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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第百六話 知人への暴露


 拓也が唯から想定外の不意打ちを食らい、それに対してお返しだと言わんばかりに放った言葉で彼女がオーバーヒートするということこそあったが、概ねはそのまま順調に進んでいった。

 颯哉のサポートに真衣が回ったということも良い方向に働いたのか、次第にやる気を上げていった颯哉は徐々に勉強に身を乗り出していった。


 まぁ大方の予想通り、その途中で勉強をほっぽり出して二人でいちゃつこうとしていたので、その度にこちらが止めに入らなければならなかったわけだが、もう慣れたものなので思うこともない。

 …果たしてこれは慣れて良いものなのかどうかは判断が難しいところだが、今はどうでもいいだろう。


「はぁー! やっと一段落ついたな!」

「まだ全部の範囲を網羅できたわけじゃないから、安心はできないけどな。ひとまず範囲の中でも優先度が高いものに手を着けておけば後々楽にもなるだろ」

「それでも助かったわ! 手伝ってくれてサンキューな!」

「…前の二の舞になるのは御免だからな。今の内から手伝った方が、俺としても気苦労を抱えずに済む」


 夏休み前のテスト勉強のように、またもや拓也の家に泊まり込みで勉強会をすることになればこちらの負担も増えてしまうので、そうなるくらいなら今から手を貸して苦労を分散させた方がいい。

 そう判断してのことでもあったが、颯哉はそんな細かいことは考えていないようだった。


 一応こいつも以前の反省を経たからこそ、こうして学ぶ姿勢を見せているんだし、一概に否定もできないけどさ。


「まあまあ。とりあえずそっちも終わったみたいだし、もう帰るでしょ?」

「そうだな。これ以上残る理由もないし」


 あれからある程度時間が経ったこともあってか、教室内には拓也たち四人以外に誰もいない。

 耳を澄ませばグラウンドの方から生徒の声が聞こえてくるが、少なくともこの近くには誰一人として残ってはいないだろう。


 そしてここまで付き添ってくれていた真衣から投げかけられた疑問に素直に返せば、納得したかのように頷いている。

 拓也も颯哉との勉強が終わればもとよりすぐに帰るつもりだったので、ここで引き留める理由もない。


「…ならさ、ちょっと拓也に聞きたいことあるんだけど少し時間いい?」

「え? …珍しいな、お前が俺に話なんて」


 用事は済んだので、いざ帰ろうという雰囲気になったところで真衣から誘いを持ち掛けられた。

 これまでにも彼女から話題を振られることこそ幾度かあったが、今のように真剣な表情を浮かべながら誘われるのはほとんどないことだったので、少し興味を引かれた。


「別にいいけど、ここじゃダメなのか?」

「どうせなら少し離れたところの方がいいかな。…ごめんねー、唯ちゃん。少しだけ拓也借りて行ってもいい? あっ、もちろん変なことはしないから安心してね!」

「へ、変なことって……そもそも、私に許可なんていらないよ?」

「そういうわけにもいかないよ! こういうのはちゃんと飼い主に許可を取っておかないと!」

「おい、人をペット呼ばわりするなよ」


 会話の流れの中で何だか聞き捨てならない言い草が聞こえてきた気がするが、真衣がそれを気にする様子はない。

 それどころかむしろ、当然のことだというような表情でこちらを見てくるくらいのものだった。


「いやだって、拓也ってもうほとんど唯ちゃんがいないと駄目みたいなものじゃん。だったら飼い主でもあまり変わらないかなーって」

「……否定も難しいな」

「拓也くん!?」


 真衣のふざけた発言を即座に否定してやろうと思っていたのだが、大人しく聞いていればあながち完全に否定しきれないのも事実だった。

 実際、拓也は日々の生活の中で家事の面でも唯の世話になっているものは多いし、何よりも彼女の料理には完璧に餌付けされてしまっている状況だ。


 そんな最中で唯から引きはがされるようなことでもあれば、まず間違いなく自分は自堕落な生活に陥ることになるだろう。

 そういった事情も合わせて考えれば、確かに拓也は唯に飼いならされていると言えなくもないかもしれない。


 しかし、もう一方の当事者である唯はその意見に納得がいかなかったようで、頬を膨らませながらぷんぷんと怒っている様子だった。


「むうぅ…拓也くんはペットじゃないし……そ、そんな危険な関係になるつもりもないもん! …だ、大丈夫だよね……?」

「…いや、落ち着けって。あくまでも例えばの話だから」


 何やら一連の流れに困惑してきてしまった唯が擁護しようとしてくれているようだが、そのテンパった状態ゆえか全くフォローにつながっていない。

 …あと、なぜそこで顔を赤くするんだ。一体どんなことを妄想したんだ…?


