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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第五十二話 抱える思いは


 その後も拓也たちは様々なプールを巡り、びしょ濡れになりながらも楽しい時間を過ごした。

 その途中で泳げない唯に泳ぎの指導を軽くするということもあったが、それはここでは省いておこう。


 なんにせよ、気づけばかなりの時間を過ごしていた四人はそろそろ上がろうかという話になり、帰宅のための準備をすることになった。

 それぞれ男女別の更衣室へと戻っていき、やはりと言うべきか拓也たちの側の方が早く支度も終わったようで、外に出てきた段階ではまだ唯たちは出てきていないようだった。


「だいぶ髪もべたついたな。シャワーだけじゃ落としきれなかったか」

「プールあるあるだよな。もうそこまでいったら家の風呂で洗い流すしかないだろ」

「そうだな」


 自分の髪をくるくるといじってみると、プールの塩素がまとわりついているのかベタベタとした感触が返ってくる。

 あまり気持ちのいいものでもないので念入りに落としてきたはずなんだが、洗いきれなかった部分があったようだ。

 帰ったらすぐに風呂に入った方がいいな。


「ところでよ……。今日一日通してどうだったよ」

「…どうってなんだよ。もう少し具体的に言ってくれ」

「言わなくてもわかるだろ? 秋篠さんとのことだよ! なんか心境の変化的なものは会ったか?」

「…それかよ」


 もはや呆れてくるほどに執着してくるが、ここまでくると大体何を聞かれるのかは分かるようになってきてしまった。

 要は自分と唯の距離が縮まったかどうかを聞きだしたいだけだ。


 だがそんなことを聞かれても話せるようなことなんて皆無だし、そもそも俺たちが仲の良い友人から進むことなんてない。

 だからこそ、こいつの要望には応えられない。


「なんもないよ。距離感だって前と同じだし、そこは金輪際変わらないだろうよ」

「マジかよー……。でもさ、距離感が変わらないっつっても、お前個人としてはどうなんだよ」

「俺の方って言われてもな……。そりゃあいつのことだから可愛いとは思うけど、それだけだ。少なくとも俺と唯じゃ持ってるものが違いすぎるし、釣りあいだって取れてないだろ」

「んな卑屈になる必要なんてないだろ。誰かを好きになることなんて自由なんだし、そこにいちいち釣りあいだなんて持ち込んでたらキリもないぞ」


 颯哉にはそう言われてしまうが、やはり唯に対して抱いているこの感情は、どちらかというと恋慕ではなく親愛に思えるのだ。

 好意的に思っていることは確かなことだが、それと恋愛感情が結びつくかと言われると首を傾げざるを得ない。


 少なくとも、この胸の内に抱く感情がはっきりとしないうちには、俺たちの関係が進むことも衰退することもない。

 もしそれを曖昧なままに進めてしまえば、後悔するのはきっと自分だし、それは相手も同様だ。


「慎重というか奥手というか……。高校生でそんなことまで考えてるやつなんてきっとお前くらいだぞ?」

「颯哉には言われたくねえよ。そっちだって先のことまで見据えてんだろうが」

「へっ、まあな」


 拓也がこうも恋愛ごとにおいて慎重さを求めるのは、最も近くにいた颯哉と真衣という前例があったから、というのもある。

 彼らはきちんとお互いがお互いを好き合っているからこそ付き合っているし、そこに学生特有の流れで交際を始めるということはなかったと聞いている。


 これまでの人生で築いてきた価値観も当然かみ合っているが、それを知っているからこそ、ぼやけた感情を抱いたまま交際を迫るなんて選択肢は考えられなかった。


「それに、唯の方は俺に気があるわけないだろ。前提としてあいつの感情が第一なんだからな」

「…いや、それに関しては何も問題ないと思うんだが」

「なんか言ったか?」

「……なんでもねーよ」


 なぜか呆れた様子で息を吐きだす颯哉に疑問を覚えるが、特に追及することもなく放っておく。


「…何かしらきっかけでもあれば変わるんだろうけどな。逆に言えば、それが無かったら意識は変わらないか」


 そんなぽつりとつぶやかれた颯哉の言葉は、拓也の耳に届くことはなかった。




「ごめんねー! 待った?」

「もう戻ってきたか。思ったよりも早かったな」


 颯哉と話しながら出口付近で待機していれば、そこまで時間もかからずに唯たちも出てきた。

 まだ濡れた髪が乾ききっていないのか艶やかな潤いが残っている気がするが、ひょっとして焦って出てきたのか?


