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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四十二話 それぞれのお誘い


 美穂子が唐突に来訪し、そのまま帰宅していくという電光石火のようなあの日から数日。

 今日も太陽の陽光が照り付けている外の様子を窓から眺めながら、自宅の中で悠々と過ごしている二人だが、今日に限ってはいつもと少し違うところがあった。

 それは………


「くっ……あぁー……。これで一段落だな……」

「お疲れ様ー。頑張ってたもんね!」


 拓也が疲弊していることの正体。

 それは目の前に積み上げられた教材の数々が示しているように、ようやく夏休み中の課題を一通り終わらせることができたからだ。


 まだ八月にも入っていない段階であるというのに、全ての学習内容に手を付け終わった。

 手放しで称賛されてもおかしくないことであり、間違いなく褒められて然るべきことだろう。

 だが今の拓也からすれば、あまり快挙を成したとは思えていなかった。


「やっと終わった…って言いたいけど、それを言ったら唯なんて恐ろしいペースでやってたからな。あんま自慢もできないか」

「私は計算とかにはそんなに時間もかけないし、大体はすぐに終わらせちゃうから……。でもでも! 拓也くんだって十分すごいと思うよ!」

「学年トップクラスの成績を保持してる唯とは比べ物にもならないけどな……。でも確かに、これで肩の荷が下りたのも事実だ」


 そう。拓也も凄まじい勢いで課題を片付けていったが、何とこの目の前の少女はそれよりも数日は早く課題を終わらせてしまっていたのだ。

 それもこれも、彼女の地頭の良さがこれだけの差を生んでいるのだろうが、こうして自分よりも何倍も早く終わらせているのを見ると、あまり誇れる気分でもなかった。

 だがなんにせよ、気分が軽くなったのは確かだ。


 課題が残っているという重圧に晒されることはなくなったし、あとは自分の好きなことをやっていればいいというのは筆舌にしがたい達成感のようにすら感じられる。


「とりあえずお茶でも飲んで、体を休めて。あとはのんびりしたらいいよ」

「お、ありがとな。……ぷはっ、体に染みわたるな」


 唯から冷えた麦茶を渡され、一気にあおれば疲れた全身に染み入っていくような感覚を味わえる。

 部屋の中はエアコンによって快適な気温が保たれているが、夏特有の照り付ける日差しが暑さを予感させるので、その冷気も余計に強く思える。


「外は暑そうだもんねー…。ちょっと外出しただけで日焼けしちゃいそう…」

「家に引きこもってばっかりじゃ健康に悪いってのは分かってるけど、この分じゃますます出るのが億劫になりそうなんだよな」

「そうそう! 汗かいたら肌もべたつくし、だから嫌なんだよね…」


 気持ちはわかる。

 この季節は少し外に出るだけで大量に汗をかくし、熱中症にならないようにこまめな水分補給を心がけてはいるが、それも手間だ。

 春という比較的過ごしやすかった時期を超えてしまったからこそ、それと比較すれば過ごしにくいこの季節はあまり好きにはなれなかった。


 まだまだ気温も上昇していくばかりだというのに、これではいつか蒸し焼きになってしまいそうだ。

 そんなたわいもない雑談に花を咲かせていると、唐突に唯の携帯が着信を知らせてきた。


「あっ、電話だ…。ごめんね? ちょっと出てくる!」

「はいよ」


 携帯を持ちながらリビングを出ていく唯。

 日常生活の中で彼女が電話をしている場面をあまり見かけたことは無かったが……多分、相手は真衣だろうな。

 着信相手はそのあたりしか思い浮かばない。


 廊下にパタパタと出ていく背を横目に、拓也も一人になったリビングでテレビでも見る。


(今日も猛暑か……。嫌になるな、ほんと)


