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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第百四話 誘いの行方


 沙織との電話も無事に済ませて戻ってきた拓也は、部屋に入るのと同時にその行動を察知していたらしい唯から声が掛けられた。


「もうお母さんとの話は終わったの? 随分早かったね」

「そこまで大きな内容でもないからな。沙織さんがすぐに対応してくれたっていうのもあるけど」


 唯には沙織と電話をしてくることを事前に伝えていたので、拓也が帰ってきた姿を見てそれが一段落したと察したのだろう。

 その予想は大当たりなので、拓也も特に否定することなく返事をする。


 そうすれば、唯も薄く微笑みを浮かべながらソファへと座り込んだこちらへと視線を移してくる。


「…言いたくなかったらそれでいいけど、お母さんは何て言ってたの?」

「ん? ああ、そんな言いづらいことでもないから大丈夫だよ。話も唯がこっちに来ても大丈夫なのかの確認をしたくらいだし、あとは……そういえば、俺の実家に行くとき沙織さんが送ってくれるらしいぞ」

「えっ、本当?」


 その情報は唯にも寝耳に水だったようで、呆気にとられたように驚いた感情を顔に表している。

 その気持ちはよくわかる。

 拓也も実際に本人から聞かされるまでは全くそんなことを想定していなかったし、ましてや忙しい中こちらの用事を優先してくれるなんて夢にも思わない。


 しかし、現実として沙織の方から申し出てくれている以上、それに甘えておくのが今回は正解なんだろう。

 口酸っぱく言われた通り、まだ自分たちは子供なのだから、周囲の気遣いは素直に受け取っておけばいいのだ。


「本当だよ。…なんというか、あの人らしい心遣いだよな」


 何度か交流を重ねる中で分かってきたことだが、沙織は非常に細かいところまで気を配ってくれている。

 それこそ、最初の頃はどこまでも淡々とした様子に戦々恐々としてしまったこともあったが、それは単なる誤解でしかなかった。


 あの人が冷静な態度を貫いているように見えるのは、あくまでも関わりの薄い者に対する防波堤のようなものでしかなく、心を許している相手には当てはまらない。

 第一印象である冷たい態度がどうしても先行してしまうのでなかなかにわかりづらいが、こうして会話を積み重ねてくれば対応もまた柔らかいものに変化しているのはやり取りの中でもよく伝わってきた。


 …口調こそそのままだが、それ以外の点では拓也も沙織とそれなりに打ち解けることができているのかと思うと、また嬉しいものだった。


「ふふっ。お母さんも拓也くんのことは気に入ってるみたいだからね。それもあるんじゃない?」

「沙織さんが俺のことを? ……うーん。実感が湧きづらいけど、そうだったらいいな」


 普通なら自分の母親と友人が連絡を取り合っていることに思うところもありそうなものだが、それは唯の常識からは外れているようで、むしろ上機嫌になっているくらいだ。

 実の娘である彼女の口からそう語られると真実味も増してくるが、険悪になるよりはそちらの方がよほどいいので、拓也としてもこの距離感を維持したいものだ。


(いずれにせよ、これで懸念することはなくなった……あ、そういえばまだやることがあったな)