 そんな聞くのも少し怖いような気もする好奇心が沸き上がってきそうになるが、それに従えば場が混沌になることは避けられないだろう。

 ゆえにその好奇心は一度胸の内にしまっておくことにして、今はこの状況を落ち着かせることに尽力することとする。


 幸い唯もすぐに冷静さを取り戻してくれたおかげで、そこまで時間をかけずとも元の空気感に戻っていった。

 …その代償として、自分の口走ったことの危うさを理解した唯が教室の隅で真っ赤にした顔を両手で覆いながら悶えるという犠牲もあったが……あれに関しては、そっとしておいた方が賢明だろう。


 何だかこのほんのわずかな時間でどっと疲れてしまったが、ようやく真衣と話す環境も整えられた。

 どんなことを聞かれるのかは未だに不透明だが、彼女ならば悪いことにはならない……はずだ。


 そのまま教室を出て少し進み、廊下を歩いて残してきた二人の気配がかすかに感じられるかどうかといった辺りまで離れたところで、突然こちらに振り返ってきた真衣から気になっていた質問の内容が明かされる。


「…ねぇ、拓也さ。最近心変わりするようなこととかあった?」

「…心変わり? どういうことだよ」


 どこか遠回りなようにも思える問いの仕方。

 予想していた内容とは大幅に異なる内容が飛んできたことに若干訝しむような返事を返してしまったが、その返答は真衣も想定していたようですぐに付け加えるように補足をしてくれた。


「あぁいや、別に何かを疑ってるとかそういうわけじゃないんだけどさ。…なんというか、最近の拓也が唯ちゃんを見るときにいつもと見る目が違うなーって感じたんだよね」

「…なるほど?」

「そうそう。だから何かあったのかなって思ったんだけど……私の勘違いだった?」


 てっきり何か小言でも言われるのではないかと少し身構えてしまっていたので、真衣から伝えられた言葉を理解するのと同時に何だか拍子抜けしてしまったような気もしてくるが言いたいことは分かった。

 つまり、真衣は拓也の日々の言動の中で唯に対して接する際の感情の機微から違和感を感じ取り、そこから読み取れた対応の違いについて聞き出そうとしているのだろう。


 それは把握できたが……どう返事をしたものか。


 真衣が感じていた違和感に関してはおおよその察しは付いている。

 おそらくは、拓也が唯に対して告白をしようと決意をした時から表出してしまっていた気まずさから発露した緊張感が原因だろうし、そうだと教えてやれば彼女も納得するだろう。


