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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第六十四話 前日、そして当日


 無事にプレゼントも買い終わり、その後の日々はあっという間に過ぎ去っていった。

 今日は唯の誕生日の前日であり、既に時間は十九時を回っているが、まだ拓也の家にいる唯を見て内心緊張が収まらない。


 それもそのはずだ。

 なにせ明日に全てがかかっているのだから、否応なしに焦りは出てくる。


 今からじたばたしたところで状況が好転するわけではないことは理解しているので、冷静にいるように努めているが、やはり感情を完全に落ち着かせることはできない。


(…ケーキは明日取りに行くから問題はない。プレゼントも見つからない場所に保管してあるし、準備はできてる)


 気晴らしに何度やったかもわからない当日の流れの確認をしながら、動揺を悟られないようにする。

 ここまで隠しきれたんだ。明日だって大丈夫。

 そう思うことで、何とか精神を安定させて今日までやってきたのだ。


 ケーキに関しては、当日に受け取りに行かないと置いている内に駄目になってしまうだろうし、そのように店の方にも言ってある。

 懸念点としては朝方に受け取りに行くので自分が起きられるのかという点と、おそらく唯も朝からこっちには来るので、いかにばれないように持ち込むかというところだが……そこも俺の頑張り次第だ。


 そして今日に至るまで、唯本人の口から誕生日という言葉が出てきたことはない。

 拓也に遠慮しているのか、まさか忘れているのかは分からないが、少なくとも自分の誕生日に対してこだわりがないことは伝わってきてしまった。


 …ならば、明日は是が非でも成功させてやらないとな。


「ふあぁ……。ちょっと眠くなってきちゃったね…」

「もう時間も遅いからな。無理せず帰ってもいいぞ」

「うーん……そうさせてもらおうかな……」


 重たそうに下がっていく瞼をこすりながら、眠気に負けそうになっている唯に声をかける。

 前までは夕食を食べて少し休んだら帰っていたが、この前の件から少しでも長くこちらに居ようとするので、必然的に帰宅の時間も遅くなってしまっていた。

 それ自体は嬉しいのだが、やはり眠気を無理やり我慢してまでいることでもないので、帰らせた方がいいだろう。


「じゃあそろそろお邪魔させてもらうね……また明日……」

「ああ、また明日な」


 覇気のない別れを告げながら、リビングを出ていく唯を見送る。

 若干おぼつかなくなっている歩き方に不安も覚えるが、そう遠い距離でもないので大丈夫だろう。


 そのまま玄関を出ていき、部屋には拓也一人だけが残された状態となった。


「…俺も早めに寝ておくか。明日はやることが山盛りだ」


 まだ寝るには早すぎる時間だが、明日のことを考えれば今更何をしたところで手に着くわけもないし、そもそも不安を抱えた状態でベッドに入ったところで早々には寝付けないだろう。

