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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第七十六話 出店の娯楽


 夏祭りの会場となっているのは隣町の神社であり、そこは敷地がかなりの面積を誇るため毎年の祭りもそれに比例してかなりの規模らしい。

 そう唯から聞かされていたので大きな祭りなのだろうと予想はしていたが、実際にその光景を目の当たりにすると、また衝撃の度合いが違った。


 神社の近くまで歩いていく時にも多くの人が同じ方向に向かっているのである程度考えてはいたが、そんな想像も超えてくるくらいに人混みで溢れかえっている。

 あちこちに設置されている提灯や灯篭がぶら下げられており、そこかしこにある出店では食べ物やちょっとした娯楽を楽しむための行列でごった返していた。


 いかにも祭りという雰囲気を肌で感じさせてくるこの場所は、それに伴うように拓也たちのテンションも高めてくるようだった。


「ここまでとはな……人が多いとは聞いてたけど」

「拓也くんは高校に入ってからここに来たんだもんね。毎年お祭りの時はこのくらい混むんだけど、やっぱり気分も盛り上がってくるね!」

「その分はぐれやすくもあるだろうから、あんまり離れるなよ? この広さではぐれたら合流するのも難しいだろうからな」

「はーい!」


 元気よく手を上げながら答える唯に、満足げに頷きながら正面を向き直す。

 …正直、一度はぐれてしまったとしても連絡手段はあるので、合流自体はそこまで難しくない。

 だが、唯にそう言わなかったのは、彼女を一人にしてしまった時に想定外のトラブルに巻き込まれるのを防ぐためだった。


 今はこうして唯との会話に集中しているが、少し周りを見てみれば彼女の浴衣姿やその可憐さに見惚れている者は多い。

 それに当人が気が付いていないのは幸か不幸かわからないが、あまり気を抜きすぎるのも良くない。

 とりあえずはぐれないことを第一にして、目を離さないようにしていこう。


「まずはどこ行くか……行きたいところとかあるか?」

「そうだなぁ……あっ! あそことか行ってみない?」

「ん? …金魚すくいの屋台か。いいぞ、少し寄ってみるか」

「やった!」


 唯が指さした先にあったのは、かなりの広さが確保された水槽に満遍なく泳ぎ回っている金魚の数々。

 それが広げられた金魚すくいの屋台には、それなりの人で繁盛しており拓也たちの入るスペースを確保するだけでも少しきついくらいだった。


「結構混んでるね……おじさん、これでお願いします!」

「はいよ。一回百円だよ」


 まぁなんにせよ、二人分の場所は空けられたので水槽の前に腰掛けていたおじさんに料金の百円を払い、唯はポイと器を受け取る。


「あれ? 拓也くんはやらないの?」

「俺はとりあえず見てるよ。唯のお手並み拝見だな」

「そっか。よーし! ばんばん取っちゃうよ!」


 水槽の縁の近くで軽く屈みながら、瞳に炎を灯すかのようにやる気を漲らせている。

 随分と自信がありそうなので、その腕前を見せてもらおうと期待しながら彼女の金魚すくいを見守る態勢に入った。


「どの子を狙おうかな……これだけいると迷っちゃうけど……よし、そこっ!」


 金魚の大群の中から唯が狙い定めたのは、四方の隅へと追いやられた金魚だった。

 狙うとしては悪くないし、ポイを水に入れる際の角度も悪くなかったので、もしや成功するかと思ったが……金魚の真下に来たポイを慌てて持ち上げようとした時に、思い切り引き上げてしまったのか網が破れてしまった。


