば、少し遠くで待機していた唯は申し訳なさそうに眉を下げながらこちらを見ていた。

 …多分昼食を作れないことを謝りたがってるんだろうが、そんな気にすることでもないのであとからメッセージでも送っておこう。


 そのまま真衣に背中を押されて教室を出ていく唯の姿を見ながら、拓也も席を立ちあがる。

 しかしどうするか。一人で昼を過ごすことは別に構わないが、どこかで昼飯を買って家で食べようか。


 そんな空いてしまった昼の予定をどうしようかと考えながら移動しようとすれば、その一部始終を見ていた颯哉によって歩みは遮られた。


「なんだ、拓也今日は一人なのか?」

「ああ、唯も真衣と過ごすみたいだしな。また外で済ませようかどうか迷ってるところだ」

「ふーん……なら、俺とどっかで食べていかねぇか? こっちもちょうど暇だしよ」

「お前とか? …そうだな。そうするか」


 こいつの提案に少し面食らってしまったが、確かにそれもありだ。

 どうせ一人で食べたところでわびしいだけだし、それなら友人と昼食を共にした方が幾分か楽しいものにもなるだろう。


「んじゃ決定だな! …しっかし何食うか」

「そんなこだわりもないしな。この近くだと……あそこくらいじゃないか?」


 近所にある飲食店をピックアップしながら盛り上がる拓也と颯哉。

 唯との時間が減ってしまったことは残念だったが、たまにはこういった時間も良いものだと思えた。



第三章開始です!


ここから拓也と唯の甘さがますます加速していきますので、どうぞご堪能くださいませ!

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