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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第六十五話 生まれてきた日


 いよいよ予定していたことが始まると思うと身が強張ってくるが、可能な限り自然体を保ちながらその時を待つ。

 …だが、そんな状態にも限界が来てしまったのか。唯から怪しいものを見る目を向けられながら、声をかけられた。


「…ねぇ、拓也くん。私に何か隠してない?」

「…何でそう思ったんだ?」

「だって今日の朝からずっと挙動不審だったし、朝早くから出かけると思えば何か買って帰ってきたし、そのこと私に隠そうとしてるし………」


 …まぁ、あの態度で隠し通せているとは微塵も思っていなかったが、いざ本人にバレバレだったと言われると少しくるものがある。

 唯の方もおそらく、自分が触れて良いものかどうか判断がつかず、この時間まで知らぬふりをしてくれていたのだろうが……それも限界に達してしまったようだ。


「…別に全部教えてほしいなんて思ってもないし、拓也くんにも秘密にしたいことがあるのは分かってるけど……ああやって露骨に避けられるのは、ちょっとショックだったの」

「……そうか。ごめんな、不安にさせて」


 その言葉を聞いて、拓也は自分の愚かさを思い知った。

 唯を喜ばせてやろうと思ってやっていたことは全て空回りして、その上彼女の心に余計な心配をさせてしまった。


 …だったら、これ以上は待たせてしまうのは違うな。

 予定には少し早いし、用意もまだ整っていないが……もう始めてしまってもいいだろう。


「悪かった。不安にさせるつもりはなかったんだ」

「…ううん。拓也くんにだって隠したいことはあるんだから、勝手にもやもやしてた私が悪いの。だから、拓也くんは悪くないよ」

「そうじゃないんだ。ちゃんと全部話すから……少し、目を閉じててもらってもいいか?」

「へ? 目を? …う、うん。これでいい?」


 拓也の言うことに素直に従ってくれた唯は、その美しい瞳をスッと閉じる。

 それを見た拓也は立ち上がり、リビングの電気を消して冷蔵庫から音を立てないようにケーキを取り出した。


「ちょ、ちょっと!? なんか暗くなった気がするんだけど、怖いことじゃないよね!?」

「そういう類のものじゃないから安心してくれ。まだ開けたりしないでくれよ」

「そ、それは分かってるけど……は、早くしてね!?」


 どうやら電気を消したことは目を閉じた状態でもなんとなくわかったようで、それによってホラー展開を仕掛けられるのではないかと怖がらせてしまったらしい。

 さすがにそんな突拍子もないことをするわけではないのでそう伝えるが、あまり遅くなってしまっても唯を怖がらせてしまうだけなので、早くした方がいいことには変わりない。


 そのままケーキに立てられた蝋燭にライターを使って一本一本火をつけていき、辺りが温かな光で満たされていくのを肌で感じながら最後の一本にも火を灯し終える。


 ようやく万全の状態となった誕生日ケーキ。

 それを形が崩れないように慎重にソファ前の机に運び、静かに置く。


「…よし。それじゃ、ゆっくり目を開けてくれ」

「も、もういいの? …それじゃ、せーのっ……! …えっ?」


 固く閉ざしていた両目を一気に開き、その目の前に広げられた光景を目にした瞬間。

 まるで唯は、理解が追い付かないとでもいうかのように動きを止めてしまった。


「誕生日おめでとう、唯。…こんな形になっちゃったけど、よかったら受け取ってくれ」


 そう言って彼女の前に差し出すのは、豊富なバリエーションがあるケーキの中でもシンプルなショートケーキのホール。

 上にはいくつものイチゴが均等に飾り付けられており、中心にはチョコレートプレートに『Happy Birthday』の文字が書かれている。


 …最初、どのケーキを買おうかと悩んでいた時に色々と考えた挙句、結局シンプルなものの方が喜ばれるんじゃないかと思ってショートケーキを選んでみたが、唯の反応を見る限りあまり芳しくなかったか…?