「あー……破れちゃった」

「上げるのが早かったかもな。もうちょい落ち着いていけばいけそうだったけど」

「はっはっは! お嬢ちゃん、惜しかったね。よかったら次もやっていくかい?」

「うーん……どうしよう…」


 店主の朗らかな笑い声が響く中、拓也はもう一度やるかどうかを決めあぐねている唯の顔を見る。

 それはもう少しで金魚を捕まえられそうだったことへの悔しさと楽しさが織り交ぜられたような感情であり、こういった遊びにも真剣になれる彼女に微笑ましさを覚えた。


「…俺も一回やってみようかな」

「え、本当? …でも確かに、拓也くんがやってるところ見たいかも!」

「お、兄ちゃんもやるかい? 彼女に良いところみせてやんなよ!」

「彼女じゃないんですけど……いいや。はい、これで」


 何やらあらぬ誤解をかけられてしまったが、いちいちその誤認を解くのも面倒なので定訂正もしない。

 そのまま百円を手渡したらポイを受け取り、未だに大量の金魚がいる水槽をザっと眺める。


 …こういうちょっとした遊びには母さんがよく連れまわしてくれたものだが、まさかその経験を活かせる場面が来るとは思わなかった。

 かつて叩き込まれたテクニックを使えばそれなりには通用するだろうし、とりあえずやってみよう。


 金魚すくいの中ではやはり大物を狙いたくなり、それこそ出目金といった目立ちやすい個体をつい目で追ってしまうが、そいつらは見た目に比例して獲得難易度も高いので後回しにする。

 確実にゲットするならばまずは普通の金魚であり、その中から捕まえやすい相手を選別していけば、大抵は良さそうなものはいるものだ。


 今回もそれに従い、大群の群れを一度隅へと追いやって、その中から一瞬で条件に合いそうな個体を見極める。

 …いた。あいつならそこまで動きも素早くはないし、端に追い詰められたことで逃げ場も少ない。


 狙いを定めれば、あとは一気にポイで獲得しにいくだけ。

 水に入れる時には水圧による負荷がかからないように優しく、されど素早く角度を調節しながらすくい上げていく。


 水から出すときにも焦らないことを意識しながら手を動かし、水面に金魚が迫ってくるのと同時に手に持った器を近づけて寄せていけば……思っていたよりも簡単に獲得することができた。


「すっごい! 何でそんなに上手くできるの!?」

「これも慣れだよ。昔はよくやってたし、その年季の差だな」

「回数を重ねただけじゃここまでのことはできないと思うんだけど……それでも上手なことはすごいよ!」

「そうか? ありがとな」


 手放しで拓也の腕前を絶賛してくる唯に礼を言い、まだ穴の空いていないポイを持って再び水槽に向き直す。

 結局、その後の結果としては合計で三匹まで取れたところでポイが破けてしまい、そこで終了となった。




「…ねぇ、あそこで金魚返しちゃってよかったの? せっかく取ったのに……」

「いいんだよ。俺じゃ世話もできないし、死なせちまうくらいなら返した方がいいしな」

「そっか……」


 金魚すくいの屋台を後にした道中、拓也と唯は混雑した道を避けたベンチに座りながら話をしていた。

 唯がもったいなさそうに言っているのは、先ほど拓也がゲットした金魚を店に返却してきたことに関してだ。


 まぁせっかく取れたのだからわざわざ返さなくてもという気持ちは分からんでもないが、そもそも拓也は金魚をすくうという遊びを楽しみにやっただけであって、その先の世話に関しては考えていなかった。

 別に持ち帰っても良かったのだが、自分の性格を考えれば金魚の命の保証ができないというのと、単純にそこまでの手間をかけるほどのめり込んでいたわけでもない。


 一時の娯楽のために遊んだというのが正直なところなので、あの時返したのは間違いではなかったと思っている。

 …一度、唯にあげようかという案も浮かんできたが、それでは彼女に一方的に世話を押し付けているようになってしまい、自身のプライド的にもそれは許容できなかったのでやめておいた。


「十分楽しめたんだからそれでいいさ。さて、次はどこに行こうか」

「…拓也くんがいいんならいいんだけどね。じゃあ、そろそろご飯でも買いに行かない?」

「おっ、いいな。やっぱ祭りといったら飯だしな」

「ふふっ、そうだね。…いいお店あるかなぁ」


 パッと見渡すだけでも数えきれないくらいに設置されている出店では、どこも忙しそうに人が動いている。

 並ぶだけでも時間がかかりそうだが、時間はたっぷりとあるのだからゆっくり回っていけばいいか。


 雑踏の中を歩いていく二人はあちこちの出店を覗きながら、賑やかさに満ちた空間を満喫していくのだった。


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