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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第七十二話 騒がしくも賑やかに


「お待たせ! ご飯もできたから、食べよっか!」


 唯の料理の支度を手伝っていれば、そう時間もかからずに用意は完了した。

 テーブルの上には四人分の料理が並べられており、そこから漂ってくる香りもまた食欲を誘ってくる。


「おぉ…! これはすげぇな……」

「これ、唯ちゃんが作ったの!? …すっごい美味しそうなんだけど」


 颯哉と真衣が感嘆したかのように声を漏らしている。

 だが、見た目だけで満足してもらっては困る。唯の料理は何よりもその味が最高なのだから。


 どの面で語っているんだと誰かからツッコミを受けそうだが、思わずそう考えてしまうくらいには二人のリアクションは完璧だった。

 同級生、それも友人の作った料理がこうも凄まじいものだと知ればその反応も賛同できるがな。


「そんなに大変なものでもないんだけどね。さっ、食べて食べて!」


 そう言って食事を促してくる唯が今回作ったのは、黄色いフォルムが美しく波打っているデミグラスオムライスだった。

 形を整えて盛られたチキンライスの上に乗せられた卵のベールから、見るからにその濃厚さと卵との相性の良さを予感させてくるデミグラスソースは、もはや芸術とすら表現できる見た目をしていた。


 唯は大層なものではないと言っているが、卵一つとってもトロトロとした滑らかさを残しつつも全く形は崩れていない。

 そこには彼女の技量のすさまじさが込められたことが一目でわかるし、颯哉たちの立場からすれば、まさかここまでのものが出てくるとは思っていなかったのだろう。


「とにかく食べようぜ。…いただきます」

「はい、召し上がれ!」


 いつまでも唯の料理の腕に度肝を抜かされている彼らを横目に、拓也は我先にとオムライスに手を付ける。

 プルプルとした卵を割り、中のチキンライスと共に口に運べば……最高の味わいが広がっていった。


 チキンライスの風味はそこまで強いものではなく、酸味は控えめにされている。それと一緒に口にした卵と絡ませた時、想像以上に柔らかな食感が口いっぱいに満ちていき、思わず頬もほころんでしまうほどだ。

 …そして何より、驚きなのがこのデミグラスソースだ。


 個人的にオムライスに合うのはケチャップだと思っていたが、これを食べればそんな考えなんて一瞬で吹き飛ばされていった。

 ソースに含まれる濃厚な甘みとほんのわずかな酸味はオムライス本体とも優しく絡み合っていき、その相乗効果でとてつもない旨みを引き出していた。


 そして、拓也が唯お手製のオムライスを味わっていたのと同時に、颯哉と真衣も恐る恐ると口にしていたようで、その完成度に驚愕していた。


「…こんなに美味いものは初めて食ったな。まさかここまでとは…!」

「美味しぃ~! 唯ちゃん、これすっごく美味しいよ!」

「ふふっ、それならよかった。じゃあ私も食べよっと」


 自らの料理を絶賛してくる二人の様子に、軽く微笑みを返しながら唯も自分のオムライスに口を付ける。

 その出来栄えは唯的にも満足のいくものだったようで、笑みを浮かべながら食べている。


「…にしても、拓也はこんな美味しい唯ちゃんの料理を独り占めしてたってことだよね。ずるい!」

「ずるくないだろ。変なこと言うな」

「…なんか余裕が感じられるのが余計腹立つ」

「何でだよ」


 拓也もこの環境がはるかに恵まれていることは分かっているし、それをずるいと言いたくなる真衣の言い分もわかるが、そう言われたところで分け与えてやれるものでもないのでどうしようもない。

