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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第百三話 了承のわけ


「…それで、唯に外泊の許可を出したって聞いたんですけど、本当なんですか?」

『本当よ。そこで嘘をついても仕方ないでしょう?』

「それはそうなんですけど……ちょっと信じられなかったので」


 玄関先の手すりにもたれかかりながら拓也が電話を繋げている相手は、唯の母親である沙織だった。

 普段はメッセージを送ることこそあれど、直接話し合うことなどほとんどなかったので非常に珍しいことでもあるのだが……何しろ、展開が展開だ。


 電話越しという距離こそあるが、それでも直に聞き出さなければ上手く言い逃れすることを許してしまいそうだという考えも多少なりともあったことも関係している。

 いずれにせよ、この人がどうしてこちらの実家に唯が泊まることを許可したのか、その経緯を聞いておきたかった。


「もうそちらで決めたことに俺があれこれ言うのもあれですけど、良かったんですか? 年明けの数日とはいえ、唯も沙織さんと一緒にいた方が嬉しかったんじゃ……」

『…あぁ、そのことね。別に私も気を遣ったわけではないわ。明確な理由があったからこそ、あの子をあなたに任せることにしたのよ』

「……理由、ですか?」


 わざわざ自分が唯と過ごせる時間を削ってまで拓也たちへと託してくるくらいなのだから、相応の事情があるのではないかと思っていたが……それは外れていなかったらしい。

 しかし、どれだけ考えてもその肝心の理由に心当たりはなく、さらに疑問符が増えていくだけだった。


『確かあなた達の予定では、二日から四日の間でそちらにお邪魔するはずだったわね?』

「え、えぇ。冬休みの期間も考えると、そのくらいがちょうどいいかと思って」


 わずか三日間の帰省ではあるが、そこまで大きなことをする予定もないので日程としてはその辺りで十分のはずだ。

 唯が共に行くことを考えれば、少し物足りなくなるかもしれないけどな。……主に母さんが。


 けれど、それが唯が赴くことを許した話につながってくるのだろうか。

 聞いた感じでは、そこまで関係があるようには思えないが。


『…その日取りだけど、私の方も仕事が重なってしまっているのよ。だからどちらにせよ、あの子の傍にはいてあげられないわ』

「……あぁ、そういうことだったんですね」


 非常に短い説明ではあったが、その一言で全てを察することができた。

 心なしか沙織の声も気落ちしているように聞こえてきたが、心情を考えれば決して気のせいではないだろう。


 つまり、経緯としてはこういうことだ。

 最初、美穂子は拓也の実家に唯も来ないかと誘いを持ち掛けたが、彼女の方も沙織と過ごす予定だったので、即答はせずに確認を取ることにした。


 しかし、そこで沙織側に問題が発生していた。

 当初は唯と過ごすために空けていた休みにどうしても外せない仕事が入ってしまい、数日間とはいえ彼女を一人にしてしまうことになってしまったのだ。


 沙織に非がないことは明らかであるし、突発的なことでもあり避けようのない事態ではあったが……どうにかできないかと苦悩していたところで唯自身から提示されたのが、今回の宿泊の誘いだったわけだ。

