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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第七十四話 恥ずかしい姿


 それから拓也たちは、ほどほどに雑談を交えたりしながら緩やかに時間を過ごしていた。

 だが、勉強をしている間にそれなりに時間が経っていたこともあり、颯哉たちもあまり長居するのは良くないと思ったようですぐに帰ることになった。


「そんじゃ帰るわ。世話になったな、拓也!」

「おう。今度からはしっかり計画立ててやれよ? じゃないと被害被るのはこっちなんだからな」

「ま、考えておくわ! じゃあな!」


 最後の最後まで行き当たりばったりな友を玄関で見送りながら、その背中を見守る。

 今度会う時はおそらく学校が始まってからになるだろうし、それまではまた長い別れになりそうだな。


 そんなことを考えながら少しの感傷に浸っていれば、どうやら向こうも同じことを考えていたようで別れを惜しんでいた。


「じゃあまたね、唯ちゃん! 多分次会うのは学校になるから、その時にね!」

「うん! 真衣も風邪ひいたりしないようにね!」

「わかってるよ。じゃ、拓也もまたね!」

「はいよ。またな」


 手を振りながら去っていく友人の姿。

 徐々に閉まっていく扉が完全に閉じられた時には、普段通りの二人だけの空間へと戻っていた。


「…部屋に戻るか」

「そうだね。夜ご飯も作らなくちゃだし!」


 夏の暑さに嫌気が差すこの時期は、日の沈む時間も比例して遅くなっているが、それでももう夕方に近い時だ。

 さっき昼食を食べたばかりのような気もするが、体は正直なようで小腹も空いてきている。


「昼のオムライスも美味かったからな……期待してるよ」

「…うふふ。任せて! あれにも負けないくらい美味しいものを作ってあげるから!」


 拓也の一言でやる気も溢れてきたようで、満面の笑みになりながらステップを踏んでキッチンへと入っていく。

 その後ろ姿を眺めながら、無意識のうちに上がっていく口角を押さえつつ、彼女の後に続いていった。




 夕食を食べ終わった二人は、いつものようにソファでのんびりとした時間を過ごしていた。

 彼らの間にこれといった会話は交わされていないが、それでもこの穏やかな時間は拓也にとって心休まる時であり、何物にも代えがたいものだ。


 そんな静かな休息の時を満喫していると、不意に携帯が鳴り、確認してみれば送り主は真衣と表示されていた。


(真衣から? 珍しいな)


 一応彼女とも連絡先は交換しているので、メッセージや写真を送ってくるのは不思議でも何でもないのだが、颯哉や唯と比べればやり取りをする機会は少なかったので珍しいこともあるものだと思った。

 一体何の用かと思って彼女とのトーク画面を開いてみてみれば、どうやら送られてきたのは一枚の写真だったようだが……これがまた、予想の遥か斜め上にあるものだった。


(これって…………っ!?)


 …そこにあったのは、なぜか暗く照らされた部屋で写された一人の少女の写真。

 彼女は何かから怯えたように視界を抱きかかえたぬいぐるみで隠し、潤んだ瞳はそれでも目の前のものから逃げまいと懸命に堪えていることがよく伝わってくる。


 体育座りをしながら縮こまったかのように身を小さくしているその姿は見ているだけで保護欲を掻き立てられ、直視していればその凄まじい愛らしさを目の当たりにしていただろう。


