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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四十一話 帰宅と寂寥感


 騒がしかった昼食はあっという間に過ぎていき、そのまま後片付けも終わらせて食休みをしていると、美穂子が立ち上がり自分の荷物をまとめ始めた。


「んっ? 母さんもう帰るのか?」

「えぇそうね。まだ向こうでやらなきゃいけないことも残ってるし、あまり長居するわけにもいかないのよ」

「もう帰られちゃうんですか……? せっかくお話しできたのに……」


 来た際には仕事は一段落したと言っていたが、それでも残してきたものがあるようで長時間滞在するつもりもなかったのだろう。

 もとより持ってきた荷物も少なかったのかすぐにまとめられ、変える準備は早々に整っていた。


「もー! そんなに寂しそうな顔しなくても大丈夫よ! 確かに唯ちゃんと離れるのは名残惜しいけど、また会えるわよ!」

「ぐむっ…!」


 最初の出会いこそアクシデントに塗れたものだったが、それ以降は仲睦まじく美穂子と接していた唯は、彼女の帰宅に寂しそうにしていた。

 それを見た美穂子はまたもや母性を刺激されたのか唯を強く抱きしめ、その胸の内で撫でまわしている。

 苦しそうにもがいている唯は拓也の方へ助けを求めるように目線を向けているが、どうにもできないので耐えてもらうしかない。

 …母さんが帰るのはもう少し先になりそうだな。




「いやー、満足したわ! それじゃ、今度こそ帰るわね!」

「気を付けて帰れよ。事故とかに遭わないようにな」

「…お、お気を付けて……」


 直前までもみくちゃにされていた唯は、肩を上下させながら美穂子を見送っている。

 あれだけの愛で方をされていたら当然ではあると思うが、精神的な疲弊が相当量に達している彼女はあとで休ませた方が良さそうだ。


「拓也たちも、気を付けて過ごしなさいね……って、忘れるところだったわ」

「?」


 家を出ていこうとドアノブに手を掛け、開こうとする前に美穂子は何かを思い出したかのように踏みとどまった。

 そして玄関前にいる唯にずいっと近づき、こっそりと耳打ちをする。


「…拓也のこと、お願いね。色々と悩んでても周りに頼らずに抱え込んじゃうだろうから、支えてあげてね」

「…はい。もちろんです!」


 その返事を聞いてふっと笑みを浮かべ、今度こそ出発する。

 隣にいた拓也は小声だったので内容は聞こえなかったが、彼女らの様子を見る限り悪いことではないだろうと思い、今聞き返すのはやめておいた。


 扉が閉まる頃には部屋に静寂が戻り、先ほどの騒がしさが嘘のように感じられるくらいだった。


「…行っちゃったね」

「あぁ。でもそう遠くないうちにまた来るかもしれないし、そんな長い別れでもないだろうけどな」


 母さんの突拍子もない行動力を考えれば、また連絡もなしに来たとしても不思議ではない。

 それに唯の存在をひどく気に入ってもいたので、その可能性も十分にありえそうなのが怖いところだ。


「ていうか、結構騒がしかっただろ? 悪かったな。母さんのスキンシップに付き合わせたりして……」

「全く気にしてないよ。私もああやって気兼ねなく接してもらえて嬉しかったし……優しい人なんだろうなって思ったから」

「唯の場合は優しいというより、甘やかしてたっていう方が適切な気もするけど……」

「ふふっ。確かにそうだったかもね。でもそういうのも新鮮だったし、楽しかったから全然オッケーだよ」


 美穂子は他人との距離を測る際に、まずは一旦押してから引いていくというスタイルであるので、そういったコミュニケーションが苦手な者からすれば話しにくい相手になるのだろう。

 拓也は長年一緒の時間を過ごしてきたことでそのあたりは分かっているが、初対面の唯なら多少なりとも緊張したところだってあったはずだ。


 それでも、実際に会話を重ねたうえで仲が縮まったというのなら……それは喜ばしい限りだろう。


「にしても母さんの態度は何とかしてほしいもんだがな……。あんだけベタベタされる身にもなってほしいもんだ」

「うーん……。そんなに嫌な感じはしなかったけど、拓也くんとのスキンシップはまた違うの?」


 そう言われてこれまでの過去を振り返ってみるが、あまりいい思い出でもない。

 大抵は向こうから一方的に構ってきたのをどうにかしようと躍起になっていただけであり、家族との団欒とでも考えればいいのかもしれないが、あいにくそこまで広い器でもない。


