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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第百二話 互いの羞恥


 そこからさらに数日が経過し、拓也も帰省の一件が頭から抜け落ちかけていたところで唯から返答が返ってきた。

 しかし、その内容は全くこちらが予期しているものではなかった。


「お母さんに聞いてみたんだけど、行っても大丈夫だって! だからせっかくだし、お邪魔させてもらうね!」

「……え、それ本当か?」

「うん!」


 誘いを持ち掛けておいた立場でありながら情けないことだが、正直今回に限っては断られて当然だと思っていた。

 だってそうだろう?


 唯からしてみれば家族と過ごす時間はかけがえのないもののはずだし、沙織さんの心情を考えても唯のことを心から大切に思っているあの人なら、そっちを優先するのが当たり前だというのに。

 …だが、見たところ唯がこっちに気を遣ったという雰囲気でもなさそうだ。


 となると、本当に沙織さんから許可が下りたんだろうが……一体なぜ?


 そんな思考が脳内を駆け巡るが、いくら考えたところで答えなんて出るはずもない。

 結局、こういったことは本人に聞くのが一番手っ取り早いのだ。


「…後で沙織さんに詳しいことを聞いておくか。まぁ、唯が行けることは分かったよ」

「はーい……ってちょっと待って! もしかして拓也くん、お母さんの連絡先知ってるの!?」

「え? あ、ああ知ってるけど……言ってなかったっけか?」

「初耳だよ!」


 そういえば、夏休みのあの騒動の中で沙織さんとは連絡先を交換していたが、それを唯に明かした覚えはなかったかもしれない。

 時折近況を聞かれたりもするので意外とこまめに連絡を取り合ったりもしているのだが……確かに、彼女にも伝えておくべきことだったかもな。


 やり取りしていることはそれほど大したことでもないんだが、それでも気になるものであることは違いないし。


「…ちなみに、お母さんとどんなこと話してるの?」

「そんな大きなことでもないぞ? 唯の調子はどうとか、迷惑とかかけてないか、なんてくらいのことだ」


 話していることとしては、子供を心配する親の範疇を出ないことばかりだ。

 それこそ、唯が心配していることなんてほとんどないはずだが……。


「本当に? お母さんから何か変なこととか聞いてないよね?」

「変なことって言っても……あ。いや、やっぱり何でもない」

「今のは何もなくないよね!? もう、お母さんからどんなこと言われたの!」


 思い当たることなんてないと断言しようとしたのに、こういう時に限って余計なことを思い出してしまった。

 だが、思い出してしまったとしてもそれならば隠し通せばいいだけだというのに、こういったことを素直に態度に出してしまうのが拓也の悪い癖でもあった。


 そしてそんな反応を見せられた唯は、自分の知らぬところで己に関わる情報共有を成されていたと知って焦ったように詳しいことを聞き出そうとしてくる。

 別にそんなおかしなことでもないのでそこまで焦らなくてもいいのだが……とりあえず、肩をガクガクと揺さぶってくるのはやめてほしい。


「わ、分かった。言うから揺さぶるのを一旦やめてくれ!」

「むっ……それなら、はい。それで、どんなことを言われたの?」


 虚偽の申告は許さないといった雰囲気をその身にまといながら、こちらに圧を放ってきている唯。

 この様子だと、適当に言い逃れしようとしたところですぐに話題を戻されて終わりだし、誤魔化そうとしても速攻で見破られるだろう。


 …あまり自分の口から言いたいことでもないんだが、正直に伝えるしかないか。


「その……沙織さんから唯が怖いものには苦手意識があるから、そういったものは見せないようにしてやってくれって言われたんだよ。確実にトラウマになるからって……」

「………? …っ!?」


 少し前に沙織とのやり取りの中で伝えられてきたこと。

 おそらく、彼女からすれば自分の子供が苦手なものには気を付けてやってくれという意図で教えてくれたのだろうが……それは、肝心の子供からしたら隠したいことだということまでは考えが至らなかったらしい。


 その大きな瞳をぱちくりとしながらもたらされた言葉への理解に時間がかかっていた唯だったが、その中身を把握したと同時に一瞬で顔を赤くしていった。

 拓也としては彼女が怖いものを苦手としていることは既に把握している事実だったので、そこまで大事でもないだろうと思っていたのだが、やはり唯としては知られたくなかったことなのだろう。


 …自分の母親から、仲の良い男子に対して苦手なものを教えられるという羞恥の連鎖を繰り広げられた彼女は、見ているこちらが可哀そうになってくるくらいにわたわたとしている。