 …まぁ、端的に言ってしまえば『ホラー映画を見て怯えている唯』の写真だった。

 真衣のやつ………あとで楽しみにしてろっていうのはこのことか。


 先ほど真衣が帰宅していく前に言われた言葉の意味を、ここでようやく理解した。

 多分……というか確実に、あいつは映画鑑賞をしている最中にこっそりと唯の様子を撮影し保存していたんだろう。


 そして余計なお節介か親切心でやったのかは分からないが、こうして俺に送ってきたのは単純にこの唯の姿を共有したかったからとかそんな理由だろう。

 …これは、唯に見られるわけにはいかないな。


 彼女本人に見られたが最後、どんな反応をされるか分かったものではないので、勘付かれないように平静を装うとする。

 しかし、その急激な態度の変化にどこか違和感を持たれてしまったのか、唯がこちらに視線を向けてきた。


「…? 拓也くん、何かあった?」

「っ! …いや、なんでもないぞ?」

「…なんか怪しいね。私に何か隠そうとしてる?」


 …何でこういう時に限って勘が鋭いんだ。

 ただ、結局は今表示されている写真を見られなければいいだけのことなので、すぐに画面を消してしまおうと操作しようとした時……手が滑った。


「やばっ…!」

「ん…? ………っ!? た、拓也くんこれ!!」


 不幸とは続くものだ。

 手から滑り落ちた携帯は、幸いなことにソファに落ちたため画面が割れることはなかったが……落ちた場所が問題だった。


 拓也の右隣に座っていた唯の正面に落とす形で晒されてしまった携帯には、先ほどまで見ていた唯の写真がばっちりと残されており、それを見た彼女が怒りか羞恥か、はたまたその両方で顔を赤くしながら問い詰めてきた。


 …何でこうなるんだ、本当に。

 もはや呪われているんじゃないかと錯覚してしまうくらいに連鎖した不幸だったが、今はそんな現実逃避をしている場合でもない。


「ご、ごめん! その……真衣から送られてきて、覗き見るようなことをするつもりはなかったんだ。…やっぱ怒ってるか?」

「怒ってはないけど……でも、恥ずかしいじゃん! こんな情けないところを見られるなんて…!」


 これに関しては、結果的にとはいえ盗み見るような形になってしまったのは拓也の側に責任があるので、素直に謝っておく。

 すると、どうやら自分の写真を見られたことに怒っていたわけではないようなので少し安心するが、唯が気にしている部分は別にあったようだ。


 拓也から見れば彼女の写真はまさに小動物のような可愛らしさで溢れていたのだが、本人からすれば違うらしい。

 自分の隠したかった部分を見られるというのは耐え難い羞恥だったのだろう。


「…あとで真衣にも言っておかないと。と、とにかくこのことは忘れて!」

「……ごめん、それは無理だ」

「えぇっ!? な、なんでよ!」


 唯にとっては自身の恥ずかしい姿を見られたことは記憶から消してほしいのか、そのように言ってくるが……正直に言おう。

 ほんのわずかな間だけだったとはいえ、彼女の普段見せないような弱った姿は脳裏に強く焼き付けられ、ちょっとやそっとのことでは頭から離れなくなってしまった。


 …それと、抱きかかえていたぬいぐるみが拓也が以前に送ったものだったため、愛用してくれていることを嬉しく思ってしまったことは自分だけの秘密だ。

 だが唯は、意地悪のつもりでそう言われたと思ったのか、思い切り抗議するように頬を膨らませてポカポカと叩いてくる。


「もー! ともかくあれを思い出すのは禁止!」

「…善処するよ」

「そこは断定して!」


 優柔不断な返答になってしまったことは申し訳なく思うが、記憶に強く印象付けられたあの写真はそう簡単に忘れられそうにはない。

 むくれながらも不機嫌になってしまった唯のご機嫌取りに注力することになりながらも、そんなことを考えていた拓也の口には苦笑が浮かべられていたのだった。




 …ちなみにその後。

 唯が自分の家へと帰宅していってから少しの時間が経ったときに、再び真衣からメッセージが送られてきた。


 先ほどの一件もありどこか嫌な予感がしつつも恐る恐る開くと、そこには『大変申し訳ありませんでした』という一文のみが書かれていた。


 …おそらく唯から何かを言われたのだろうが、深掘りするのも怖いように思えたので、それ以上は何も言うこともなく終わらせておいた。

 露出している地雷を踏みぬく必要などないのだから。


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