「昔は色々とされてきたからなぁ……。ハグなんて当たり前だったし、それこそ他にも諸々あったよ。…まぁ今はその対象も唯に移ったみたいだけど」

「えっ、そうなの!?」


 まさか自分がターゲットにされているとは思っていなかったのか、驚愕した様子でこちらを見てくる。

 しかし、あの動向を確認した感じでは美穂子の興味は唯に向けられていると断言できるし、そのがっつき方も拓也以上のものにさえ思える。


「母さんって俺が生まれてすごい喜んでたらしいけど、本当は娘も欲しかったみたいなんだよな。…気を使わせないように、あんま聞かされなかったけどな」

「そうだったんだ……」

「そっ。だから疑似的なもんとはいえ、唯を見てテンションが振り切れたんだろうな。そのくらいの勢いはあったし」


 彼女にしてみればはた迷惑な話ではあるが、実際は違ったとしても義理の娘のような存在として出会った彼女は、あの母にとってとんでもない掘り出し物だったのだろう。


「多分これからも何かと構ってくると思うぞ。すまんが、俺の分も含めて頼んだ」

「拓也くんの分もされるの!? そ、それはちょっとダメじゃないかな…? その……家族の触れ合う機会を奪っちゃうみたいになっちゃうし……」

「俺はそんなこと気にしないし、むしろ助かるんだけどな。さすがに高校生にもなって母親にベタベタされるのは勘弁してほしいし、それを唯が補ってくれるなら大助かりだ」

「…なんか腑に落ちないんだけど、それってもうどうしようもないんだよね?」

「残念ながらな」


 そう。こっちがどう言ったとしても、美穂子が構うと決めた以上はストッパーなんてないのだ。

 正確には父さんがブレーキ役として挙げられるが、あの二人がまとめて来るとなるとまた別の疲労が溜まってくるので、結局は諦めるしかない。


 拓也の返答を聞いて、受け入れるしか手段が残されていないと悟った唯は、がっくりと肩を落とす。

 傍観者である拓也の側からすれば、母親と唯の絡みも少し微笑ましくさえあるのだが、やはり当事者ともなると抱える疲労も段違いなものだということも知っているので同情してしまう。


「まぁ俺もフォローはするからさ。一方的に押し付けることはしないよ」

「うぅ……それはありがたいけど、胃が痛くなりそう……」


 励ましの意も込めて背中をポンポンと叩いてやれば、腹部を押さえながら項垂れてしまった。

 母さんもどんなに気分が高揚していても、最低限の遠慮くらいはわきまえているだろうし、引き際のラインくらいは心得ているはずだ。

 あまりにも彼女に負担がかかってしまうようだったらやめさせるべきだし、本来ならそんな重圧を背負う責任だってないのだから、そこは念頭に置いておくべきこと。


「…そういえば、さっき母さんに耳打ちされてたけど、何を言われてたんだ?」

「え? あー、あれね」


 負担のかかる内容続きになってしまっていたので、話題を切り替えようとして聞いたのは、先の妙な行動のことだった。

 いきなり目の前で小声で話していたと思ったら、笑顔で唯がそれを了承していたのだから気にもなる。

 無理やり聞き出そうとまではいかないが、教えてくれるのなら聞いておきたいと思っていたのだ。


「言ってもいいけど……。やっぱりやめた! 言わないでおくよ!」

「なんだそりゃ……。俺には言いにくいことなのか?」

「そうじゃないんだけどね。ただ…女の子には秘密があるものなんだよ?」


 口元に人差し指を添えながらウインクをし、まるで小悪魔をイメージさせてくる蠱惑的な笑みは彼女の普段の印象とは全く異なるもので……不覚にも、心臓が跳ね上がってしまった。


「……そうかい。なら無理にとは言わないよ」

「うっふふ! ねえねえ、今の仕草どうだった? グッときちゃった?」

「…ノーコメントで」

「えー! それはずるいよ!」


 感想を欲しがっていた唯には悪いが、今の精神状態ではまともな返答もできそうにない。

 …言えるわけないだろう。思わず魅惑されそうになったなんて。


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