「えっと……もしかして、クリームとか苦手だったか? それならもっと違うのにしておけばよかったか……」

「っ! ち、違うの! ケーキはすごい好きだけど……な、なんで私の誕生日をしってるの? 誰にも言ってなかったのに……」

「あー……それに関しては、ちょっとした筋からの情報でな。それはともかく、ケーキが苦手ってわけじゃないならよかったよ」


 唯が固まっていたのは自分の誕生日を唐突に祝われたことへの困惑と、なぜその日にちを知っているのかという疑問からだったようだ。

 前者はともかく、後者に関しては気軽に話せることではないので軽くぼかして答えるが、なんにせよケーキが嫌いということではなさそうなので一安心である。


「…今日唯に隠してたのは、このことだったんだ。せっかくの誕生日を祝うならサプライズの方がいいかなって思ってたんだけど、逆効果でしかなかったよな。ごめん」

「そ、そんなことないよ! …確かにちょっと不安ではあったけど、私のために用意してくれたっていうのは、すっごく嬉しいから」

「…ならよかった。ほれ、そんじゃ蝋燭の火が消えないうちに吹き消してやってくれ」

「あっ、そっか。そ、それじゃあ……ふぅー!」


 ケーキの目の前で軽く屈み、勢いよく吐き出された唯の吐息は立てられていた蝋燭に思い切り吹きかけられ、その灯されていた火を消していった。

 全ての火が消える頃にはまた周囲に暗闇が戻り、窓から入り込むかすかな夕日が二人を照らすだけだった。


「…改めて、誕生日おめでとう」

「ありがとう! …でも、不思議な感じだな。こうやって他の人からお祝いしてもらえるのって」

「…? それって、どういう……」

「…昔はね、家族で誕生日パーティをやったりもしてたんだ。でも、中学生くらいからそれも無くなって……私の誕生日って夏休みの間に過ぎちゃうから、祝ってくれる人なんかいなかったし……もう、あまり嬉しいものでもなかったんだ」

