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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第七十一話 客観的な彼ら


 拓也が追加の買い出しを終えて帰宅してから数十分後。

 家に併設されているインターホンが鳴ったので近づいて訪問者を確認すれば、そこには予想通りの相手が立っていた。


 それを見てエントランスのドアを開けてやり、その状態で少し待っていれば、玄関前に誰かがやってきた気配を感じた。

 …というか、あいつらの場合気配というよりも騒がしさのせいで近所迷惑になりかねないので、早々に扉を開く。


「よう! 今日は世話になるぞ!」

「あ、拓也久しぶりー。プール以来だねぇ」

「…二人まとめて来たのかよ。いいけどさ」


 扉を開ければ、もはや慣れ親しんできた二人が目の前に立っていた。

 どうやら颯哉と真衣は時間を合わせてきたようで、示し合わせたかのようにタイミングをかみ合わせて我が家へとやってきた。


「まぁ、とにかく入れ。立ちっぱなしもなんだろ」

「遠慮せずに上がらせてもらうわ。あっ、これうちの母親からの土産だ」

「おう、さんきゅ。真衣も突っ立ってないで入っていいぞ」

「はーい! そうそう、これ私からのお土産ね。あとで食べて!」

「ありがとよ」


 二人から紙袋に包まれた手土産を受け取り、軽い挨拶を済ませれば家に上がらせる。

 別に土産なんか気にしなくてもいいんだが、やはり他人の家に来るとなると気を使うもんなんだな。


 軽く見た感じどちらも菓子類のようだし、後で唯とありがたく頂くとしよう。

 そしてそのまま彼らをリビングまで案内しようとすれば、なぜか周囲をきょろきょろと見渡す真衣の姿があった。


「ねぇ拓也。唯ちゃんいないの?」

「唯ならキッチンにいるぞ。なんでも昼の準備があるんだとよ」

「…話には聞いてたけど、ほんとに拓也の家にいるんだね。それもすごい自然な感じで」

「俺も未だに信じられてないんだよな……拓也と秋篠さんが二人でか……」


 以前にもこいつらには話していたはずなのだが、それでも内心唯がいることが信じ切れていないのだろう。

 気持ちは理解できる。拓也自身も話だけを聞いたら何の冗談かと思うレベルで信憑性がないし、唯のような美少女が入り浸っているなんて間違いなく妄想と思われて終わりだ。


 だが、残念ながら彼女がいるのは純然たる事実でしかないし、そこを否定したところでどうしようもない。

 余計な嫉妬を買わないためにもむやみやたらに言いふらすことはしないが、既に知られてしまったやつらに隠し通すことでもない。


 後ろで不思議そうにしている颯哉たちの言い分はもっともだし、そういう疑問を抱くのも無理のないことだが……こればかりは、実際に見てもらった方が早いだろう。


「唯、二人とも来たぞ」

「あっ、いらっしゃい二人とも!」


 リビングに入った途端に視界に入ってきたのは、持参してきたエプロンを身にまといながら料理をしている唯の姿。

 自宅へとやってきた二人を出迎えるためにその調理の手を止め、こちらへと近寄ってきた。


「真衣も久しぶりだね! 元気だった?」

「………」

「……真衣?」


 久方ぶり……というほどでもないが、それなりの日数を開けての再会でもあったので、嬉しそうに笑みを浮かべながら真衣に歩み寄る唯。

 そしてなぜか、その様子を見てピクリとも動かなくなってしまった真衣を心配そうに見上げる唯だったが……次の瞬間。


「………か」

「か?」

「…可愛いぃぃ~!! なに唯ちゃん、エプロンなんて着て! そんな可愛い恰好で出迎えられると思ってなかったよ!」

「むぐっ!?」

「はあぁ~……久しぶりの唯ちゃん成分だし、この機会にたっぷり補充しておかないとね!」

「……なんだよ、唯の成分って」


 どうやらエプロンを着ていた唯の姿にいきなりテンションが振り切れたようで、意味の分からないことを口走りながら彼女を力強く抱きしめている。

 …だが考えてみれば、拓也にとっては彼女のエプロン姿というのは見慣れてきたものだったが、自分以外の二人にとってはそうではない。


 学校でもとびぬけた美少女である唯が、こうした格好で家事に専念しているというのは……刺さるものもあるのかもしれない。