 やるべきことは全てやったので、ソファに身を預けながら一息つこうとした時、ふとまだやらなければいけないことが残っていたことを思い出した。

 焦ってやるほどのことでもないが、早いに越したこともないので、なるべく早めに聞いておいた方がいいか。


「…唯。ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」

「聞きたいこと? いいよ、何でも聞いて!」


 隣で座っている唯に話しかければ、彼女は拓也に呼びかけられたことが嬉しかったのか満面の笑みを浮かべている。

 そんな無邪気な様子に拓也も口元が綻ぶが、今はこちらが質問をしている側なのでそちらに意識を割く。


「まだ先のことなんだけどさ……クリスマスイブに予定とかあるか?」

「クリスマスイブ? …どうだろう。多分無いと思うけど……」


 拓也が確認しておきたかったことは、これだ。

 彼女へと想いを伝えると決めた日でもあるクリスマスイブだが、そもそもその日に唯を誘えなければ何の意味もない。


 ゆえに時間に余裕こそあるが、可能な限り迅速に予定は把握しておきたかった。


「…他の人から誘われることはあるけど、それも全部断ってるからね。クリスマスはせっかくだしケーキを焼いてみようかなって思ってたけど……それくらいかな?」

「この時期から誘いがあるのか……人気者は大変だな」

「あはは……誘ってくれるのは嬉しいけど、さすがに知らない男の人と二人きりっていうのはちょっと怖いからね。…あ、もちろん拓也くんは別だから!」


 どうやら、拓也が想定していたよりもかなり早い段階で唯の争奪戦は始まっていたようで、既にクリスマスに遊びの申し込みをいくつもされているらしい。

 彼女の人気っぷりとクリスマスという特別なイベントの影響を考えれば分からないでもないし、そこに希望を抱くのも分かるのだが……普段はほとんど関わらないのに、こういう時に限ってしつこく誘ってくる者もいるんだとか。


 唯とお近づきになりたい心情は痛いほど分かるが、それを実行する勇気があるなら普段の日常から彼女とのコミュニケーションを取る努力をした方が建設的だと考えてしまうのは、拓也が捻くれているからだろうか。


 …まぁそれは今はいい。

 危うく唯の予定を先に埋められてしまうところだったので内心で冷や汗もかくが、幸いまだ誰の誘いも受けていないようだしチャンスは残っているようで安心した。


 …それと、他の男子とは違って拓也と遊ぶことは別だと言ってくれたことに胸がグッときてしまったことは、ここだけの秘密だ。


「まぁ、予定は今のところはないかな。多分いつも通りここで過ごすことになると思うよ。それがどうかしたの?」

「あぁいや。そんな大したことでもないんだが……実はこの前、イブにクリスマスツリーのイルミネーションが駅前でやるって話を聞いたんだよ。だからもしよかったら一緒に見に行かないかって思ったんだけど……」

「行くっ! 行きたいですっ!!」

「うおっ!? そ、そうか…そう言ってもらえると嬉しいけど、そんな即決していいのか?」


 今回の本題でもあった出かけの誘いを持ち掛ければ、シュバッ! という音がしてきそうなほどに早く反応してきた唯が、目を輝かせながら了承の意を示してきた。

 拓也としても断られる可能性は低いと予想していたが、さすがにこれだけ前のめりになってくるとは思わなんだ。


「もちろんだよ! だって、また二人でお出かけできるんでしょ? だったら断る理由がないもん!」

「お出かけって言っても、イルミネーションを見るだけだからそんな長い時間外出するわけでもないぞ?」

「いいの! 拓也くんと二人なら、どんなことでも楽しいからね!」

「……そっか。なら、イブは二人で出かけよう」

「うん!」


 今日一番の満面の笑みを浮かべながら、嬉しそうなオーラを全開にして頷いてくる唯。

 その様子を見れば拓也の誘いを嫌がっていないことは一目瞭然であり、直前までほんの少し緊張していた心も自然とほぐれていくようだった。


 ひとまず約束を取り付けることができたことにほっとするのと同時に、もう後には引けない状況になったことを自覚する。

 もうどれだけごねようと、あとは行動に移すしかない。


「…あ、そういえばイルミネーションって何時から始まるの?」

「予定では十八時かららしい。だからそれまでは家にいる感じかな」

「そっかぁ……なら、夜ご飯は帰ってから食べよっか! クリスマスだし、腕によりをかけてご馳走を作っちゃうよ!」

「それは楽しみだな。期待してるよ」

「任せて!」


 …けれど、今は。今だけは。

 まだ遠い日への期待に、胸を膨らませていても許されるだろう。


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