「ううぅぅ……! お母さん、そんなことまで言わなくてもいいのにぃ…!」

「…俺が言うのもあれだけど、元気出せよ。苦手なものくらい誰にだってあることだろ?」

「そうだけど! …でも、恥ずかしいじゃん! 怖いものが苦手なんて、子供っぽいもん!」


 どうやら今の彼女は相当に羞恥心にやられているようで、耳まで真っ赤にしながらこちらを向こうともしない。

 怒っているのか照れているのかも区別しづらい反応を見せてくる彼女だが、このままでは埒が明かないことも事実だった。


「むうぅ…! 私だけ恥ずかしいところを知られてるのもモヤモヤするし、こうなったら美穂子さんから拓也くんの苦手なものを聞き出してやるんだから!」

「…いつの間にうちの母さんとの連絡手段を交換してたんだって言いたいけど……まぁ、それは今は置いておくよ」


 何やら唯の口から不穏な言葉が聞こえてきた気がするが、それは今追及したところでどうしようもないので、ひとまず保留にしておく。

 …母さんのことだし、前に来た時に交換していたんだろうな。

 連絡先を唯と美穂子が交換し合っていた場面なんて拓也に見覚えはないが、自分が見てないところでこっそりとしていたんだろうな。


 母さんの性格を考えればいらないことまで吹き込んでいそうだが、それに関しては後で本人に問いただしておこう。


「でも自分で言うのもなんだけど、俺の苦手なものってそんなにないぞ? 怖いものもそこまで嫌いじゃないし、パッと浮かべられるものでも思い当たるものもないしな」

「…な、なら、また美穂子さんから昔の拓也くんの写真を送ってもらうもん!」

「…おい待て。なんだその不吉な予感しかしない言葉は。そんなことしてたなんて初耳だぞ」


 拓也の苦手なものに関することについて話しているどさくさに紛れて、何やらとんでもないことをサラッと暴露された気がする。

 いくら何でもそれは聞き逃せないので、視線を鋭くしながらこちらから問い詰めてやれば、唯はしまったという感情を顔に出しながらなんとか誤魔化そうとしてきた。


「い、いや何でもないよ? そ、そんな写真を送ってもらったことなんてないからね」

「……それなら、せめて目を合わせて弁明してくれ。視線が泳ぎまくってるぞ」


 必死で話題を逸らそうとしているのはよく分かるが、言葉がしどろもどろになったり目線が泳ぎまくっているので見るからにバレバレである。

 唯が嘘をつけない性格なことは知っていたが、相変わらずこの手の状況が得意でないことは変わっていないらしい。


 …本当に、どんなものが送られてきたと言うんだ。


「…はぁ。正直に言ってくれたら怒りもしないから、素直に教えてくれ。母さんから何が送られてきたんだ?」

「……そ、そのー…小さい頃の拓也くんが公園で転んじゃって泣いてる時の写真とか、誕生日ケーキを口いっぱいに頬張ってる写真とかを見せてもらいました……」

「…マジかよ」


 気まずそうな雰囲気を纏いながらも具体的な内容を申告してきてくれた唯だったが、その中身があまりにも想定外のものだったこともあって思わず天を仰いでしまう。

 美穂子のやることなのでろくでもないことではないかと少し覚悟はしていたのだが……いくらなんでも、これは予想できるわけがない。


 友人に、それも想い人である唯に自らの過去を暴露されていたことを知った拓也は、恥ずかしいやら情けないやらで精神に甚大なダメージを負った。

 他の者からすれば特に恥ずかしがるようなことでもないのかもしれないが、やはり彼女の前では格好つけたいと思っている身としてはそういったことは極力晒したくなかったのだが、それも手遅れか。


「で、でも! すごい可愛かったよ! 今の拓也くんももちろんいいけど、やんちゃな頃の拓也くんも良かったもん!」

「……唯、それフォローになってないから」

「あ、あれ?」


 己の恥部を知られたことで傷を負った拓也を慰めようとしてくれたのか、唯も戸惑いながらも声をかけてくれたが、あいにくそれは今の彼にとって追い打ちでしかなかった。

 少なくとも、男に対して可愛いは褒め言葉ではないだろうし、それは拓也にとっても例外ではない。


 他でもない唯によって、過去の自分を可愛いと評価されたことで人知れずさらに傷を加えることになってしまったが……状況を考えれば今更である。

 なぜか唯と拓也の二人が羞恥に悶えるという、ある意味珍しい光景が繰り広げられた部屋では、彼らの賑やかな空気が広がっているのだった。




 …それと、一通り唯とのやり取りが落ち着いた後で拓也は美穂子にしっかりと苦情を入れておいた。

 勝手に人の写真を送るな、事前に確認をしてくれときつく言っておきはしたが……『なら、今度からは動画でも送りましょうかね!』なんて言っていたところを見るに、全く反省はしていないのだろう。


 まだまだこの先に待ち構えている苦悩を思うと溜め息が漏れてしまうが、それはまた別の話だ。


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