 せいぜいが今回のように、時折家に招いてやるくらいのことしかしてやれないので、余裕があるなんて言われても困るだけだった。


「拓也くん、お味はどうかな?」

「あぁ、めちゃくちゃ美味いよ。このデミグラスソースもこんなに合うとは思ってなかったし、さすが唯だな」

「味の調節も結構難しかったんだけどね。喜んでもらえたなら何よりだよ」

「唯の料理なら何でも美味いけどな。いつもながら最高だよ」

「……そう言ってもらえたなら、頑張った甲斐もあったかな」


 ほんのりと頬を染めながらはにかむ唯を見て、拓也も和やかな気持ちになっていく。

 こうして毎度のように食事に関する感謝を忘れずに伝えるようにしているが、やはり口だけでは言い切れない部分もあるので歯がゆい面もある。


 …まぁ、唯が嬉しそうにしているから今はよしとしておくか。


 そんないつも通りの掛け合いをしていれば、なぜかげんなりとした様子になった真衣が何かをぼやいている。


「…けしかけた私が言うのもなんだけど、なんでそんなすぐに二人の世界を作れるの? もう私が入り込む余地もないくらい甘い空間になってるんだけど」

「気にしたら負けだ、真衣。無理に突っ込んだりしたら巻き込まれるのはこっちの方だからな」

「……今、痛感したよ」


 意味の分からないことを話し合っている颯哉と真衣の方も気になったが、それはいいかと放っておいて目の前の昼食に集中していく。

 相変わらず最高の料理を前に拓也の食欲は留まることを知らず、あっという間に完食していくのだった。




「ご馳走様。…美味かった」

「はい、お粗末様。お皿は私が持っていくから、みんなは休んでていいよ」


 空になった食器をまとめてキッチンの流しに運びながら、拓也たちは食事後の余韻に浸っていた。

 皿洗いは拓也の担当なので後でやるが、今はとりあえず水に浸しておけばいいだろう。


「…唯ちゃんの料理ってすごいんだね。同じ女子として自信なくしそうだよ」

「ん? 真衣って料理できないのか?」

「いんや、真衣は普通にできるぞ。…ただ、秋篠さんと比べちまうとって話だ」

「あー…なるほどな」


 唯の手料理を食べてから、少し落ち込んだ様子になってしまった真衣。

 彼女が気を落とした原因は、どうやら今しがた味わった唯の料理のようで、おそらくその手際や腕前の違いを自分と比較してしまったのだろう。


 …まぁ、同年代でしかも同性の友人が、自分よりも美味い料理を何でもないように作っていれば、それも無理はないか。


 拓也は真衣の料理を食べた経験はないのであまりその実感も沸かないが、そこはさすが彼氏と言うべきか、颯哉は食べたことがあるようで補足してくれた。


「…そんな落ち込まなくてもいいだろ、真衣。俺にとってはお前の料理が一番だからさ」

「ほんとう……? 唯ちゃんの料理だってすごい美味しかったじゃん」

「本当だって。どれだけ他の料理を口にしても、真衣の料理は最高のものだよ」

「颯哉……!」


(……何を見せられてるんだ、俺は)


 気を静めさせてしまった真衣を慰めようとでもしていたのだろうが、なぜか颯哉が彼女を褒め始めたところでおかしな雰囲気になってきた。

 唐突に始められたカップルのいちゃつきに、死にそうな目になるのを必死にこらえながら、どう反応して良いのかもわからずにただただ気まずい時間を過ごす羽目になってしまった。


 その後もさらにエスカレートしていきそうな二人だけの世界を見せられそうな雰囲気だったが、さすがに人の家でこれ以上は見過ごせないということで強制的に終了させた。


「もう拓也ったら! 叩かなくてもいーじゃん!」

「あほ。俺の家で馬鹿な事しようとするからだろうが。…唯だっているんだから、あんま変なもん見せんな」

「えー……唯ちゃんは案外見てたかったんじゃない?」

「んなわけないだろ……ないよな?」

「………」


 一通り食器を流しに運び終わり、拓也の隣に座ってきた唯は顔を赤くしながらサッと視線を逸らした。

 …途中からは唯も彼らの絡みを黙って見ていたのだが、さすがに耐えられなくなってきたのか気まずそうに視線をあちこちにやったりしていたから中断させたのだが……この反応を見る限り、まさか本当に……?


「……唯、こいつらから影響を受けるのだけはやめておけ。ほんと、ためにならないから」

「こらー! それじゃ私たちがダメなお手本みたいじゃん!」

「まさにその通りだろうが……」

「…否定もしづらいね」


 そんな馬鹿なやり取りをしていれば、我関せずといったように水を飲んでいる颯哉に若干腹が立ったので、こいつにも注意しておこう。


「…颯哉も、人ん家で不用意にくっつくな。こっちが気まずくなるだろうが」

「ん? そりゃ無理だな。なんせ真衣が可愛すぎるもんだ!」

「堂々と言い切るな、堂々と!」


 …こっちも駄目だった。

 ある意味では相性がばっちりなんだろうが、その被害を受ける方としてはたまったものではない。

 いつか隣に座っている少女にも悪影響を与えかねないので、その時には無理やりにでも止めさせてもらおう。


 そんな不毛すぎる誓いを心に刻みながら、賑やかな昼食は過ぎていった。


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