 そんな現在進行形で唯に抱き着いている真衣を見ながら、そういえばと颯哉の方を見てみれば、こちらは意外にもそこまで関心もないように見えた。


「…颯哉は案外普通そうだな。てっきり驚くくらいはするかと思ってたんだが」

「ん? あぁ、そりゃ驚きはしたけどな。さすがに人の彼女をジロジロ見るような真似はしねぇよ」

「…彼女でもないんだが」

「照れんなって。俺にはわかってるぜ」

「照れてもねぇ!」


 肩にポンと手を置いてくる颯哉の考えも、大概ろくでもないものだった。

 この前のプールでの会話以来、なぜか激しくなったいじりに気が滅入りそうになる。


 …こいつ、ほんと一回わからせた方がいいのか?


 一気に騒々しくなったリビングでは、男女それぞれでの空気が構築され、お互いにどこか居心地の良い空間を作り上げていたのだった。




 その後、一時的に収まってきた喧騒に合わせて唯も料理に戻っていったが、どうやらもう完成は間近らしい。

 颯哉たちが来る前から作り始めていたのでそれには納得だが、やはり唯の手際の良さは何度見ても惚れ惚れしそうなくらいだった。


「拓也くん、スプーンとか持ってってもらってもいい? あとお水とかもお願い!」

「はいよ。皿は持ってかなくてもいいのか?」

「そっちは私の方で持っていくから大丈夫! 任せておいて!」

「…そういう力仕事は俺の出番だって言ったろ? できたら運ぶから無理すんな」

「別に無理じゃないんだけど……わかった。じゃあこれとこれ運んでもらってもいい?」

「おう。任された」


 いつものように唯と二人でキッチンに並びながら、唯は調理を、拓也は食事の準備を整えていく。

 料理を作るという点では戦力になれない拓也だが、彼女一人に任せっきりにするわけにはいかないという意識からこうして最近では準備の役割を果たしている。


 当初はそれにも複雑そうな表情を浮かべていた唯だったが、毎度のように手伝おうとする拓也を見てやめさせるのは不可能だと悟ったようで、今ではこうして二人でやるようになっている。

 もはや阿吽の呼吸ともいえる連携で淀みなく作業は進んでいき、瞬く間にテーブルには準備が整えられていった。



 …それは、普段の二人であればなんら変わらない光景。

 しかし、その普段を知らぬ者からすれば見慣れない景色だというのは当たり前のことであり……


「…あれ、私の勘違いじゃなければさらに距離が縮まってる気がするんだけど、気のせいかな?」

「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」


 …ここにいる颯哉と真衣も、それは同様だ。

 さすがに他人の家のリビングを我が物顔で闊歩する度胸はないので大人しくしているが、むしろそれによってあの二人のことがより客観的に見えてきてしまった。


 前からどこか距離が近いとは思っていたが、今目の前で行われているやり取りを見ればそれすらも霞むほどに、彼らの距離感は急接近している。

 自覚しているのかいないのかは不明だが、明らかに何かがあったと確信させるくらいには、その差は歴然だった。


「…ふむ。拓也は多分無意識なんだろうけど、唯ちゃんの方は自覚してそうだね。これは詳しいことを聞くのが楽しみになってきたな~」


 拓也と話す際の唯の表情を見ていればおおよそは察せるが、その姿からは溢れんばかりの幸せのオーラが漂っていた。

 傍目で観察していてもそれははっきりと伝わってくるので、真衣たちが関わってこなかったこの休みの間に何かがあったのだろう。


「……けど、なんであんなにわかりやすく好意を出されてんのに、肝心の本人は理解してないんだよ」

「…それはもう、拓也だからとしか言いようがないね」


 …傍目で見ていても、唯から向けられている好意的な感情は明らかだ。

 なのに、それを一身に向けられている拓也はというと……まるで気が付いていない。


 あれだけの大きな感情を向けられてもなお気が付かないのにはある意味尊敬するが、こちらとしては見ていてやきもきするだけなので早く気づけという考えしか抱かない。


「………はぁ。こっちで後押ししてあげないと、一生進まなそうだね」

「…だな」


 拓也が聞いたら余計なお世話だと言いそうな発言だったが、彼らの意見は妙なところで合致するのだった。


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