 ニュースでは今年最高の暑さなんて言葉が飛び交っており、それが余計に外の熱気を感じ取らせてくるようで気分も落ちてくる。

 あとで買い出しに行かなければならないので、その時のことを考えればそれは尚更のものだった。




 それから数分が経った頃。

 廊下で電話に応じていた唯もリビングに戻ってきたのでそちらに向き直せば、なぜか気まずそうな表情を浮かべた彼女の姿があった。


「その……拓也くん。明後日に真衣と遊びに行ってもいいかな?」

「明後日? それは全然いいし、てか俺に許可なんて取らなくてもいいぞ?」


 どうやら気まずかったのは拓也に断って遊びに行ってしまってもいいかどうかの確認を取るためだったようで、顔を伏せながらこちらを見ている。

 しかし、そんな遠慮することでもない。

 そもそも唯の予定に拓也が口を挟む権利なんてないし、せっかくの誘いを受けたというのなら歓迎するくらいだ。


 彼女にも彼女の付き合いがあるのだから、そこは好きにしていけばいい。

 大体拓也だって颯哉と遊びに行ったりもするのだから、それを認めないなんて不平等極まりない。


「でも、遊びに行ったら拓也くんのご飯だって作れないし……ちゃんとご飯食べられる?」

「そんくらいは平気だって。俺のことは気にせずに楽しんでこい」

「…うん。ならお言葉に甘えて、行ってくるね! ちょっと買いたいものもあるから今からお出かけしてくるよ」

「今からか? 熱中症にもならないように水分は持っていけよ」

「はーい! じゃあちょっと行ってきます!」

「気をつけてなー。…あ、何買うのか聞いてなかったけど……いいか、それは別に」


 出かけるためにも何やら準備が必要なようで、それを買うために颯爽と出て行ってしまった。

 どこへ行くのかも詳しくは聞いていなかったので、何を買いに行ったのかはさっぱり分からないままだったが……悪いようにはならないだろうし、わざわざ聞く必要もないか。


 自分の家に戻っていった唯がいなくなったことで、部屋が大分ガランとしてきたが……そんな折に、今度は拓也の携帯にも電話がかかってきた。


「んっ、誰だこんな時に……あぁ、颯哉か」


 画面に表示されている名前を確認すれば、そこには親しい友人が電話をかけてきたことが示されていた。

 居留守をする必要もないので素直に出てやれば、携帯の向こう側から快活な声が響いてきた。


『おーっす! 元気か、拓也!』

「…お前も元気そうで何よりだよ。あと声のボリュームを落としてくれ。うるさくてかなわん」

『はっはっは! すまんすまん!』


 全く反省の色が見られない友の声を聞きながら、拓也はソファに座っていた姿勢を直しながら会話に応じる。


「で? 今日はどうしたんだよ。電話してくるなんて珍しいな」

『ああ。まぁ、久しぶりに拓也の声を聞いてやろうっていうのもあるんだけどな。それとは別に今度遊びに行かねぇか?』

「遊び? いいけど、いつ行くんだよ」

『明後日の二十九日だな! 悪いがその日以外は無理だ!』

「…また急なもんだな。予定はないからいけるけどさ」


 明後日。それを聞いてまさか唯と日程が被っていることに少々驚くが、彼女は真衣と遊ぶと言っていたので無関係だろうと思い思考を打ち切る。

 スケジュールを振り返ってみてもその日は大した用事もないので、出かけること自体は何も問題ない。


 ただ一点、確認しておかなければならないこともある。


「それで? 遊びに行くって言っても、どこに行くんだよ」

『それはな……お前の家から少し離れた場所にプールがあるだろ? 実は親からそこのペアチケットをもらったんだよ。一緒に行こうぜ!』

「ペアチケットって……。そういうもんは真衣と……いや、何でもない」


 真衣とでも行ってくればいいだろう。そう言いかけてやめる。

 彼女は彼女でその日、唯と共に出かけるだろうし、予定が合わなかったのだろう。

 そうなれば消去法で誘えるのは拓也一人に限られるし、こうして電話をかけてきたことにも納得がいく。


「了解だ。二十九日だな? プール前で合流しよう」

『よっしゃ! 当日にキャンセルはなしだからな!』

「わかってるよ。じゃあまたな」


 電話越しに『またな!』という声を聞きながら、通話を切る。

 プールか……。誘いを受けておいてなんだが、水着を持っていたかどうか不安になってきた。

 どこにしまっておいたかだけ確認しておいた方が良さそうだな。




 ちなみに、その後家に帰ってきた唯は購入してきたものが入っているのであろう紙袋を大事そうに抱えてきており、何を買ってきたのか聞いても「な、内緒!」と言われるだけだった。

 …そんな恥ずかしがるようなものを買ってきたのか?


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