「…まだ髪が濡れてるじゃねえか。ちゃんと乾かさずに出てきたのか?」

「え、えっと……待たせるのも悪いかなと思って……」

「そこは気を使わなくていいんだよ。髪は女の命なんだから、しっかり手入れはしておけ。…ほら、後ろ向いてくれ」

「え? う、うん」


 そう言うと、唯は大人しくこちらに背を向けてくる。

 拓也は自分の持っていた鞄から念のためにと持ってきていた予備のタオルを取り出し、彼女の髪を傷つけないようにと注意しながら拭いていく。


 すると唯はまさか拓也が髪を拭くとは思っていなかったのか、アワアワとし始めてやめさせようとしてくる。


「い、いいよそんなわざわざ! これくらい自分でもできるから!」

「あんま動かないでくれ。ぼさぼさになっちまうぞ」

「う……ねえ、タオル貸してくれたら自分でやるよ?」

「ここでお前に貸したら、絶対拭き終わってないのに『拭き終わった!』とか言って終わらせようとするだろ。そんなの却下だ。大人しく任されておけ」


 そうやって指摘してやれば、多少なりとも心当たりがあるのか押し黙ってしまう。

 拓也も女子の髪の手入れの仕方を心得ているわけではないので、可能な限り傷つけないように緩やかにすきながら拭いていけば、少しずつ彼女のロングヘアが乾いていくのが分かった。


 唯も次第にこの状況に慣れてきたようで、心地よさそうに揺れているところを見るに痛がったりしてはいないので、やり方も間違ってはいなさそうだ。



「…ねえ、何でプールから出てきて数十秒であんな雰囲気を作れるの? もう二人の世界になってるんだけど」

「俺が聞きたいくらいだっての。気づいたらああなってるからなぁ……」


 そしてその二人の様子を、時を同じくして出口から出てきた真衣が眺めながらぼやく。

 今拓也たちの周りでは何者も近づけないくらいに二人だけの空気が完成しており、それを気まずそうな面持ちで見守る颯哉たちという構図が完成している。


「…あれで付き合ってないって信じられるか? どう見ても恋人同士だろ」

「恋人っていうかもはや夫婦じゃない? 新婚ほやほやくらいの」

「だよなあ……」


 拓也と唯は気が付いていないのかもしれないが、颯哉たち以外にも周囲に人は当然のようにいる。

 それに構うことなくあんなことが臆面もなくできるのだから、あれでただの友人だと言い張る方が信じられないのだ。


 実際に今も周囲を気にすることなく二人だけの空間を構築してしまっているし、その被害も甚大だ。

 周りからは気まずそうに視線をずらしていたり、嫉妬の炎を燃やした者がいたりと反応は様々だが……彼らがそれに気が付くことは一切ない。


「…俺たちが言うのもなんだけど、ある意味天性のバカップルだよな」

「そうだね。まだ唯ちゃんも無自覚なんだろうけど、絶対好意的に思ってるのは間違いないし」

「そっちも自覚はなしか……。こりゃ苦労するな」

「主に周りの方がね……。まっ、私たちは私たちでお節介を焼くしかないでしょ!」

「結局それしかないんだけどな。こう……もどかしさが半端ないんだよ」

「わかる」


 遠目で無意識の内に距離を寄せ合う二人を眺めながら、漏れてくる溜め息をこぼしながら今後の苦労を思う。

 もう周りから見れば好意を寄せあっていることは確かなのに、それを本人たちが自覚していないというのは……非常にやり切れない感情で埋め尽くされるものだった。


「でもさすがにそろそろ周囲への被害が甚大すぎるし、止めたほうがいいんじゃないか?」

「確かに……拓也っていつか他の男に嫉妬で殺されるんじゃない?」

「…否定は難しいな」


 今も彼らの近辺を見てみれば、微笑ましく眺めているカップルや気まずそうに眺めている家族連れなんかもいるが、注がれる視線は嫉妬をはらんだものも多い。

 拓也と唯がお互いのことしか意識下に入れていないのでまだ気が付いていないのだろうが、あの感情渦巻く最中でそれだけの豪胆さを持っているというのもある意味尊敬できる。


 颯哉も友が見知らぬ誰かに刺されることなど望んではいないので、そうなった時には守ってやるかと考えながら、あの二人に声をかけるために近づいていくのだった。


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