 まさに渡りに船でもあったそれに、面倒をかけてしまうことになるため申し訳なく思いつつも、他に思いつく手もないため受け入れることにした、というわけだ。


「そういうことならまぁ……事情は分かりました。だけど、沙織さんはそれでよかったんですか?」

『私の方は問題ないわ。確かに元旦の時間は減ってしまったけど、もともと年末に休みを確保してあるから、そっちであの子と過ごせるもの』

「あ、そうなんですね」


 てっきり拓也は、年末年始の間も唯と沙織が会えなくなってしまったのかと思い込んでいたが、そうではないようで少し安心した。

 普段は仕事で忙しいと聞いているし、こういった時くらい二人の時間をゆっくりと楽しんでもらいたいものだ。


 …そうなると、大晦日の辺りは拓也は一人で過ごすことになりそうだが、それは別にいいか。

 せっかくの家族水入らずのひと時なのだ。

 そこに部外者である拓也が入り混じっては、おちおち楽しむこともできなくなってしまうだろう。


「…そういうことだったら、こっちから言うこともないです。いきなり電話したりしてすみませんでした」

『構わないわ。連絡をしてきたのだって唯を気遣ってくれたからこそなんでしょう? だったら私から文句なんてあるはずもないもの』

「……そう言ってもらえると助かります」


 いくら言葉で誤魔化そうとしたところで、沙織にはこちらの意図などお見通しだったらしい。

 実際に拓也が電話をかけたのも、彼女の家族の時間を減らしてしまったのではという危惧からのことだったので、それは正しい。


 現実は決してそんなこともなかったので完全に無駄な心配に終わってしまったが、本人の口から語られたことで不安材料も取り除けたので一安心である。


『あぁそれと。あなたと唯がそちらのご実家に向かう時は私が車で送っていくわ。それくらいの時間の余裕はあるはずだから、そのつもりでいてちょうだい』

「えっ、いいんですか!?」

『…そんなに驚くことでもないでしょうに』

「いや、まさかそこまでしてもらえるとは思ってなかったので……あと、そちらの手を煩わせることになってしまうんじゃないか、と……」


 携帯の向こう側で少し呆れたような声が響いてくるが、それも致し方ないだろう。

 そもそも、唯も一緒にいるとはいえ、多忙であると思われる沙織がこちらのためにそこまで時間を割いてくれるなど想像もしていなかったのだ。


 それが蓋を開けてみればこの対応の仕方だ。

 驚くなと言う方が無理があるだろう。


『大した手間のかかることでもないし、あなたが気にすることでもないわよ。…これでもあなたには感謝しているし、その返礼とでも思ってくれればいいわ』

「…そんなに大きな恩を売ったつもりもないんですけどね」

『私にとっては大きなことだったというだけよ。そもそもあなた達はまだ子供なんだから、こういう時くらいは大人の力に頼っておきなさい』

「……はい。ありがとうございます」


 そんなことを滔々(とうとう)と話されてしまえば、こちらに拒否するなんて選択肢はなかった。

 確かに申し訳なさが消えたわけではないけど、ありがたいことに変わりはないし、それに唯もいるんだから余計な手順が省けると思えば感謝しかない。


 ここは素直に受け取っておくべきだろう。


『私から伝えておくべきことはそれくらいね。まだ何かあるかしら?』

「いえ、俺も聞きたいことは聞けたので、これ以上のことはないですね」

『そう。なら申し訳ないけど、もうそろそろ仕事に取り掛からないといけないから切らせてもらうわね』

「あ、はい。お忙しいところ本当にありがとうございました」


 そうこうしている間にも気づけばそれなりに時間も経っていたようで、向こうも忙しくなってきたようだ。

 もともと少し会話ができれば十分だったし、沙織の多忙な環境を思えばこうして電話の対応をしてくれているだけでも感謝することだ。


 なんにせよ、もう拓也としても電話を繋げている理由はないのでこの辺りが止め時だろう。

 そう思って最後に軽く挨拶だけしようとすれば……向こうの方から声が響いてくる。


『それじゃ、唯のことをよろしくお願いするわね。…勝手なことだけど、傍にいてあげてちょうだい』

「…ええ。言われなくともそうするつもりですよ」


 そんな拓也の一言にふっと微笑んだのか。

 顔は見えなかったが、なんとなくそんなような気がした。


 そしてその言葉が最後だったようで、いつの間にか途切れていた電話を示す携帯をポケットにしまいながら、目の前の自宅へと入っていく。

 話した時間はわずかだったが、目的は果たせたし上々だ。

 …何だかそれ以上のこともまとめてやってきたような気がするが、少なくとも悪いことではないので良いだろう。


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