 ならばひとまず布団で体を休め、寝れそうになるまでのんびりとした時間を過ごしていればいい。


「…案外、今日まで早かったな。もう少し長く感じるものだと思ってたけど」


 沙織から唯の誕生日について聞き、用意を整えてからの毎日は予想していたよりもはるかに早く過ぎ去っていった。

 それは期待感ゆえのものなのか、その先に待っていることへの不安なのかは判断もつかない。


 ただ、俺が本当に唯の幸せを考えるとするならば、この選択は間違っていないはずだ。



 …たとえその結果、唯と離れることになったとしても。

 後悔することになったとしてもだ。




 そうして夜は過ぎていき、俺たちは運命の日を迎えた。





     ◆





 ちゅんちゅんという鳥の鳴き声が窓を通じて聞こえてくる中、拓也の意識は呼び起された。

 ぼーっとする頭で時計を確認すれば、設定していた時刻よりも早いことが示されているので、どうやら早起きには成功したようだ。


「うー…ん。いつの間にか寝てたんだな……」


 全身を伸ばして凝った体をほぐせば、あちこちのコリがほぐされていくのが分かる。

 昨日はやはりというべきか、なかなかに寝付くことができずに長時間を過ごす羽目になった。

 あまりにも眠れないので無理やり目を閉じて寝る態勢に入れば、ようやく意識が沈んでいったのか気づかぬ間に寝ていたようだった。


「唯は……来てないか。そんなら好都合だ」


 見知った少女の気配は家の中には感じないので、さすがにこの早朝ではまだ自宅で眠っているのだろう。

 昨日は随分と眠そうにしていたし、それならば納得だ。


「まだ店も開いてないけど、支度してる間にちょうどよくもなるだろ。…着替えだけしておこう」


 事前に予約をしておいたケーキ屋の開店時刻はまだだが、適当に朝の準備でもしていればその時間帯にもなる。

 時間帯も早くから開く場所だし、とっとと受け取りに行ってしまおう。




「お邪魔しまーす。…って、あれ? 拓也くん、もう起きてたの?」

「あ、あぁ。なんか目が覚めちまってさ」


 七時ごろになると、いつものように唯が我が家にやってきた。

 それを出迎えた拓也を見て意外そうに眼を丸くしているが、それもそうだろう。


 基本的に夏休みの間は、この時間帯は拓也が起き始める時間だ。

 その間に唯は朝食を作ってくれていたりするので、彼女を朝から出迎えるということはほとんどできていなかった。


 だが、今日は拓也もばっちり支度を済ませた状態で出迎えていたため、驚かれたのだろう。


「そうだったんだ。ならお腹空いてるよね? すぐにご飯作るから!」

「あんま急がなくてもいいぞ。催促してるわけじゃないからさ」


 拓也の返答に一瞬疑問符を浮かべていた唯だったが、それもすぐに納得したようでキッチンに向かって行った。

 こちらとしては普段と違う行動を怪しまれないかとひやひやしていたので、助かる限りだ。




 そして朝食も食べ終わり、洗い物もあらかた片付け終わった後、拓也はケーキ屋が開店した時刻になったことを確認し、受け取りに行くための準備を整えていた。

 大きな荷物は必要ないので、軽く貴重品だけ持っていけばいいか。


「…よし。ちょっと今から出かけてくるから、待っててくれるか?」

「え? こんな朝早くからどこ行くの?」

「あー……少し散歩にでも出ようかと思ってな」

「お散歩に? 珍しいね」


 …もう少し、ましな言い訳の仕方はあったと思う。

 だが仕方ないだろう。俺にとっさの機転で上手い誤魔化しなんてできるわけもないし、下手に言いくるめようとすれば問い詰められてばれるのがオチだ。


「ああ、すぐに戻るから」

「ふーん……わかった」


 拓也の言動に数秒訝しむような視線を向けた唯だったが、追及までされるようなことはなく何とか切り抜けたと言っていいだろう。

 そうとなれば、早く目当てのものを受け取りに行ってしまおう。



 その後も、様々な苦難があった。

 受け取り終わったケーキを持ち帰り、唯に見つからないように冷蔵庫にしまい、さらに中を見られた時に箱を見てばれないようにと適当な紙袋に入れておいた。


 一度昼食を作るために唯が冷蔵庫を開けた際に「この紙袋は何か」と聞かれたが、そこも何とか言い訳を駆使して乗り越えた。

 さすがに怪しい出来事がこうも折り重なって続いているので、怪しむような目で見られたが、そこに触れるのは野暮かと思ったのか見逃された。


 …既にこの時点でボロボロなことは分かっているが、ここで屈してばれてしまうのは一番避けなければならない。

 唯も箱の中身を見たりしない限りはケーキだということまで気が付かないだろうし、時刻は夕方近くになってきている。


(連絡は…まだ来ていないか)


 拓也は時折携帯を確認しながら、()()()からの連絡が来るのを待っていた。

 それは今日一日の中でもとっておきのサプライズであり、拓也にとってもかなり大きな賭けでもあった。


 連絡が来たら予定を始めるつもりなので、その時まで何もせずに待機している、というわけだ。

 だが時間から考えても、そろそろ近くに向かっていてもおかしくない頃だ。

 その時はそう遠くはないだろう。


 あと、もう少しの辛抱だ。


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