 …だが、それを教えるためには真衣にも唯へ告白をする予定があるということを伝えなければならない。

 別に身内同士なら教えたところで何も問題はないし、何よりも真衣は拓也にとっても大切な友人だ。


 張本人にバレてしまうならともかく、彼女ならば話したところでさほど問題にはならない……はずだが、やはりそうとは言っても感情はまた別の話だ。

 情けないことだと自覚はしているが、どうしても唯への想いを真衣の目の前で明かさなければならないというのはどうしても羞恥心が沸き上がってきてしまう。


 ゆえに口にすることを少々躊躇ってしまうのだが……そうも言っていられない状況なことも確かだ。

 これ以上隠していたところでいずれは真衣にもバレてしまうことでしかないし、それ以上に拓也自身が彼女に隠し事はしたくないと思ってしまっている。


 これまでにも迷惑を掛けられたことも多々あったが、それと同じくらいに背中を押してくれた友人に誠意を示しておきたいと、そう思った。

 だからこそ、この場で真相は話しておきべきことだろう。


「…いや、勘違いってわけでもないけど……その前に、誰にも話さないって約束してくれるか?」

「ん? そりゃ拓也が言い触らされたくないって言うなら誰にも喋らないよ。それこそ、唯ちゃんにもね」

「……そうか。ありがとな」


 その一言は誰よりも友人である拓也の意思を尊重してくれたもので、信頼してくれているからこそ伝えられたもの。

 その瞳を片目だけ閉じながら揶揄うようにして口にされた言葉ではあったが、その奥に嘘がないことだけははっきりと理解できた。


 ならば今度はこちらの番だ。

 念のためにと周囲に誰もいないか確認だけして、自分たち二人以外に気配も感じられないことを把握すれば意を決して話題を切り出す。


「実はな……今度のクリスマスイブに唯に告白しようと思ってるんだ。だから多分、真衣が感じた心変わりってのはそのことなんだと思う」

「……え?」

「驚くのも分かる。今まで黙ってたことだしな。…ただ、できればこのことは唯には黙っててほしい」


 未だに伝えられていなかった事柄を真衣へと正直に話せば、彼女は驚いたように、呆気にとられたように目を丸くしながら言葉を詰まらせてしまった。

 その気持ちは理解できる。ただ、その動揺に付き合っていれば他の誰かが通りがかってしまうかもしれないので先に概要を全て話すことを優先した。


 …それから数秒の間、ポカンとしながらもたらされた情報の量に処理が追い付いていないといった様子の真衣の姿を眺めていたが、その硬直も次第に解けてきたようで顔を見上げながらハッとした瞬間、明るい声が近くの廊下に響き渡った。


「…す、すっごいじゃん! 拓也、今の話本当!?」

「うおっ!? …あぁ、全部本当だ。ただ、声のボリュームだけ落としてくれないか?」

「あっ、ご、ごめん……」


 興奮したように声を荒げて今の言葉が真実かどうかを問いただしてきた真衣だったが、そのボリュームが予想以上のものだったので落とすように言えば素直に従ってくれた。

 …大丈夫だとは思うけど、今の声は唯に聞こえてないよな……?


 教室からはかなり距離があるので問題ないとは思うが、それでも少し心配になってしまいくらいには今の発言には声量が込められていた。


「…これくらいなら大丈夫かな? それで拓也、唯ちゃんに告白するって言ってたけど…それは冗談でもないんだよね?」

「それに関しては本気だ。もう覚悟も決めてるしな」

「…そっか。なら私の方から言うこともないね。にしても告白かー。いよいよって感じがするなー……」

「…何でお前の方が感傷に浸ってるんだよ」


 告げた言葉が真実であることを口にすれば、その一言で真衣も納得したようでしたり顔で頷いている。

 その反応は別にいいのだが……何でこいつは「ここまで長かったなぁ……」みたいな雰囲気を醸し出しているのか。


「いや、私と颯哉がどれだけ拓也のことを見守ってきたと思ってるのさ。しかもその間はずっとやきもきさせられることが続くし……そりゃこんな反応にもなるって」

「…ちょっと待て。その言い方だとずっと前から俺の想いに気づいてたみたいな感じになるが……」

「気づいてたに決まってるじゃん。というか、あれで隠せてると思ってたの?」

「ぐっ! …別にいいんだけど、そう言われるとこう胸に来るものがあるな」


 何だか以前にも颯哉からこんな話題を振られたような気がするが、自分はそんなにも分かりやすいものなのだろうか。

 これまでに話してきた人物全員から己の態度がバレバレだったと伝えられれば、さすがに響くものもあった。


 …やっぱり、自分の感情を抑えるように心がけた方がいいかもしれないな。


「まあそれは今はいいよ。…とにかく、唯ちゃんに告白するって言うなら私も全力で応援してるし、できることがあるなら協力もする」

「…そう言ってくれると助かる。けど、これに関しては俺一人で頑張りたいから気持ちだけ受け取っておくよ」

「そっかそっか。なら、後は結果を大人しく待つだけだね。……拓也、頑張りなよ?」

「分かってるよ。色々とありがとう」


 真衣から彼女なりの激励を受け取り、これまでと変わらない態度で自分の背中を押してくれたことには感謝しかない。

 不意を突かれての暴露にはなってしまったが……結果的には真衣にも明かして良かったと思える形で締めることができていたのだった。


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