「………」

「…でも、こうやって拓也くんがお祝いしてくれて、誕生日が特別な日なんだって思えたんだ。…本当に、ありがとう」


 その言葉を聞いて、納得がいった。

 なんで唯が、自分の誕生日が近づいても無反応だったのか。


 きっとそれは、彼女にとって何の特別さも無くなってしまっていたからだ。

 かつては家族全員で祝われた記憶だけを残して、それ以降は誰も祝うことも、関わることすらもなくなってしまった。

 そんな過去があったからこそ、誕生日は単なる生まれた記録に過ぎず、それ以上のものを求めなくなってしまったんだろう。


 …だったら俺がやるべきことは、その思い出を塗りつぶしてやることだけだ。


「なら、今日は存分に楽しまないとな。今ケーキを切り分けるからちょっと待ってろ」

「あっ、それくらいなら私がやるよ! 拓也くん、上手に切り分けられるの?」

「…やっぱ唯に頼むとするか。ナイフ持ってくるよ」

「ふふふ。任せておいて!」


 最後はちょっと締まらない雰囲気になってしまったが、それもまた拓也と唯らしい関係性だと言えるだろう。

 消していた部屋の電気をつけなおし、再び明かりが戻った時、そこにはいつもと同じような温かな空気が舞い戻っていた。




「っとそうだ。あれを忘れるところだった」

「…? 拓也くん、あれって?」


 切り分けられたケーキを食べながら談笑に浸っていれば、自分の部屋に置いておいたあの箱を忘れかけるところだった。

 本日のメインディッシュといっても過言ではないというのに、これで渡し忘れていたら本当に笑えない。


 自室に戻っていった拓也を不思議そうに眺めていた唯に声をかけられるが、それに返事を返すよりも早くそれを取りに戻る。

 机の引き出しの中には、唯に見つからないようにとしまっておいた以前に購入していたアクセサリーがラッピングされた状態で置かれていた。


 それを取り出し、手に持ってリビングに戻れば、未だに何のことかわかっていない唯が首を傾げていた。

 そんな様子に思わず微笑みも漏れるが、その感情は胸の内に押しとどめて彼女の正面に座り込む。


 そのまま彼女の正面に箱を持ち出し、その手にポンと手渡した。


「…これ、一応誕生日プレゼントとして選んだものだから……もしよかったら、もらってくれ」

「……え。い、いいの?」

「当たり前だろ。唯のために用意したものなんだから」

「そ、そっか。…開けてもいい?」


 その言葉に首を縦に振ることで了承の意を示すと、唯は緊張したように結ばれていたリボンを解き始める。

 それが一つ、また一つと解かれていくごとに閉じられていた箱の蓋は緩んでいき、それが完全に解かれた時……彼女の手によって、その箱は開かれた。


「………これって、ネックレス?」

「ああ。何にしようかずっと悩んでたんだけど……なんとなく、それが唯に一番似合いそうだなと思ってさ」


 取り出されたのは、あの店で購入したカスミソウのネックレス。

 白を基調とした色合いや美しさはこの場で見ても健在であり、それどころか唯の手にあることで更に美しさに磨きがかかっているように思えた。


 そして、そのネックレスを受け取った気になる唯の反応は……その瞳から零れ落ちた涙が、何よりも雄弁に物語っていた。


「だ、大丈夫か!? 泣くほど嫌がられるとは思ってなくって……」

「っ! そうじゃないの! ただ……すごい、嬉しくて……こんなに嬉しいって思えたのが本当に久しぶりで……気づいたら、涙が出ちゃってたの……」

「そ、そうか……」


 唐突に泣かれてしまったので、よほど嫌がられてしまったのかと焦ったが、唯の感想は全くの真逆。

 嬉しさのあまり感涙するという最高以上の反応を見せてくれた。


「本当に……本当に嬉しい…! こんなに素敵な日になるなんて思ってなかったよ…」


 そう言ってもらえたなら、拓也としても苦労した甲斐があった。

 その笑顔を見れただけでもあちこちに奔走して良かったと思えたし、唯にとっても今日はいい思い出として記憶に残してやることができただろう。




 …だが、まだだ。まだこれで終わりではない。


 拓也が事前に用意してきた仕込みは、次のものに全てがかかっているのだから。

 頬に流れ落ちた涙を指で拭っている唯を見守りながら穏やかな時間を過ごしていれば、次の瞬間、拓也の携帯に通知が来たことを知らせてきた。


 …来たか。


 それは、一つの合図。

 最後にして最大のサプライズの準備が整ったことを知らせる通知でもあった。


「…なぁ、唯。実は今から招きたい人がいるんだけど、来てもらってもいいか?」

「え……う、うん。それは全然いいけど……その人は誰なの?」

「そいつはちょっと秘密だな。…じゃ、ちょっと待っててくれ。すぐに連れてくるから」


 来訪者を告げる合図を確認した拓也は、既に玄関前にいるであろう()()()を迎える入れるために扉を開けた。

 その場で軽く挨拶を交わしたら、部屋に入ってもらいリビングへと向かってもらう。


 …これで、全てが決まる。

 彼女にとって幸せな結末にしてやれるかどうかは、これからの行動にかかっているのだ。

 リビングにつながるドアを開き、拓也の後に続く人物と共に入っていけば……少し緊張したように待機していた唯がいた。


「待たせたな。…どうぞ、入ってください」

「拓也くん、結局来た人って………………え」


 自分の後ろに続いて入ってきた人物を見た瞬間、彼女は全身を硬直させてその場から目を離さなくなってしまった。

 …それもそのはずだ。

 何せ、今日この場に俺が連れてきたのは───


「…久しぶりね、唯」

「………お母、さん?」


 ───唯の母、秋篠沙織その人だったのだから。


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